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 家に帰って玄関に入った瞬間、パタパタと階段を下りてくる足音が聞こえた。そして、妹の朝陽がひょっこりと廊下から顔を出した。

「兄貴、おかえりなさい!」

 朝陽はすばやくスリッパを玄関に並べ立て、サンキュ、と陽達は口々に言い、リビングへと入った。

「父さん達、外食に行ってるのよ。だから、今日は私が作ったの!」

 朝陽は得意げにそう言って、テーブルの上の料理を指差した。

 そこには、机からはみ出すほどに料理が並べられていた。匂いが津波のように押し寄せてきて、陽と夕陽は思わず呻き声を漏らし、半歩後ずさった。

 陽はそのまま逃げるようにして、自室に戻った。夕陽も、きっとそうだっただろう。

 朝陽の作った料理を全て平らげる訳にはいかない為に、逃げてきたのだ。そうして息を吐き、パソコンを開いた。

 すぐにお気に入りの小説サイトを閲覧する。そこにはなかなか趣のある作品が多く、どうやらそれらは年輩の方々が執筆しているらしく、陽はこのサイトを本当に気に入っていた。

 「本棚」に入っている作品が新たに更新されていたので、それを読み出す。そのまま没頭して何時間もパソコンにかじりついてしまうことが多いので、携帯のアラームをセットしておいた。

 そうして違和感を感じる箇所、作品の長所や、登場人物の性格など、学ぶべき点をメモしていく。そうしたことをするのは、陽もエッセイなどを書くことがあって、文章力を磨く必要があるからだ。

 良い作品を沢山読み、自分の糧としていきたいと思っていた。いずれは出版関係の仕事に就きたいと思っている。

 そうしてパソコンにかじりついていると、ふと作品のあとがきに意味深なことが書かれていることに気付いた。

 ――この作品を中応大学の山本和子に送る。

 陽の通っている大学がそれだった。そして、山本和子、という記述に、陽は息を呑んでその文字に見入った。

 どうして山本さんの名前が書かれているんだ? 陽は作者の紹介ページを開いたが、現役大学生・二十歳の男性、と書かれていた。ということはつまり、この作者も陽と同じ大学に通っている可能性がある。

 陽は何度もそのページを読み、しかしいくら目を通してもその意図するものは見えてこなかった。そうしてそのうちにアラームが鳴った。


 翌日、大学は休みだった。シフトもなく、陽は久々に休日を楽しむことにした。近くの海へドライブへ出かけ、母親の軽自動車を借りて二時間程使ってそこに赴いた。

 そんな中、妹の朝陽がずっと喋り通して、陽はそれだけで疲れてきてしまった。

「いい加減、静かにしてくれよ。何か曲かけてあげようか?」

「兄貴と喋ってるのが一番楽しいよ。せっかくの休みなんだから、話すことの何が悪いの?」

 可愛いことを言ってくれると思うが、もう高校一年生なのだから、その辺はわきまえて欲しいと思う。

「それで、誰か気になってる人はいないの?」

 さっきからその話題ばかりだった。

「だから、いないって」

「もう入学してから四ヶ月経つんだし、そろそろ彼女できてもおかしくないんじゃないの?」

「そんなこと言っても、周りはすごい人ばかりだし、とても僕じゃ釣り合わないよ」

 そう言って、陽は和子の顔を思い浮かべる。尊敬する先輩は今のところ、彼氏はいないようだが、それでもいずれ男性と付き合い始めても全くおかしくはないだろう。

「出会いはあったんだね。ならまだ見込みはあるぞ」

 朝陽はパーマのかかった髪の毛を玩びながら、最近聞いたという恋の十か条について話し始めた。

「ちなみにそれ、お前が考えたの?」

「尊敬する先輩から教えてもらった」

 正直、そんなことを教えてしまうのは、無神経だとしか言いようがない。それどころか、わざと面白がって嘘をついたのではないかと思う。

「兄貴なら、きっといい彼女ができるから」

 朝陽とそんな会話をしていると、ようやく海へと到着した。そのまま砂浜へと降り、朝陽は歓声を上げて波打ち際へと近寄った。

 陽はしばらく妹が遊ぶ姿を眺めていたが、その時、携帯に着信が入った。画面を見て陽は思わず体を硬直させる。

 和子からだった。メールを開き、そしてそれに目を通した。

 今から会えないかしら、と簡潔な文章が綴られていた。海に来ていることを返信すると、すぐにメールが返ってきて、近くにいるから行ってもいいかしら、とそこには記載されていた。

 陽は驚き、そうして妹を見遣った。朝陽は波打ち際へと座って貝殻を拾い集めている。彼女にそっと近づき、これから友人がここに来るかもしれないことを話した。

「それって女の人?」

 朝陽は目を輝かせながらそう言った。陽が苦笑しながらうなずいたので、「いいよ。これはチャンスだ」と陽の背中を思いっきり叩いた。

 陽は頭を掻きながら、待ち合わせをしましょう、と和子にメールを送った。

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