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オオカミに捕まった灰色うさぎ

恋愛過多企画に間に合わず、気分だけw

「ねぇ、おじさん、ひろってよ」

 灰色のうさぎが耳をぺたんとねかせてベンチに座っている。

「ん? 家出かい?」

 通りかかったオオカミは、投げやりな様子で見上げて来る少女に足を止めた。

「……家出だったら、よかったなぁ」

「送るよ、家はどこだい?」

 オオカミは優しく問いかけた。

「ないよ。みんな捕られて連れてかれちゃった。お父さんも、お母さんも、お兄ちゃんも、お姉ちゃんも、弟も、妹も。みーんな。帰ったら、誰もいなかった」

 オオカミは言葉を失った。

 うさぎは人気のある種族だ。奴隷としても、愛玩としても、食用としても。うまく生きなければ他種族から根こそぎ生活を奪われることがある。うさぎは繁殖力が高い。それ故に、保護すれば増えすぎて他種族を圧倒するため、狩られてしまったうさぎに対して対策がとられることは滅多にない。

「どこの種族にやられたんだい?」

 怖かっただろうに、せめてその種族とは顔を合わせずに住むように保護してやろうか。オオカミがそう考えた時だ。

「オオカミ」

 少女が答えた。

「え?」

 一瞬意味が分からずに聞き返したオオカミに、少女は薄く笑って彼を見た。

「オオカミだよ、おじさん。オオカミが、私の家族を捕ってった。ねえおじさん。私をひろってよ。そしたら私、家族とおそろい」

 笑っている顔から、ぽろぽろと涙がこぼれてゆく。

「じゃあ、私と来るかい?」

 オオカミはベンチの前に片膝をついてうさぎの少女と目を合わせる。

「私が君を、拾ってあげよう。だから……今からお嬢さんは私の物だ」

 オオカミの指先が少女の目元をぬぐった。そしてその小さな体をいとも簡単に抱き上げると、オオカミは灰色のうさぎを連れて夜道を歩き出した。


「食べるなら、痛くしないで」

 オオカミの腕の中でうさぎが震えた。

「痛くしないよ」

 背中をなでると、うさぎは甘えるようにオオカミの首に腕を回す。

 顔を首筋に埋め、震えている耳だけがオオカミの目に映る。

「顔を上げなさい。そんな風にすると、お嬢さんの可愛い顔が見えないじゃないか」

 オオカミがクスクス笑いながら耳もとでささやくと、震えていた耳がぴんと立つ。

「ねぇ、お嬢さん。もう若くもないオオカミの男が、寒空の下で震えている可愛いうさぎのお嬢さんに一目惚れをした話なんかしたら、君は信じるかい?」

 夜道を歩くオオカミの低く柔らかな声は、寄り添っているうさぎの耳にだけ優しく響く。

 オオカミの首に回された手に、ぐっと力が入った。

「おじさんは」

 震える小さな声がした。

「おじさんは、うさぎの小娘が、素敵なおじさんのオオカミさんに一目惚れをしたと言ったら、信じるの?」

「どうかな。その隠れた可愛い顔が見えたなら、信じられるのかもしれない」

 くすぐるように、オオカミはその頬をうさぎの耳に寄せる。

 うさぎは、オオカミの腕の中で、はにかむように、その顔を上げた。


 また今日も、うさぎが一匹、オオカミに連れ去られた。

 オオカミの腕の中で、大切そうに抱えられて。


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