7話︰隣町へ
「おはようございますおはようございます!8時です8時です!よく眠れましたか?わたしもとてもよく眠れ…」
……この目覚ましロボット、思った以上にうるさい。余計なこと喋り出すし。
時計を見る。針は『7時15分』を示していた。さすが半額。寝坊対策機能があるらしい。何日か先、箱で眠っている未来が見えた。
今日も今日とて暇な1日。なにかした方がいいのか。でもすることがない。勝さんも遊びと言ってくれたし、他の学生らも遊んでる。まだ村の知らないことも沢山あるだろうし、とりあえず出かけることにする。
海沿いの道を歩いているとバス停がある。誰かが立っていた。一昨日見た顔だ。
「おはよう。えっと、友華だっけ」
「あ、うん、おはよう」
「バスに乗ってどっか行くのか?」
「いや、ちょっと学校に用事で…」
にしては服装がラフすぎた。
「制服じゃなくて私服で行っていいのか?」
「えーと、まあ、ただ前まで行くだけというか、買い物というか、ショッピングモール行こうと思って」
「隣町にはショッピングモールあるのか」
「うん」
やけにいろいろ言いたくないそう。消極的なのは知ってたけど、これから同じ村に住むなら仲良くなっておきたい。
「なあ、俺も暇だしついて行っていい?」
「え!?くるの?………まあ、いいけど…」
「ありがとう」
あんまり歓迎されてもない気もするけど、少ししたら慣れてくるか。バスが来て中に座る。
「………」
「………」
会話が進まない。そもそも俺お喋りじゃないし。たまたま他の奴らが積極的に来てくれただけで俺自身が新しい環境にすぐ適応できるわけじゃない。
たまに少し喋っては静寂を繰り返し、ちょっとだけ気まずい20分が流れた。
「あれだよ」
「おお」
バスを降りるとすぐ目の前に巨大なショッピングモールがあった。街自体もかなり栄えているようで、車の出入りや人も多い。
「友華は何を買いに来たんだ?」
「えーとまあ…いろいろかな」
ショッピングモールを回る。始めて来る大きなショッピングモールには少しワクワクしてしまう。特に友華はみたいものがあるといった目的があるわけでもないと言っていたが、
「なあ、ゲームセンター行きたいのか?」
「えっ!なんで」
「いや、ずっとチラチラ見てたし」
ゲームセンターを通る度に見ていた。もしかして行きたいって言うのが恥ずかしかったのか。
「ゲームセンターいいよな。ワクワクするし」
「自由、ゲームセンター好きなの」
「ああ、好きだぞ」
「! わたしも好きなの」
急に目を輝かせて元気になった。
「ゲームセンター昔から好きなんだけどね、まだ高校生にもなってゲームセンターしに隣町まで行ってるって思われたらさ、子供っぽく見られる気がして」
「そうか?高校生だとしてもみんな行くと思うぞ」
「そうなのかな。とりあえず行こうよ」
ゲームセンターに入ると、友華はいろんな台をプレイしだす。ぬいぐるみやお菓子、キーホルダー。
「持とうか?」
「あ、ありがとう」
そしてそれらをどれも300円以内で取る。これがクレーンゲームのプロか。俺もいくつかプレイするが上手くいかない。
「あー取れなかったか」
「え、諦めるの?」
「だってなんか無理そうな気がするし。取れなくても楽しめたらまあいいんじゃない」
「…本気?」
友華が顔をしかめた。さっきまでの笑顔はどこに行った。そして熱く語り出す。
「ゲームセンターってね、お金を使っている時点でもうそれは勝負なんだよ」
「はい」
「より多く金を使わせる、景品を取らせないと考えてる店側と、より安く手に入れようとする客との駆け引きなんだよ」
「はい」
「そもそも取れなさそうなのは一度もプレイせずに見送ること」
「でも、アームのパワーとかわからなく無いですか」
「アームの部分を見たり、誰かがやっているところを観察する」
「なるほど」
その後もクレーンゲームとは何か熱く聞かされた。ゲームセンターについて女子高生に怒られる男子高生と恥ずかしい場面だったが、友華にもこんな熱くなれるほど好きなものがあると知れたのが嬉しかった。
「ごめん…なんか熱くなってた」
「いや、ありがたい公演だったよ」
その後もしばらくゲームセンターに居続け、最後はフードコートで晩御飯を食べて帰ることになった。昼御飯はクレーンゲームに夢中でお互いに忘れていた。
バスに乗って森岬村まで帰ってくる。夕方で空はオレンジ色になっていた。
「ありがとな、いろいろ案内してくれて」
「うん。またね」
バス停に着くとお互い逆に歩き出す。両手にたくさんの景品を抱えた友華は早足に恥ずかしそうに帰宅していった。朝会った時よりもずいぶん顔が明るくなっていたのが嬉しい。
家の前に行くと、勝さんが立っていた。
「お、ちょうど帰ってきたんか。こっちも今来たとこや」
「こんばんは。何かありましたか?」
「いや、飯のこととかちょいと心配なってな。これ、今日よう釣れたんや」
渡されたものを見ると味付けもされてある魚だった。量も結構ある。もう切られているので何の魚かは分からない。
「いいんですか、こんなに貰っちゃって」
「ええよええよ、それよりなんか不便とかないか」
「全然ないです。本当に何から何まで感謝してます。感謝してもしきれません」
「やからええんやって。この村のこと好きになってくれたらわしも嬉しいから」
「村も人もみんな好きになりました」
「楽しんでそうでなによりや」
勝さんが帰っていった。聖人にしか見えない。晩御飯はもう食べてしまったので魚は明日の朝に食べよう。
「8時45分にお前はセットしたからな」
目覚ましロボットに念押して布団に入る。
目覚ましロボットの横には今日クレーンゲームで取れたぬいぐるみを置いてある。