6話︰牧場
8時起床。ちゃんと起きれた方だろう。ゆっくりと朝ごはんを食べる。今日も何をしようか。とりあえず、家にいても何も無いだろう。公園でも行くか。相変わらずだらけた毎日を送っているな。
昨日遊んでいた公園に来たものの、誰もいなかった。まあみんな適当にぶらぶらしてるんだろう。神社にいけばのどかはいるのか。けど、たしか加奈実の家でもある牧場があるとか言っていた。そこに行ってみることにしよう。
10分ほど歩いていくと、牧場の看板が現れた。
『この坂を約5分』
加奈実って意外と不便なとこに住んでるのか。牧場だしそんなもんだろうけど、学校に通うとか考えればこの坂毎日はきついような。
そうこうしているうちに、牧場についた。
「広い…」
わかってはいたが、広大に広がる牧草地。端には小屋や家もある。でも、よく考えたら勝手に入っていいのだろうか。
「あのー何してるんですか?」
「うわっ」
いきなり後ろから声をかけられてびっくりした。そこには小学生くらいの子がいた。手には買い物袋を持っている。
「牧場に用ですか」
「用事というより、ただ何となく見に来ただけで、知り合いがここに住んでるとか言ってたから」
「あ、お姉ちゃんの知り合いですか?」
「お姉ちゃん?」
「加奈実」
「あ、たしかそう」
「そうなんですね、多分あの小屋にでもいると思いますよ」
加奈実の妹らしき人に連れていってもらう。小屋を覗くと、加奈実が居た。
「お姉ちゃん友達来てるよー」
「お、おかえりー。ん?あ、自由かー。遊びに来てくれたん?」
「暇だったし、牧場ってどんなのか見たくて。ここって勝手に入ってもいいのか?」
「一応ちょっとだけ直売所もやってるし、大丈夫ー」
「じゃあよかった」
小屋に入ると、独特な匂いがした。
「特に用事もなくここまで来たんでしょ?せっかく来たしさ、餌でもあげてみる?」
「え、いいの、やってみたい」
軽く覗きに来たけど、しっかり入ってきてしまった。ここに住んでる人達は接しやすくて、優しくて気楽でいられる。
「ここには何がいるんだ?」
「基本牛とか馬、羊だねー。鶏もいるけど」
「へー。世話、慣れてるんだな」
慣れた手つきで餌やりや掃除、乳絞りをこなしていった。ある程度やることが終わった頃にはもう11時になっていた。
「小さい頃から手伝っててさー」
横にいる馬に手を置く。その子とはもう親友なんだろうか。
「こいつ、今でも乗ったらすぐ落としてくるんだよ」
「ダメじゃん」
全然仲良くなかった。けど信頼感はもっている、そんな気がする。
「そうだ、乗馬やってみようよ」
「え、俺が?こんな話の後なんかしたくないんだけど」
「大丈夫大丈夫、優しい子もいるから」
そうしていろいろと準備をしてくれる。初めてだから、正直楽しみだ。
「よし、乗り方説明するねー」
加奈実が実演して乗ってくれる。加奈実にすごく懐いているこの白黒模様の大きな馬は、優しい顔をしている。動きも丁寧で、誰にでも優しくしてくれそう。
「はい、乗ってみよ」
言われた通りに乗ってみた。
「おー!乗れた乗れた」
思っていたより簡単に乗れて、姿勢も意外とフィットした。
すると馬がこちらに首を回して顔を見てくる。
「ブフン(何を乗れたくらいで)」
歯をむき出しにして鼻で笑ってきた。加奈実にだけ優しいのか俺に厳しいのか分からないがバカにされた気がした。加奈実のときはこんな顔も鳴き声もなかったのに。こいつ。
「ブフン(歩かせるなら早く歩かせろよ)」
そう言われた気がした。抵抗してみる。
「ブフン(やっぱ指示がないと動けないか)」
「ブフン(勝手に動いて落としてやろうか)」
「ブフン(落としてみろよ)」
「なに2人ブフンブフンしてるの」
加奈実に言われた通りに綱を動かす。
すると馬は聞いていたより早く走り出した。
「ブフン(落ちても知らないからな)」
「ブフン(そんなもんじゃ落ちねえぞ)」
だんだんスピードをあげたりしながら、なんとか落ちずに走り終える。なんだかんだこいつは乗りやすく走ってくれた。案外こいつとは仲良くやって行けるかもしれない。
「いただきます」
昼時になると、家で食べていきなよと誘ってくれた。妹と加奈実と3人で机を囲む。
「妹の森すみれです。今は小5です」
軽く妹とも挨拶をかわし、昼ごはんをたべる。
シンプルな焼きそばを作ってくれた。美味しかった。
「んー、何しよっか」
昼を過ぎると、一旦やることは終わりらしい。
「牧場広いし、散歩しながら案内でもしよっか」
「お、楽しそう」
「あ、暇だから私も行きます」
こうして3人で牧場内を散歩することになった。風の音以外は静かで、セミの鳴き声も聞こえなかった。天気も良く気持ちがいい。
入口から見ていたよりも牧場は拡がっていて、ところどころに羊もいた。途中小さな川と橋もあったり、のどかで居心地が良かった。
「ここからの景色がいいんだよー」
崖沿いから眺めると、森岬村が一望できる。灯台やスーパー、堤防も見える。よく見えなかったが、堤防には誰かが立っている気もした。
ある程度牧場の中を回り終わった。
「んー、もう特にすることもないねー」
後ろを見ると、あの白黒の馬がいた。
「なあ、もうちょっと馬乗ってもいいか?」
「いいよいいよー、楽しかったか」
馬に近づく。
「ブフン(落ちても知らんぞ)」
その後も乗馬を続けた。振り落とされそうになりながら。ブフンブフン言い合いながら、気がついた頃にはもう日が落ちそうになっていた。
「今日はありがとな」
「またどうぞ」
「またいつでも来なよー。遊びに行ってるかもしれないけど」
2人が入口まで見送りに来てくれていた。すると、その後ろから大きな影が現れる。
「ブフン(…また来いよ)」
「ブフン(お前、名前はなんだ)」
「ブフン(……ポチ男だ。妹にそう付けられた。)」
かわいそうに。馬は変な名前を付けられても何も抵抗できない。
「じゃあな、ポチ男」
「あれ、名前言ってたっけ」
2人と1頭に見送られて、坂をおりていく。また今日も新たな友が二人増えた。
―帰り、スーパーにて
「目覚ましロボット?」
セール商品の中に目覚ましロボットが置いてあった。音楽や声をランダムに流してくれるらしい。いらないな…。のり弁を買って店を出る。
家に着いてご飯を食べ、風呂に入ってからすぐベッドに入る。今日も動き回って疲労が溜まっていた。部屋の電気を消す。
「おやすみ、目覚ましロボット」
横にはセール品だった目覚ましロボットが置いてある。