5話︰7月23日
朝起きると、もう10時を過ぎていた。
「…寝すぎたか」
「よう寝るやつやな」
起きると勝さんがいた。
「なんか問題とかないか見に来たけど、まさかまだ寝てるとは思わんかったわ」
「すいません、昨日帰るのが遅くなって」
「楽しんでそうでなによりや」
「ほんとに、何から何までありがとうございます」
ええねんええねんと手を振って勝さんは帰っていった。楽しんで過ごしと言ってくれたが何をしたものか。家にいても何も無いし、とりあえず外に出よう。またあいつらに会うかもしれない。けど、
「お腹減ってるな」
朝ごはんを食べていない。確か昨日海沿いの道の奥にスーパーがあったような。行ってみることにした。
途中までは昨日と同じ道を歩いていく。少し楕円の形になった海岸をひたすら歩く。よかった、堤防にはもう昨日のやつはいなかった。朝までしているかもと少し心配していた。
スーパーに着く。そこまで大きくはないが、大抵のものは揃ってそうだ。客層はお年寄りが多い。いくつかパンと飲み物を買って店を出ようとする。すると、見たことある顔が通った。
「あ、自由じゃん」
「お、ごはらか」
「何買いに来てるんだ?」
「朝ごはんなかったから買いだめとこうと思ってな。お前は何買うんだ?」
「…勝負に負けて、飲み物買ってくる担当になっちまった。 あ、そうだ、お前も来いよ。みんな集まってるし」
どうやらどこかで集まっているらしい。ごはらの、買い物に付き合い、そのまま一緒に行くことにした。
「戻ったぞー」
「お、帰ってきた帰ってきた。ん、ついでに自由も買ってきたのかな」
公園に来た。そこには知った顔ののどかと筒井もいる。それとあともう1人。
「……」
じっとこっちを見てくる。言葉にしなくても誰だこの人って言葉が顔に書いてある。とりあえず挨拶だけ。
「えっと、2日前くらいからここに住んでます。野津山自由です」
「あ、どうも」
「…どうも」
「この子は細谷友華。今日はたまたまいるけど、よく一人でぶらぶらしてるんだよ」
「どうも」
ここに来て初めておとなしい性格の人にあった。この人もどうやらおなじく高二らしい。
「森はいないのか」
「なんか牧場の手伝いが忙しいってさ。てか、この村の人たちお互いに苗字で呼ぶこと少ないし、加奈実って呼んでいいと思うよ」
「そっか。そういや牧場に住んでるとか言ってたな。で、今何してたんだ?」
「…暇してた」
「することないしな」
「モルックだ」
「特になんにもしてないよ」
「1人だけ意見違うけど」
雄一だけ何か言った。
「ジュース買いに行く人決めるためにやっただけだろ」
「なんでだよ!昔は一緒に世界行くって言ってただろ!」
「人口少ないから目指しやすいって話だろ」
「なんだ?モルックて」
「木投げるだけだ」
「下から投げて倒すだけ」
「なんでそんな事言うんだよ」
雄一以外はモルックに冷めている。雄一はブツブツいいながらブランコを漕ぎ始めた。
「ここってさ、娯楽施設とかないのか」
「んー、隣町まで行けばあるけど、この村にはほぼないね」
「ゲームセンターとか一個あればいいのにと思うのにな。まああっても、こんなところのは大したことないだろ」
「適当にだべって、時間潰してゴロゴロしてるのが続くなあ」
「そんな感じなのか」
「まあ適当にいろいろしてるし、楽しいけどね」
「観光地にしようとしてる訳でもない田舎だから、静かで散歩とかは気持ちいいけどな」
「公園とか誰かの家で集まるのが日課だね」
暇そうな生活だけど、すごく羨ましい。こんな、一生続いていきそうな友情が本当に羨ましかった。
「公園にいても暑いし、家くる?」
「お、いいのかのどか。サンキュ」
「俺も行っていいのか?」
「そりゃあもちろん」
神社への階段を上る。着いた頃には汗だくだった。クーラーの効いた部屋で5人ゴロゴロと過ごす。時間を無駄にしている気がするが、何も嫌な気にはならない。
「すごろくでもする?」
「お、やるか」
すごろくなんて久しぶりで懐かしい。いつも通りのボード、自分の駒、そして…見たことない形のサイコロが出てきた。よく跳ねるゴム状のサイコロで、面が異様に多い。
「これが森岬村伝統の、18面式ゴムサイコロです!」
「いや何これ」
「普通のサイコロだと飽きるしな」
「ま、俺が1回振ってみるから見てな」
そういうとごはらは、壁に向かってポーズを構え始めた。友華が机の下に隠れている。何が始まるんだ。
―その瞬間。どごーん。大きな音とともにサイコロが壁にぶつかる。サイコロは跳ね返り、部屋の中を高速で飛びまわる。そして―
「ぶはっ!」
雄一の顔に直撃した。雄一が倒れる。
「おー、8か。まあまだいいほうか。あ、ちなみに今のは雄一の顔に当たったから、雄一は次の番パスだ」
「なんだその心と体両方を削るルールは」
「自分の番以外興味無さそうにする奴がいたから、そっからこんなルールできちゃって」
「私だ…」
机の下から声が聞こえた。友華が原因らしい。
変なルールだが、実際夢中になってしまっていた。顔に当たったが、衝撃があるだけで案外痛くない。
他にも、反復横跳び手押し相撲とか、自分たちでルールを作って遊んでいるらしい。馬鹿なことをして過ごしているうちに、時間もだいぶ遅くなってきた。
「んーまあそろそろ帰るか」
「そうだな」
「そうだね」
のどかに階段の下まで送ってもらい、その日は解散した。
「晩飯、買って帰らないと」
スーパーによって弁当を買って帰った。
のり弁を異様に推しているスーパーだった。
そして家で―
「…足裏が痛い」
足つぼスクワットのせいだろう。体を鍛えていかないと遊びにもついていけないかもしれない。筋トレしないと。耐えろ、俺。
12時を回る前に眠りにつく。
…モルック、ちょっとしたかった。