20話︰お祭り⑤
花火が終わり、屋台も閉まっていく。祭りも終わりぞろぞろと人が駅やバス停の方へ向かっていく。俺達もその流れに沿って動く。
「これ、帰りのバス乗れるか?」
「帰りは毎年こんなだよ」
「最悪電車でも帰れるけどまあまあ歩くからねー」
「これなかったらお祭りもっと好きなのに…」
「まあでも、これもお祭りって感じがしていいんじゃないですか」
「おーすみれちゃんいい考え方だねえ。ポジティブでいいねえ」
「えへへ」
バス停に着くと案の定大勢並んでいた。途中で見た逆方面のバスは結構空いているのに、森岬村方面だけは何故か並んでいる。それだけ俺らの方面から来てる人が多いということか。
並び始めて20分、ようやく先頭に近づいてきた。しかしそこでまたもや尿意が襲いかかる。今日に限ってタイミングが悪すぎる。
「ちょ、急いでトイレ行ってくるわ」
「え、また?5分後にもう来るよ」
「変なもん食って腹壊したんじゃねーか?」
「いや、小の方だから」
「とりあえず、ショッピングモールの入口ちょっと行くとあるから、走って行ってこい」
「乗り遅れたら置いてくよー」
「おう、最悪もう1人でも帰れるぜ」
もれない程度に全力で走る。ふう、なんとか間に合った。
さて、戻ろう。
「あれ、、どっちから来たっけ」
「こっちか」
「多分こっちだな」
「こんなとこ通ったっけ」
進んでいくと出口をみつけ、急いででる。すると前にバス停があった。よかった、合ってたんだ。
だがバスの扉は今にも閉まろうとしている。
「すいません!乗ります!」
何とか間に合いギリギリで乗った。扉が閉まる。おそらく中にあいつらも乗ってるだろう。
「………」
ない。いない。あいつらがいない。何人か座っているだけでそこにはあいつらの姿がなかった。
てか待てよ、あんな並んでたのになんで急にこんな空いてたんだ?……もしや
「……………逆!?」
思わず大声を出してしまい、周りの目が集まる。
でもそれどころではなかった。
空いていたバス停。通った覚えのない通路。あいつらがいない。確定なのか、これ。
いやでも待て。別のバスなだけで同じ方面の可能性がある。窓の外を見てみよう。お祭りのやっていた川の橋を渡っている。
うん、終わった。逆方面に進んでいるのが確定した。とりあえず次のバス停で降りるか?それか次に止まるもっと大きい街で降りたほうがいいんじゃないか?
「あの……何してるんですか?」
「あ、騒いですいません、実は―――あれ?」
前に座っていた人から声をかけられた。だが、顔を見るとなんか見覚えある子だ。
「さっきお祭りでぶつかった子…だよね?」
「はい、そうです」
「1時間前くらいに帰ったんじゃないのか?」
「あ、いや、えっとー、お腹痛くてトイレに籠ってて」
「1時間もか?」
「はい」
「そ、そう。可哀想に」
「……で、急に叫んだりどうしたんですか」
「実はな、俺は今乗るバスを間違えて逆方向に進んでいる」
「えぇ。方向音痴なんですか」
「最近ここらへんに来たばっかであんま分かってないんだよ」
「引っ越したてきたんですか」
「まあそんな感じ。とりあえず次のバス停で降りて戻ろうかなと思ってる」
「いや、もうバスないですよ」
「そうか。じゃあ……え?」
「あなたの家方面も田舎ですけど、こっち側も十分田舎ですからね。こっちから街の方へのバスはもうないです。この時間のバスで最後ですから」
「なるほどね。うん、うん、………え、俺終わった?」
野宿か?警察に保護されるんじゃね?いよいよやばくなってきた。
「電車で帰るしかないですね」
「あ、そっか電車あるのか」
忘れてた。そういや電車もあるとか加奈実が言ってた。
「なかったらどうしてたんですか」
「歩くのも怖いし、野宿だったろうな」
「えぇ…」
この子の家の最寄りのバス停で一緒に降りた。そこから近い駅があるので、そこまで送って行ってくれるらしい。明らかに俺より年下の女の子に助けて貰っている。男としてかなり情けない状況だ。
しばらく歩くと、駅が見えてきた。
「着きましたよ」
「おお!光だ!ありがとう」
「よかったですね帰れて」
時刻表を見るとまだ電車は残っている。けど本数はやはり少ない。次来るのは…45分後か。
「ところで、これどこで降りたらいいかわからんのだが」
「どこに住んでるんですか」
「えーと森岬村ってとこ」
「それならこの駅ですね」
「知ってるのか」
「まあ…ここら辺の人ですし」
それもそっか。とりあえず、もう暗いしこの子には帰ってもらった方がいいだろ。遅すぎると親御さんも心配するだろうし。
「ほんとにいろいろありがとな。助かった。でももう暗いし、お前はそろそろ帰った方がいいんじゃないか」
「あ…で、でもあと45分間1人だと暇じゃないですか」
「? そのくらい全然待つぞ。あんまり遅いと親に怒られるかもよ」
「いや……、はい、それもそうですね。じゃあ最後にこれだけ」
カバンから紙を取りだし、何かを書き出した。
「これ、降りてからの地図です。そこの駅、最寄り駅といっても結構町までの道で迷いやすいので」
「おお、親切にありがとう」
「では、私は帰ります」
「うん、気をつけて。ほんとにありがとな」
「はい。では」
少女は静かに去っていった。真面目で丁寧な子だった。そんな子を俺は怒鳴らせたのか。我ながら終わってる。
貰った地図を見る。
「いや絵上手いな」
子供が書いた地図とは思えないくらい綺麗だ。こんな簡易的な地図なのにここまで丁寧に書いてくれたのか。
とりあえずありがとう……………あれ、
「名前って聞いてなかったっけ」
結構な時間一緒にいて、ここまで助けて貰った。それなのに名前を聞くのを忘れている。しかも同じ町ではなくていくつか離れた町の子。正浩のときみたいにすぐ会えるとは思えない。やってしまった。せめて名前くらい聞いて感謝したかったのに。追いかけようと思っても、暗くてどっちに行ったか分からない。
……名前聞く癖、付けてもいいかもな。
しばらくすると電車が来た。人はほとんど乗っていない。こういうガラガラの電車はなんだか好きだ。
数十分電車に揺られ、言われた駅に降りた。地図の通りに進む。するとあのいつものスーパーが見えてきた。まだ空いている。安心感がすごい。
しばらく歩いてようやく家に着く。素早く風呂にはいり、ベッドに飛び込む。今日は1日疲れた。けどそれ以上に楽しかった。けどけどそれ以上に最後はどうなるかと思った。
いい一日だったが、心残りがあるとすればあの子が誰か聞かずに別れたことだ。元を辿れば小便が原因で出会い、小便が原因で再開した。
………この言い方はちょっとやめとくか。
けど不思議と後悔はなかった。
よくわからないが、あのことはすぐにまた会える気がしたからだ。




