2話︰森岬村の散策
「あっつい...」
暑さで目が覚め、時計を見ると8時過ぎ。いつもと形の違う枕で状況を思い出す。思ったよりぐっすり寝れたようだ。とりあえず起きようと首をあげようとする。あげようとした。あがらない。
嘘だろ、首がびっくりするほど動かない。慣れてなかったらこんなに動かないものなのか。とりあえずできそうな動きをしよう。
「ふんっ」
1人きりの部屋の中、布団の上でブリッジ完成。意外と俺はブリッジの才能があるのかもしれない。
「あんた、何しとんの」
廊下から勝さんが覗いていた。勝さんは居間に戻って行ったが、恥ずかしさが残っていた。
落ち着いてから居間に行くと、勝さんがテレビを見ながら朝食を食べていた。
「お、起きてきたか」
「おはようございます」
「ん、朝ごはんこれ食い」
そうして出されたのはトーストに牛乳。よかった、小籠包は出てこなかった。シンプルだけど、朝ごはんを自分以外が作ってくれているということがとても嬉しい。こんな生活、いつぶりだろうな。
「ここが昨日言うてた家やで」
朝食を食べ終わり、貸してくれるという家を見に来た。勝さんの家から少し歩いたところだ。歴史を感じるような木造建築の一軒家。一階建てで、庭も少しあるらしい。人に貸すには十分すぎる家だ。
「本当にいいんですか、こんな立派な家貸していただいて」
昨日は疲れもあって受け入れてしまったけど、普通に考えておかしい。いくら優しい人だと言え、こんなことまで知らない人にするのか。昨日会ったばかりだぞ?
そう思っていると、勝さんが口を開いた。
「わしも昔、あんたみたいなこと経験してな」
「え、自殺願望が」
「そこまでいっとらんわ。なんかまあいろいろあって今の自分みたいな状況なった時に助けてくれた人おってな、すごい嬉しかったわ。やからまあ、その人への恩返しって訳にもならんけど、同じことしたりたい思てな」
いろいろ ってなんなのかがすごく気になったが俺と同じような思い出ならきっと楽しいものじゃないだろう。今聞くのはやめておこう。
家のことをいろいろ教えてもらい、勝さんは、「なんかあったらいつでも呼び。わし漁師で、帰ってくる時間とか食べる時間とか不規則で困るやろから、お金渡すから自由に食べたり楽しみや。あ、恩返しせなとか考えんでええからな」 とだけ残して家に戻っていった。勝さんに全ての生活援助をしてもらった。いつかは恩を返さねば。
家で少しくつろいでいたが、一日中こうしておくのも退屈だ。
「…散歩でもするか」
家にいても暇だし、この森岬村を散策してみることにした。田舎とはいえ、ある程度のものは揃っているらしい。外は蒸し暑くてずっと家にいたいくらいだけれど、勝さんもニートを家に置かれたくはないだろう。
――海沿いを歩く。海岸沿いの先に灯台が見える。遠くの海には大きな船。長い浜辺には廃れた家が1つあった。昔は使われていたのかな。灯台の少し手前にはスーパーが見えた。
――海沿いから離れると、住宅街に入った。後ろは山で、緩やかな斜面が続いている。道は細くてところどころに畑。すれ違う人はお年寄りが多いが意外と若い人もいる。いたるところにチョロチョロと流れる小さな川。途中には小さな病院らしいものもあった。小さい公園もいくつかある。歩いていると無人販売所が出てきた。1度買ってみたいと思っていた。山の少し上の方には学校のような建物も見える。
しばらく歩いて疲れたので、少し休憩することにした。
脇にあった石に座り休憩していると、少しひらけたところに森岬村の地図があるのが見えた。見てみると、思ったよりかは広いらしい。狭いけど。山に神社のマークが書いてある。でも行くには少し山の方に登らないといけないらしい。……まあいいか、いこう。暇だし。すごい暇だし。でも秋に来たかった。
山を登り始めると、セミの鳴き声が全方向から聞こえてくる。ミンミンゼミがの鳴き声が一番うるさい気がする。絶え間なく鳴き続けるあの音と、一段飛ばしすべきかどうか分からない微妙な高さを攻めてくる階段と合わせてストレスが溜まってきた。もう少しのぼる人の気持ちも考えて作れよ。と、中卒が呟いた。
ふと上を向くと、終わりが見えていた。
階段をのぼりきる。するといきなり神社が現れた。その神社はまあまあ広く、決して狭くもない神社だった。誰もいなくセミ以外は静かだが、何かある時はお守りとかも売ったりしてそうな建物がある。特に何も無いが、せっかく来たしお参りはしとくか。そうして五円玉を入れようとした。が、自分自身に問いかける。周りに人がいないことを確認し、独り言を呟き出す。
「いいのか自由よ、五円なんかで。新しい生活が始まろうとしているのにそんなしょぼい額で。ここはせめて五十円、いや五百円いくべきじゃないのか!これから始まる生活一日目に渋っていてはこの先不吉になるかもしれない。けれどこれは勝さんから貰った大切なお金。どうすればいいんだ!」
「五百円いっちゃおうよ!」
「そうか、そうだよな、いっちゃおう!」
チャリーン。大きな硬貨が中に落ちていった。
じゃあな、五百円。乗せられて思い切ってしまった。
……あれ、誰に?
「いい思い切りだったね」
「うわっ!」
後ろを向くと巫女服の女子が立っていた。さっきまで誰もいなかったぞ。脚にまでに届きそうなくらい長くて白い髪だ。本業の巫女さんにしては若すぎるような。でもそんな驚きや疑問よりも、独り言を聞かれた恥ずかしさが今は勝っている。誤魔化したくてももう遅いな、これ。
「えと、誰?」
「えーとね、ここの神社の一応巫女みたいなのやってる、時田 のどか!」
「巫女にしたら、すごく若く見えるけど」
「あーまだ17歳だから高校生で、親の手伝いみたいな感じ?だからまあでも、一応巫女ってことかな。ほら、そこの本殿の横にある家に住んでるの。そっちも見た感じ高校生かな?」
「んーまあ、同じ17歳だけど、高校には今はもう行ってない」
「あ、そうなの。そういえば言ってたねさっき、これから始まる生活がどうとか。引っ越してきたってこと?あ、じゃあ近くの高校に転入とか!」
すごく明るい。このコミュ力は一体どこでついたんだろうか。
大まかにこれまでの経緯を話した。昔のことはところどころ誤魔化しながら。
「へー、旅しててここに来て、急にしばらくその人に泊めてもらうことになったんだ。家借りてるってさ、それもしかして前井さんのとこだったり?」
「え、なんでわかったの」
「やっぱり!あの人くらいしか家2個ある人知らないし、それにそんな急に来た人に家をあげるなんて言う人ってあの人が一番に思い浮かぶんだもん」
「そんな印象ついてるのか勝さん」
「おじさんはねえ、よくこの神社にも来てくれるし、いろんな家に魚分けたりしたり、街の行事にも積極的だからみんなからすごく慕われてるよ」
やっぱり普通の人じゃなかったんだ。あのとき出会った人がそんな勝さんで良かった。
「にしても今日平日だけど、学校は行かなくていいのか?」
「だってもう7月中だけどもう夏休みに入ってるよ」
「あ、そっか」
気づけば今日は7月22日。多くの学校が夏休みに入っているだろう。そんなこと考えることもなくなってしまったな。
「そういやお賽銭、五百円のほうがいいって言ってたけどやっぱ額が高い方が神様に願い届きやすいとかあるのか?」
「どうだろ、変わんないんじゃない」
「じゃあなんで五百円って言ったんだよ」
「儲かるし!」
…騙された気分だ。巫女とは思えない発言。まあ、ご利益が上がったと思っていよう。
そろそろ降りるか。のどかも何やらすることがありそうだし、他も回りたいところがある。軽くのどかに挨拶をして階段を降りていく。まあまたすぐ会いそうだ。
「あ、名前聞くの忘れた!……まあいっか!」
階段の上からそんな声が聞こえてきた。気がした。




