19話︰お祭り④
お互い、その後も逆側の屋台に行ったりして時間を潰した。19時半から花火が始まるので、19時に花火の近くである南側の海近くの石段に集まることにしていた。
俺らはのどか達と一緒に集合場所に着いた。まだ18時45分。少し早いがここでごはら達を待つ。
「こんな近くで花火見るの初めてかんもしんないな」
「何とか場所とれたけどねー。こんな近くに来たの初めてかもー」
「うちも初めてだね」
座っていると周りにもどんどん人が集まってくる。続々と来る人の中にごはら達を見つけた。
「おーい、こっちだ」
「お!いたいた、結構いい席取ってるじゃん」
「ごはら、何被ってんのそれ」
「カブトムシだ、かっこいいだろ」
「どこがよ」
19時10分。開始まで後20分ある。みんなで話しているとすぐ時間が来そうだが、こんな時に急に尿意が押し寄せてきやがった。
「なあ、こっから近いトイレってどこだ?」
「結構遠かった気もするけど、屋台のある道を進んでたらあるはずだよ」
「ありがとう」
「おい、自由」
「? どうしたごはら」
「気をつけろよ、係員に捕まるぞ」
「それはおま………俺達だけだ」
「? あんたら何言ってんの」
よく分かんないけどとりあえずトイレに向かう。走りたいけど走ったらヤバそう。まあまだ時間はまだまだあるし、ゆっくりでも全然間に合う距離だ。5分ほど歩くとトイレを見つける。よし、なんとか漏らさずに済んだ。
用を済まして戻ろうとすると、トイレから出た時にちょうど横から来た人にぶつかってしまった。中学生くらいの女の子だ。その場に倒れてしまった。
「あっ、ごめん!大丈夫?」
「………」
その子は目も合わさずただ黙っている。
「ごめんね、どこか怪我とかしてない?」
「…大丈夫」
「…そう、よかった、じゃあ…」
「…あの」
「??」
「バス停…どこか、分かりますか」
「バス停?たしかあそこの橋の反対方面を歩いていくとあったはずだよ」
「…ありがとうございます」
そそくさと行ってしまう。どうも祭りを楽しんでいるようには見えないな。あれ、バス停ってことは…
「ねえ」
「はい?」
「バス停に行くって、帰るってこと?」
「そうですけど」
「ちょうど今から花火やるらしいよ」
「………大丈夫です」
「おっきいらしいし、ちょっとでも近くで見ていったら?」
「…いいですって」
「あ、そっか、ごめん、もしかして花火あんまり好きじゃないとかか。たしかに音もうるさいし飽きてくる人も…」
「だからいいですって!!」
「!!」
その子は急に大声を出した。周囲の人達もチラチラと俺達を見ている。ちょっと気を使いすぎたか。そりゃいきなり知らない人にこんな話しかけられたらしつこいか。
「ごめん、しつこかっ…」
けれどその子は急に目を大きくしてハッとした。
「あっ、、、ごめんなさい!!」
走っていってしまった。人混みをかき分けてすぐに見えなくなった。なんだか少し心配だ。友達とはぐれた……のか?
それになんだか一瞬その子の見覚えがある気もした。でもこの町に来てからいろんな子と会ったりしてるし、見間違いも増えてきたからきっと見間違いだろう。
「あっ、花火の時間!」
気がつけばあと8分ほどで始まってしまう。早足で元の場所に戻った。
「あ、やっと戻ってきましたよ」
「迷子なのかと心配したぞ」
「わるいわるい」
戻ってくるとさらに人も増えていた。軽く見渡せばカップルも結構いる。あーんしてるカップルがいる。一緒にカメラで写真をとってるカップルがいる。手を繋いでるカップルがいる。
………いいな。
そいつらを眺めていたら、横ののどかにジッと見られていた。
「羨ましいんだね」
「……別に?」
「分かりやすく意地はりやがって」
「どうせ今付き合ってるやつもすぐ別れるだけだし」
「うわあ、嫌なこと言うね。まあいいじゃん、自由には今、私という女が横にいるんだから」
腰に手を当て自慢げに言い放った。
「じゃあ彼女役になってくれてもいいんだぞ」
「それはやだ」
そんなことを話していると放送が入った。
『えー、ただいまより古笠祭り花火大会を開催します』
「やっと始まるのか」
「…イカ焼き食べながら見れるの、至高」
「まだ残ってたのかよ」
開始の合図とともに、大きな音が鳴る。
花火が打ち上げられ、登っていく。ゆっくりと登っていく花火に目が釘付けになる。いろいろな気持ちが込み上げてくる。こんな景色いつぶりだろう。花火を見るのはいつぶりだろう。花火ってどんなだったけな。どのくらい大きかったかな。最後に花火大会に行ったのは小学生の時だっけ。あれから大きくなったし、期待してるよりも小さいのかな。
花火が開いたと同時に、辺りが明るく照らされた。遠くの人の顔もはっきり見えるくらい。花火は期待しているよりも大きかった。いや、大きすぎるくらいだった。海に落ちようとしているのにまだ輝いている。周りの人達は大きく歓声を上げて拍手もしている。でも俺はそんな声を出したり手を叩いたりすることが出来ないくらい、花火に夢中だった。
「古笠の花火大会は毎年ね、最初に1番大きいのを打ち上げるんだよ。この花火大会を忘れてもらわないようにインパクトを付けてるんだってさ。…ってあれ、聞いてる?」
のどかが何か話してくれているのは分かっていたが、それを聞く暇もないくらい花火に夢中だった。
「こんな大きな花火見るの久しぶりなんだろうねー」
「そもそも祭りにも随分行けてなかったんだろ」
「思う存分浸らしてやろうぜ」
それから花火は45分ほど続いた。けど俺にとっては一瞬で終わっていった。花火が終わり、周囲のこともだんだん見えてきた。
「すごいな、ここの花火。最初の1発が特にすごくて………ん?」
なんで? 見ている。みんな優しい目で俺を見ている。優しい、優しさの目のはずなのに辛い。というか恥ずかしい。
「え、なになに」
「いーや、なにも」
「よかったね、花火」
「お、おう…」
花火で周りが見えていない間に俺何かしたのか?
何も分からず困惑する。
のどかが方に手を置いて優しく語り掛けてきた。
「自由、辛くなったら私の胸で泣いてもいいんだよ」
「お、おう……いや、胸ないじゃん」
「うるせえ!」
「胸小さいの気にしてないんじゃなかったのか」
「でもなんか男に言われるとやだ!だよね友華!」
「ちょ、なんで私も巻き込むの!」
「同じ貧乳同士、仲良くしようね」
「のどかよりはあると思うけど…」
みんなで笑っているうちに、あの優しい目は消え去っていった。




