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もりみさき  作者: みじ
11/25

11話︰これから

「雨、全然止まないねえ」


時刻はもう16時。昼を食べてからずっと家にいるが一向に雨が止む気配がない。そろそろお互い暇になってきた。


「することないねえ。雨の日だったらいつも結構暇なんだよねえ。やることないからさ」

「学校の宿題とかないのか?」

「………」

「?」

「まだ7月だから大丈夫だし」

「暇ならやっとけよ」

「じゃあせっかくだし手伝ってよ」


のどかが課題を持ってきた。量は結構ありそうだ。


「てかここ1年くらい勉強やってないから俺分からないと思うぞ」

「じゃあこれはわかる?」


数学のワークを見せてきた。


「これは…ああ、簡単だしまださすがににできる」

「じゃあ私よりはできるってことだね」

「できないのか?」

「全然できない!」

「のどかって優等生って勝手に思ってたんだけど」

「勉学は体が受け付けないんです」


数学のワークに2人で取り組んだがほとんど答えを写して終わった。なんでもできそうなイメージあったけど全然そんなことなかった。


「英語もできないのか?」

「先週欠点者集会に行ってきたよ」

「なんかどんどん印象崩れてくんだけど」


英語に関しては大の苦手、というより嫌いらしい。本人曰くアレルギーだとか。現役高校生に中退高校生が勉強を教えるという状況になってしまった。


「『家』って英語で書けるか」

「hause!」

「houseね」

「じゃあこの『私は料理をしています』は?」

「知ってるよこれ!進行形だから動詞の形を変えるんだよね」

「よかったさすがに知ってたか」

『I am cooked』

「料理されとるやんけ」

「どっちでもいいじゃない」

「できないにしてもここまでとは……あいつらにバカにされてこなかったのか?」

「ごはらとかには『ふーる』?とか『しちゅーぴっど』?とか言われたりするけどよくわかんないや」

「バカにされてるぞ、それ」


絶望的なのどかにしばらく英語を教えていると、18時になっていた。


「あれ、いつの間にか晴れてる」


気がつくと空は晴れていた。長いこと家にお邪魔していたしそろそろ帰るか。


のどかのお母さんにも挨拶をして家を出た。空も暗くなって涼しくなっていた。いつも通り海沿いを歩く。





ひとつ不安がずっと残っている。こんな生活、いつまで続くんだろう。誰も迷惑とは言っていない。自分も楽しく過ごせている。けど今日のどかに以前の自分のことを話したり勉強を教えたりして改めて思った。みんなとは近いように見えて、実際はとても遠いところにいる。夏休みが終わったらあいつらはみんな学校に行く。その間俺は何をしているんだろう。どこかでバイトをするか。でもこの先ずっとバイトしていく訳にもいかない。もう一度高校に行った方がきっといいんだろう。けどそのお金は無い。それにもう一度1年生からと思うとあまり行きたいとも思えない。勝さんにも高校に行きたいからお金払ってなんて言えるはずもない。ならもうどこかで雑用の仕事にでも就職するべきなのか。けど、そんな人生を続けていたらまたあの時と同じ気持ちになってしまいそうだ。



そんなことを考えて歩いていたら、いつの間にか家のある道を通り過ぎていた。


「あ、やば、戻らないと……ん?」


海岸の奥に何やら大きな建物が見えた。


「市場?」


近づいてみると市場だった。しかもかなり大きい。この町に来る時通ったはずだけど、周りのことは何も見えていなかったんだろう。


中は活気があって、朝一でなくても魚は売っていた。漁師らしき人もいたがみんな集まって酒を飲んでいる人ばかりだった。みんな楽しそうな日々を送っていて羨ましい。


帰ろうとした時、誰かに声をかけられた。


「あれ、自由やんけ。なんや魚買いに来たんか」

「あ、勝さん。いえ、ただ何となく見に来ただけで」

「そうなんか。晩御飯もう食べたか?」

「いや、まだです」

「食べてこうや。あっちに美味い店あるから」


こうして市場の中にある海鮮丼のお店に来た。この店はサーモン丼が1番らしい。サーモン丼を2つ注文した。




「で、なんかあったんか」

「え、なんでですか」

「だって最初見た時えらい暗そうな顔しとったからな。別になもん悩んでないならええんやけどな」


何も話してはないのに気づかれた。


「えーと、このままの生活でいいのかなーって思って」

「このままなんもすることなく遊んでてええんかってことか?」


言う前に勝さんにはバレた。わかりやすく顔に出ちゃってたのか。


「わしはええと思うけどな」


勝さんは続けて言った。


「あんたの今住んどる家、以前わしも住んどってん」

「そうだったんですか」

「そうや。以前わしもあんたと同じようなこと経験したって言ったやろ?その時あそこの家に住んどった人に住まわせてもろてん」

「一緒に住んでたんですか!?」

「そうや。そん時からもう分かっとる。この村にはええやつしかおらんねやって」

「その人もまたすごい人ですね…」

「自分、ここ数日この村回ってどうやった」

「人も町も、すごく好きになりました」

「わしもそう思うで。やからこの村を発展させたいと思っていろいろイベントとかで盛り上げようと頑張ってんねや。年に何度かの祭りももっと観光客とか増えたらええな」


勝さんがニカッと笑う。


「安心し。この村におる限り一人ぼっちにはならんわ。仕事がないってんなら、漁師でもやってみるか?船乗せたんで。あ、こっからこの町発展させるってなら食堂とか旅館とかやってもええかもな。村が好きなら役場で仕事とかもありやろし。やからまあ、居場所が無くなるなんてことは心配せんでええ」


「それにな、あの子らにとってももうあんたはもう村の一員や。なんも特別な目で見とらんと思うで」


心の中のモヤが消えていた。ずっと不安だったものが一気に無くなる。全てなくなった居場所。そんな俺に与えてくれた新しい居場所。ああ、ずっとここに居てもいいんだ。安心や嬉しさが入り交じる。ここに来て良かった。心からそう思えた。


「お、きたでサーモン丼。食べよか」

「はい」

「なんかぼーっとしとるけど、大丈夫か」

「はい」

「ゆっくりしていきや。こころゆくまで」


お互い割り箸を割ってサーモン丼を食べ始めた。


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