10話︰料理
朝、空を見ると曇っていた。
どうやら予報では午後からは雨が降るらしい。
こんな天気で外に出る気は減るが、この村の悪い天気の日の雰囲気も感じてみたい。
普段は綺麗な空と海で気持ちのいい海岸沿いも、天気ひとつ曇るだけでどんよりしている。暑さは晴れている日よりもマシだが、ジメジメしてて気持ち悪い。
歩いているとなんとなくいつものスーパーに着く。
けれど朝のパンを買う以外特に用事はなかった。
「昼飯と晩飯、どうするか…」
そういやいつも弁当だ。たしか家のキッチンには一式は揃っていたな。料理…してみるか。したことないけど。とりあえず食材を見に行こう。
「…あれこれ、弁当より金かかる?」
簡単に作れるものとして、チャーハンややきそばを作ろうとした。けど、何を買えばいいか分からない。まず家に米あるのか?具材は?味付けや調味料の違いも分からないぞ?
俺、結構ダメかもしれない。
「へぇ、自由って自炊してるんだ」
誰かが後ろから声をかける。振り向くとのどかだった。
「料理できる人ってモテるよねー。料理できなさそうだし、ずっと弁当でも買ってるのかと思ってたよ」
「まあ、うん。」
「昨日は何作ったの?」
「……たしか、海鮮丼だったかな」
「へえ、結構凝ったの作るんだね」
「……」
「……」
「ごめん嘘です」
「なぜ見栄張った」
「モテるとか言うから作れないとか言えなくなったんだよ!」
「ごめん、モテたかったんだね」
「……」
「ごめんて」
謝りながらも元気に笑ってくる。からかわれてはいるが相変わらず明るい。
「作れないなら、じゃあなんで食材コーナーにいるの」
「なんか作ろうと思ったんだけど、無理そうって気づいて諦めかけてた」
「挫けるの早すぎない?」
「だって買うものも作り方もわかんないんだもん」
「まあそう拗ねずにさ。そうだ、私も今食材買いに来てさ、良かったら家来て一緒にご飯作ろうよ。先輩が教えてあげよう」
「同い年だろ」
「料理の世界では10歳分年上だぞ」
こうして、のどかの家で料理を教えてもらうことになった。たまご焼きと焼きそばを作るらしい。
「よし、では早速作っていきましょうか」
「よろしくお願いします先輩」
「ではまずたまご焼きから作りましょう」
「はい」
「最初に卵を4つ割ってください」
「どんくらいの強さで叩けばいいですか」
「そこは普通にいつも通りでいいよ」
「割ったことないです」
「はい?」
のどかが目を丸くする。
「今、なんと?」
「たまごを、割ったことが、ありません」
「はい?」
「かたじけないです」
「親の手伝いとかしてこなかったの?」
「ないですね」
「あんたまじかい」
失望の眼差しを向けてくる。
止めてくれ、女子にされるの結構心に刺さる。
そのあとも酷かった。
「ちょ、まだ油引いてないのにたまご入れないで!」
「あーまた零れてる!」
「箸で穴あけるな!」
ずっと注意されながら、なんだかんだでたまご焼きが完成した。
「たまご焼きでこんなに疲れたの初めてだよお」
結局、ほとんどのどかがやった。この調子で焼きそばができる気がしない。
「では、メインの焼きそばを作っていきます」
「はい、師匠」
「まず野菜を入れてください」
「切らなくていいんすか」
「カット野菜買いました」
ドヤってる。特にドヤるところでもないけど。
たまご焼きと違って、手間取りながらも何とか失敗することなくやきそばが完成した。
時刻は11時半になっていた。
「食べていきなよ、ママもいるけど」
「え、大丈夫?」
「あいつらも食べてくことあるし全然大丈夫」
「じゃあお言葉に甘えて」
「そもそもここで食べてかなかったら食べるとこないでしょ」
たしかに。教えてもらうからと結局なにも昼食は買ってなかったんだった。
座敷に皿を運びに行く。すると先にのどかのお母さんらしき人がいた。
「あ、キッチンに誰かいるのはわかってたけど。もしかしてあの最近引っ越してきた子?」
「はい、そうです」
お母さんもほんわかしている方で、のどか同様話しやすい人だ。3人でご飯を食べる。
「卵割れないのはなかなかね」
卵を割れないことにはさすがに驚かれた。
「ここには二人で住んでるんですか?」
「そうそう。夫は仕事の関係で今は東京にいってるの」
「そういやたしか自由も東京から来たんだよね」
「あらそうなの。なんで一人でこんなとこに?」
そういや最初のどかに会った時、昔のことは少し誤魔化して話していた。けどもうこんなに仲良くなったし、少し話そう。
「両親が亡くなって宛がなくぶらぶらしてたときに前井さんに出会いまして…」
高校生で清掃の仕事をして、死ぬつもりで放浪していたなんて言えない。なんだが心配して欲しいみたいだ。それに、場の空気を下げかねない。
「なんか大変だったんだね」
「でももう今は友達もいっぱいできたし楽しいよ」
会話を交えながらご飯を食べ終わる。皿洗いはジャンケンでのどかがすることになった。
そろそろ帰ろうと思って窓の外を見ると、雨が降っていた。
『ザザーー』
それも結構大雨。
「雨が止むまでのんびりしていきなさい」
「ありがとうございます」
「特に遊ぶものもなくて暇だったらごめんね。あ、そうだ、夫が残していったエロ本ならあるわよ」
「お母さん?」
「待っててね、今取ってくるから」
「お母さん!?」
「机の引き出しにあったのよね。ホコリ被ってないかしら」
「お母さん!いいですから!」
「あったあった、はい、これよ」
お母さんがエロ本を持ってきた。前に置かれた。読めねえよ。
「こんなの読まないですって」
「あら、夫は男ならいつでも読むもんって言ってたんだけどねえ。あ、系統違った?もうちょっと探してくるわね」
「もうやめてください」
抵抗も虚しく、どこかに探しに行ってしまった。部屋には俺とエロ本が残っている。ちなみに見た事はない。どんなことが載ってあるのだろう。気になる。
1ページだけ見ることにした。1ページだけ。本に手を取り、いざめくろうとする。
「いや、女子の家でなにエロ本見ようとしてんだよ」
「違う!お母さんが持ってきたんだ!」
「女性はそんなの読まないから」
「あ、自由くん、結構あったけどどれがいい?」
「ママ!?」
なんとか説明して尊厳は取り戻せた。お母さんは男の人なら喜んでくれると本気で思ったらしい。嬉しいかもだけど今は違う。変わった人だ。
のどかと適当に話をして雨が止むまで時間を潰すことにした。女子と2人でいることにもだんだん慣れてきている。
雨は変わらず土砂降りだった。




