第49話 世界一の|仲良し《なかよし》夫婦《ふうふ》
「それはそうと。それでワサビちゃんは、どうして割り込んだにゃ?」
僕は、話をしきりなおす。
「ワサビちゃん普通のニャンだったころから発情期を抑制するためにホルモン剤を飲んでたのにゃが、しっぽが2本になってからもホルモン剤を飲んでたにゃ! でもワサビちゃん妖力をもった両親のあいだに生まれて妖力を継承できた特別なニャンだから、『お嬢! お嬢!』と言われて発情期の性欲をたぎらせたオスニャンたちにつきまとわれてうんざりしていたにゃ! そんな状態でいたワサビちゃんは、つきまとってこない4本しっぽのオスニャンを見つけたにゃ!」
「寅吉さんの事だにゃ? 寅吉さんは、なんでつきまとわなかったにゃ?」
「斗真くん。寅吉もタマチャンの兄貴分としてタマチャンとオスニャンとしては一番仲がいいのにゃが、タマチャンは心に決めたニャンがいる上に発情期を抑制するためにホルモン剤を飲んでいるにゃ。その状態では、発情期が来るのが苦しくってにゃ。タマチャンとなかよしでいるために、寅吉も発情期を抑制するためのホルモン剤を飲んでたにゃ」
「それがなんで、ワサビちゃんにやきもち焼かれるようになったにゃ?」
「ああそれはワサビちゃんが『寅吉さん、まとわりついてくるオスニャンをどうにかしてほしいにゃ!』と言ってきたから、タマチャンにまとわりついてくるオスニャンを追っ払うついでにワサビちゃんのまわりのオスニャンも追っ払ってたのにゃが……」
「にゃが? 言いにくい事かにゃ?」
「いや、だいじょうぶにゃ。それからワサビちゃんとは、いつもいっしょにいることになってにゃ。まあ、タマチャンともいっしょにいたのにゃが。一つ、違いがあったのにゃ!」
「その違いで、オスメスの仲が進んだのかにゃ?」
「ああ、そうにゃ! タマチャンはオスに毛づくろいさせないのにゃが、寅吉とワサビちゃんは軽い気持ちでおたがいにおたがいを毛づくろいしてたにゃ!」
「ああ~~~~。ニャンだと、そういうのもあるのにゃね」
「その生活を17年間続けていたある日いつものようにおたがいの毛づくろいをしていたら、寅吉とワサビちゃんは突然2匹ともが発情期になっていることに気づいたのにゃ! 発情期を抑制するためにホルモン剤を、飲んでいたにもかかわらずにゃ! そしておたがいに大好きどうしになっている事にあらためて気づき、性欲のもとめるままむさぼるように子作りをしたにゃ! それからは、発情期を抑制するためのホルモン剤を飲んでいないにゃ!」
「ああ~~。男女だと、ただのなかよしなのか男女のなかよしなのか最初はわからないよね! 僕は飲んだことないけど発情期を抑制するためのホルモン剤を飲んでいたなら、なおさらね! 僕の場合もいつのまにか確認するまでもないぐらいのもろばれ両想いになってて、僕が無職の小説家志望で年の差があってあいてが女としてのゴールデンタイムが始まる年齢だったこともあって、両片思いのまま将来の約束をせずに別れたんだけど。34才と言う年齢だったにもかかわらず、人生史上一番の性欲の強さにされて大変だった! その状態がその女性と会えなくなっていたにもかかわらず3年間つづいてあるひ突然、性欲が10分の1になっちゃって……」
「10分の1? なんでにゃ?」
「そのころ僕が書きたいライトノベルのプロットを書こうとしてたんだけど、書けなくてね。精神的においこまれて下の階の物音がうるさいような妄想にとりつかれて下の階のガラスを割って誰も物音をたてる人がいないのを確認して警察に行って2回目の精神病院入院をしたんだけど、ライトノベル作家デビューを一度あきらめたからかな……」
「一度あきらめたからだけなら、今はライトノベル作家デビューをめざしているのかにゃ?」
「うん……」
「性欲はどうかにゃ?」
「回復していないし、出来るだけ女性とはなかよくしすぎないように気を付けてくらしてる」
「なんでにゃ?」
「ライトノベル作家デビューをしてライトノベル作家は収入が不安定だから10年分の生活費を確保してその後で精神病院経由で、僕の連絡先を送ろうと思って……」
「なんでにゃ? そこまでするぐらい好きなら、なんで約束もせずに別れたにゃ!」
「僕はその子とただの夫婦になりたかったわけじゃなくって、世界一の仲良し夫婦になりたいからね。そのためにはある程度ゆとりのある生活ができるだけの、お金は必要なんだよ?」
「なるほど、にゃ……」
寅吉さんの瞳が、涙でにじむ。
「ありがと、寅吉さん……」
「斗真くん! おみゃあのために泣いているのは、寅吉さんだけじゃないにゃ!」
ワサビちゃんの言葉にまわりを見回すと、ケットシーたちは毛皮のせいで分かりにくいが瞳に涙がにじみ人間たちとフェアリーたちは静かに泣いていた。
「ありがと、みんな……」