第19話 タマチャンの欲望《よくぼう》
「斗真く~~ん! 斗真く~~ん!! うわーん!」
モンシロチョウの羽を持つフェアリーが、通路を高速で飛んできて僕の顔によだれと思われる臭い粘液まみれの体で抱きついてきてわんわん泣き出す。
「!―――――!ッ―――――――!! うっぷ! くさ! 口と鼻をふさいで、抱きつくのやめて! 口の中に、臭いよだれ入っちゃったじゃん!」
僕は、モンシロチョウの羽を持つフェアリーを顔から引きはがして文句を言い細マッチョの身体をつつむTシャツのお腹の部分で顔をふく。
それが終わるのを見ていたモンシロチョウの羽を持つフェアリーが僕のTシャツのお腹の部分に抱きつき羽をしまい自分の身体をふき始めたのでしかたなく、僕もモンシロチョウの羽を持つフェアリーをTシャツでふいてやるがふいてもふいてもモンシロチョウの羽を持つフェアリーの涙があふれてくる。
「ごめんなさいにゃ!」
いつの間にか僕の足元に来ていたオッドアイ白メスケットシーのタマチャンと、視線が重なる。
「ごめんなさいにゃ! タマチャン、欲望が押さえられなかったにゃ!」
「欲望って? フェアリーをなめまわすこと?」
「タマチャンが! タマチャンがぁ!! 色探しゲームをしていたあたしを追いかけまわして地面に押し付けて、ザラザラのべろでべろんべろんしたのぉぉーーー」
「タマチャンの野生が呼んだ、悲劇にゃ……」
「野生っていうか……。飼い猫の野生だね」
「タマチャンの、鍛えられた野生が呼んだ悲劇にゃ……。モンシロチョウの羽の方ちゃん! ごめんにゃ?」
「タマチャンが! タマチャンがぁ! うわーん!」
「鍛えられた野生ってどういう事? タマチャンって、野良猫だったの?」
「野良猫じゃない、にゃ! カリカリ、9級。猫缶、初段。高級猫缶、9段。猫じゃらし、10段……」
「え? 何のランキング? 9級が一番下で、級は数字が少なくなるほど上で。1級の上が初段それで、段は数字が大きくなるほど上なんだよね?」
「そう、にゃ! 10段は、殿堂入りにゃ! 猫又堂の、商品開発部門で働いていた時にとった級と段にゃ!」
「ああ~~。それでフェアリーたちの中でも一番素早い、モンシロチョウの羽の方ちゃんを捕まえられるんだ? いやいや! 無理じゃね? どうやって捕まえるの?」
「壁走りと、空中12段ジャンプを駆使して捕まえたにゃ!」
「空中12段ジャンプって……空中の足場のない所でさらにジャンプするって事?」
「そうにゃ!」
「それを、12回連続で出来るってことだよね? そんなのほぼ、空中飛行じゃん! ケットシーって、そこまでできる種族だったの!」
「タマチャン猫じゃらし10段だから! タマチャンだけ特別にゃ! タマチャンに空中多段ジャンプを教えてくれた4本しっぽの茶トラ猫又のキナコちゃんも、4段しか空中ジャンプできなかったにゃ!」
「え? 猫又? 猫又っているの? それに4本しっぽで、4段ジャンプって? タマチャン、しっぽ1本じゃん!」
「そこらへんはタマチャンも妖力とか解らにゃいからにゃんともいえにゃいけど、キナコちゃんが言うには妖力にも息継ぎみたいなものがあってたまたましっぽの数で一般の猫又は多段ジャンプ出来る数が決まるらしいにゃ!」
「タマチャンだけに、たまたま……フフッ」
いつの間にか近くに来ていた日名川・京太郎がよく通る声で、ボソッと言ってこらえきれないように笑っている。
「ああ! 猫又と言っても第2種ニャン権に分類される人間に危害を加える猫又じゃにゃくて、今なら第3種ニャン権をもったケットシーに分類されるニャンにゃ! ああ! でも、キナコちゃんは法律的にはケットシーになったことがにゃいのにゃが。 タマチャンは遺伝子強化された知性猫として生まれてキナコちゃんの弟子をしているうちに猫又としての素養を身につけたけど、まだしっぽが増えてない猫又らしいにゃ!」