第13話 概念重力訓練室《がいねんじゅうりょくくんれんしつ》
「藤咲・アルヴィン・斗真ですけど、まだ10分前ですよね?」
概念重力訓練室の自動ドアが開くと、奥に講師風で年齢を感じさせない筋肉ムキムキの男2人女1人が地面に立ちその手前に8人の男女と無数の桜の花びらがフワフワと浮かんでいた。
「ああ。食堂が朝食を出し始める時間の1時間後の集合で手持無沙汰に早めに集まってきたからな、早めに始めたんだ。この時間訓練予定の人間で、お前が最後だぞ?」3人の講師の中で一番若く見える30才ぐらいで筋肉ムキムキの見た目の男が、非難するように言ってきた。
「そうなんですね! 僕、仮眠までしてました! それで何をするんですか?」
「概念重力の訓練です。まずは適性を見るので、そこのあいている所に立ってください」
60才ぐらいに見えるにもかかわらず筋肉ムキムキの女性が、8人の男女の真ん中に僕を立たせる。
「ではハジメマスヨ? 全身の力をぬいてください……はい!」
と言う70才ぐらいに見える筋肉ムキムキの男性のかけ声と共に、僕の体と服が重力から解放され無重力状態にたゆたう。
その僕を60才ぐらいに見える筋肉ムキムキの講師の女性が、ヒョイと僕を地上2メートルの位置に持ち上げる。
「さあ! 地上に降りてください!」
僕は身体を移動させるのになれていない念動力でゆっくりと地面にむかいあと1メートルと言う所で、床がスライドして動き中に入っていた2メートル×2メートルの範囲の針山があらわになる。
僕はピタッと空中で止まり講師の3人を見回すが講師たちに驚きがない事を確認して、講師がいるのと反対側に3メートル移動して地上に降り立つと。
「クソ! やっぱりか!」と30才に見える筋肉ムキムキの講師の男が、地面にはきすてるように悪態をついた。
「いやいや! クソじゃないよ! 念動力使えなかったら、ケガしてたじゃん!」
「まだ完全に、ハズレと決まったかは分かりませんよ?」
70才ぐらいに見える筋肉ムキムキの講師の男が、30才に見える筋肉ムキムキの講師の男に丁寧に声をかける。
「そうです! まだ希望はあります!」
60才ぐらいに見える筋肉ムキムキの講師の女も、30才に見える筋肉ムキムキの講師の男に丁寧に声をかける。
30才に見える筋肉ムキムキの講師の男は、見た目通りの年齢ではないのかもしれない。
「それで、念動力を使わずに概念重力は使えますか?」
と、70才ぐらいに見える筋肉ムキムキの講師の男。
「今の所、見当もつきません」そう言う僕の髪の毛や服は、無重力にもてあそばれている。
「人生で重力を感じた体験を思い出すと、うまくいく事もありますよ? 私たちの場合は3人ともウエイトトレーニングを長年してきているのですが、何かありませんか?」と、60才ぐらいに見える筋肉ムキムキの講師の女。
「ウエイトトレーニングは新社会人のころ同期にお試しで連れていかれて少しやったことがありますが、継続して通ったことは無いですね。エアロビクスが、運動量が多くてちょっといいなと思ったぐらいですかね」
僕が話している間に、空中に浮かんでいた8人の男女は地面に降り立ち桜の花びらも地面に全て落ちていた。
ちなみに地面に降り立っている8人の男女は僕みたいに髪の毛や服が無重力に遊ばれていると言うこともなく、全身に重力を感じる状態になっている。
「では逆に概念重力が目覚めずに念動力で空を飛べる理由について、心当たりがありますか?」
と、70才ぐらいに見える筋肉ムキムキの講師の男。
「そうですね。心当たり、あるかもしれません。46才ごろノリノリで書いたほぼ確実に賞を取れるとの自己評価の自作ライトノベルが1次選考も通らなくて他の所に応募しなおしながら待っている時に、原因不明のめまいがグルングルンしてゴミ箱に吐いた事があるんですけど。よく考えると過去にも、眠っている時にグルングルンして空を飛ぶ夢を何度も見ているんです。それに子供のころはちょっと車移動するだけで、車酔いしてましたし。今も30分以上車移動すると、気持ち悪くなることがあります。三半規管は弱いんでしょうが、その割には船で気持ち悪くなったことはありません」
「不合格! あんたの所属は、創作活動室に変更しておく! 概念重力ほど役には立たないだろうが、さぼらず訓練しておけよ!」
と30才に見える筋肉ムキムキの講師の男に、見下した眼差しを向けられ概念重力訓練室を追い出された。