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第3話 呼ばれし森〈前編〉

週末、空は薄曇りだった。遠くで風が揺らす木々の音が

まるで囁きのように響いている。


梓は、京王八王子駅からバスに揺られ、山裾の小さな集落で降り立った。

行き先は、地図にすらはっきり載っていない“場所”だ。

夢に何度も現れた、あの歪んだ日本家屋のような建物。

実在するかどうかもわからないのに、彼女の中では確信に近いものがあった。


──行かなければならない。

なぜだかわからないけど、それが自分の“義務”のように思えていた。


「……ここから、あの山の方角」


スマホのコンパスを頼りに、梓はアスファルトの道を離れ

獣道のような細い林道へと足を踏み入れる。

周囲は静まり返っている。

風も鳴き声も、まるで音のない異世界のように。


途中、倒木に塞がれた古道をくぐり抜け、

湿った落ち葉を踏みながら進んでいく。


不意に、背後で枝が折れる音がした。


振り返っても誰もいない。ただ、風に揺れる草の影だけが揺れている。


「……気のせい」


口に出してみたけれど、喉の奥がひどく乾いていた。


この道を進んだ先に、何があるのか。


梓は何かを思い出しかけている気がした

──けれど、その“記憶”はまだ、靄の向こう側にあった。


足元の土がぬかるみ始めたころ、太陽が雲に隠れ、森の中に陰が増してゆく。


深く、深く、何かに包まれていく感覚。


梓の背中には、確かに“何か”の視線が絡みついていた。


(→中編につづく)

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