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第23話 逸失の記録6【後編】

翌日の朝――。


佐伯彰人は編集部の一角、自身のデスクに腰を下ろし

昨夜資料室で掘り起こした古い記事を手に取っていた。


黄ばんだ紙面には、二十年以上前に

静岡県伊豆市にある『山神社』で起きた未解決の

失踪事件の記録が克明に綴られていた。


机の上に広げられたメモ用紙には

ペンの走る音だけが静かに響く。


「……失踪状況、黒い痣、鈴の音、巫女服の女……」


佐伯は、記事を読み返しながら口に出して

その要点を一つひとつ繰り返した。

メモにはさらにこう書き加えられている。


《被害者は数日かけて体調が悪化。

入院・精密検査を経て死亡。原因は不明》


佐伯の眉間に深い皺が寄った。


(やはり、酷似している……)


連続で起きた顔削ぎ事件。

その異様な遺体の状態と、神社で起きた過去の失踪事件。

繋がるはずのない線が、一本の太い縄のように結ばれていく感覚。


「黒い痣、神域での失踪……巫女服の女……これは、ただの偶然じゃない……」


唇を噛み締め、ペンを置くと、佐伯はすぐに携帯電話を手に取った。

発信先は、昨夜まで共に話し合っていた刑事――志摩重蔵。


『……もしもし、佐伯さんか』


「志摩さん、重要な話がある。二十年以上前の未解決事件。

 静岡の山神社での失踪事件を覚えてますか?」


『ああ? いや、初耳だな……』


「……その事件、内容が酷似してるんです。

 黒い痣、鈴の音、巫女服を着た女の目撃証言。

 顔を削がれちゃいないが・・・

 被害者は体調不良を訴えて入院、最終的に原因不明で死亡している」


受話器の向こうで志摩が息を飲むのが分かった。


『それ……矢代が言ってた。

 監視映像に、巫女服を着たような人物が映ってたって』


佐伯の眼が鋭く光る。


「やはり、間違いない。これはメッセージです。

 黒い痣と胃から出てきた繊維状の物

 あれは儀式に使われた“紐”のような。呪術の道具ですよ」


『だが……何故儀式なんだ? 偶然、って可能性は……』


「痣と巫女、それに神域――

 これだけ要素が揃えば偶然では済まされませんよ。

 霊的な存在、そして儀式……私にはそうとしか思えない」


佐伯は声を抑えながらも、言葉に熱を込めた。


『分かった。……だが気を付けろよ、佐伯』


「ええ。実は、そっち方面に詳しい知人がいましてね。

 詳しく話を聞いてみます」


電話を切った佐伯は、少しの沈黙の後

すぐさま連絡帳を開き、一つの番号に電話をかける。


コール音が二回鳴ると、女性の声が聞こえた。


『はい、占い処・天朱堂てんしゅどうです』


「久しぶりだな、紫月。佐伯彰人だ」


『あら、珍しいわね佐伯さん。どうかしたの?』


「少し……相談したいことがあって。時間、取れるか?」


『ちょうど良かったわ。

 今日の営業、夜の七時で終わるからその後なら大丈夫』


「助かる。じゃあ、七時に伺う」


『了解。楽しみにしてるわ』


紫月しづき――

本名を伏せ、霊能師として活動している三十代の女性。

新宿の片隅にある店「占い処・天朱堂」で

多くの人々の悩みを霊視によって解決してきた。

その実力はオカルト業界でも高く評価されており

佐伯にとっては“最後の鍵”ともいえる人物だった。


そして、その夜。


東京・新宿の裏路地。

ネオンの光が消えかけた看板にぼんやりと

『天朱堂』の文字が浮かんでいた。


佐伯は重い足取りで店の前に立ち、扉を押す。

控えめな鈴の音が鳴ると、店の奥から女性が現れた。


紫月は淡い紫のワンピースに黒のカーディガンを羽織り

落ち着いた雰囲気を漂わせている。

だが、 その”目”は何かを見通すように鋭い。


「いらっしゃい、佐伯さん。随分と、険しい顔してるわね」


「そう見えるか?」


「ええ。何か、“見てしまった”目をしてる」


佐伯は苦笑しながら頷いた。


「……時間、いいか?」


「もちろん。奥へどうぞ」


紫月に促され、佐伯は静かに店内を進んでいった。

その背後で、先ほどの鈴の音が不気味に揺れた。


その音は、確かに昨夜――

あの会議室で聞いた鈴の音と、同じものだった。


佐伯は足を止め、ほんの一瞬、振り返る。


誰もいない空間。


しかし、空気の中に何かが“いる”気配があった。


「……やはり、来ているのか?」


その呟きは、誰にも届かず

霧のように消えていった。


そして、扉が静かに閉まる音が

闇の中へと溶けていく。


やがて、全ての光が薄れた店内には

不気味な沈黙が支配し始めていた……。


(→ 次話に続く)




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