第12話 逸失の記録1【前編】
「黒い手帳」にまつわる奇怪な事件は、都市伝説として
オカルトファンの間で語り継がれてきた。
しかしその裏では、ある心霊スポットを訪れた者たちが
次々と消息を絶ち、悲惨な末路を迎える出来事が続発していた──。
これは、梓の視点を離れ
行方知れずとなった若者たちの記録である。
──最初の通報が入ったのは、午前3時27分。
八王子市のはずれ、静寂に包まれた夜の山中に位置する
「水子供養 真の道」付近の茂みで、ひどく損壊した状態の遺体が発見された。
通報者は、肝試し目的で現地を訪れていた若者グループの一人で
名前も顔もニュースには出てこない。
発見された遺体は20代と見られる若い男性で、身元の特定には時間を要した。
翌週には「八王子城址」
さらにその翌日には「御主殿の滝」付近でも
似たような形で2体の遺体が発見された。
いずれも共通するのは──
「目元を中心に顔面が削り取られている」こと。
……そして
「遺体の周囲に不自然に残された、足跡のような痕跡と土の掘り返し跡」。
警察は連続事件の可能性を視野に入れ、現場に鑑識班を投入。
だが、決定的な証拠も、加害者の気配も一切見つからない。
警官たちは皆、どこか怯えたような目をしていた。
そして、物語の焦点はあるグループへと移る。
人気動画配信チャンネル『ゴースト・ZX』。
5人の若手ユーチューバーで構成された
実験・都市伝説・心霊検証などを専門としたチャンネルだ。
メンバーは以下の通り
・ショウタ(リーダー格で飄々とした性格。MC役)
・タカ(冷静沈着な技術担当。カメラ操作や編集が得意)
・リョウ(ムードメーカー。リアクション担当)
・ケンタ(天然ボケで怖がり。視聴者からの人気が高い)
・リオ(唯一の女性メンバー。理知的でツッコミ役)
ある夜、彼らはリスナーからのリクエストに応じ
過去にネットで「呪われた廃神社」として
噂されていた心霊スポットを訪れる。
場所は、八王子市のさらに外れ。
地図にも載っていない山中に
ぽつんと存在する廃神社。
「今回は特別編! 今話題の『呪われた廃神社』で生配信!」
軽いノリで始まった撮影は、徐々に異様な空気に包まれていく。
最初に異変が起こったのは、神社の裏手に回ったケンタが
「何か見える」と言い出した時だった。
「……地面、掘られてない? ここ」
画面に映ったのは、やけに新しい土の掘り返し跡。
周囲には誰のものかもわからない足跡が点々と残されていた。
「おい、ふざけんなよ……マジでやばいかも」
緊張感が走ったその瞬間、リョウとケンタの姿が映像から消えた。
突然のカメラのブレ。
そのまま映像はブツリと切れ、生配信は中断。
残されたメンバーが捜索を始めるも、二人の姿は見つからなかった。
リオの震える声が録音にかすかに残る。
「ねぇ……あれ、さっきの掘った跡、なんか、動いてない?」
その日の夜遅く、彼らは警察に通報。
翌朝、廃神社の境内裏手で、ケンタとリョウの所持品のみが発見される。
だが、肝心のふたりの姿は見つからなかった。
そして、廃神社の奥──
梓がかつて「黒い手帳」を掘り出したあの場所には
新たに掘り返された跡と、血のような液体の染みが残されていた。
(→ 後編へ続く)