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第1話 目覚めの刻

ぬるり──背筋を這うような感覚で、椎名梓は目を覚ました。

時計は深夜二時を指している。

空には月がなく、東京郊外の住宅地は音ひとつ立てず

凍りついたような静けさに支配されていた。


築四十年を越える木造アパートの二階。

梓の住まいは、畳のにおいと防虫剤の残り香が混じる

どこか懐かしくも古びた空間だった。

普段なら隣室の生活音が壁越しに聞こえる。

だがその夜に限って、どこからも音がしない。

不気味なほどに。


寝汗で湿った額を拭いながら、梓はゆっくりと起き上がる。

喉が渇いていた。

冷たい水を求めてキッチンに立ち、蛇口から注いだ

水の音が異様に大きく部屋に響く。

夜の空気が、肌にじわりと冷たさを伝えてくる。


──何かがおかしい。


フリーのライターとして、梓は怪談や都市伝説を専門に取材していた。

不規則な生活には慣れていたが、今夜の悪寒は

ただの疲労や睡眠不足によるものではない。

まるで誰かに

いや、“何か”に見られているような──。


数日前から追っていた都市伝説のせいかもしれない。


「黒のダイアリー」──SNSでささやかれ始めた謎の黒い手帳の噂。

その手帳に名前を書かれた者は、数日後に“顔を失って死ぬ”という。


最初は興味本位だった。

ただ、関連する投稿が急速に削除され

発信者までもが、アカウントごと消えるという異常事態に

梓の記者魂はざわつき始めていた。


そして、その夜。

何の前触れもなく、ポストに一通の封筒が届いた。


差出人は不明。

開けると、中には震える筆跡のメモが一枚。


「あなたも、知ることになる」


それだけが書かれていた。

他には、黒く重たい手帳と古びた地図。


手帳は、異様な存在感を放っていた。

触れた指先が、微かに痺れる。

まるで、これは本当に

「触れてはならないもの」──。


中を開くと、血に似た赤黒いインクで

びっしりと人名が書かれている。

しかも、筆跡がすべて違う。

まるで、無数の人間がそれぞれの手で

呪いを継ぎ足していったかのように。


梓の心は、その瞬間から静かに決壊していた。


地図に記されたのは、東京都八王子市の山中。

不鮮明な線と、見慣れぬ記号。

そこに、ある廃神社の存在が仄めかされていた。


次の日。梓は、そこへ向かう決意を固める──。


(→次話へつづく)

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