とある貴族夫婦のお弁当。
なろうラジオ大賞用小説第十弾
私は今、世界の中心と呼ぶべき場所の片隅にいた。
中心なのに片隅とはいったいどういう事かと思うかもしれないが実際にそうなのだから仕方ない。
ついでに言わせてもらえれば、現在私がいるのは、私の娘のジュリアの晴れ舞台と言うべき場所。
ジュリアの婚約者となるハズだったこの国の殿下が建造を指示し、ついにお目にかかれるようになった闘技場の、VIP用の観客席である。
中心なのに片隅とはそういう意味だ。
そしてその闘技場にジュリアは。
なんと格闘家として入場する事になっている。
娘を持つ貴族としては複雑な気持ちである。
だがそれは私がまだ古い考えを持っているせいだろう。
娘と殿下、そして殿下の恋人であるという下級貴族の娘が変えた今のこの国には正直違和感しか覚えないのだが……前以上に国民が活気づいているため、いい加減認めざるをえないとは思うがそれd――。
「あなた、早くジュリアが監修したお弁当を食べましょうよ!」
するとその時だった。
妻が目を輝かせながらそう言ってきた。
と同時に私は思い返す。
ジュリアがなぜかウチの屋敷のシェフにメニューの変更を指示し。
そしてそのおかげで私と妻の体の怠さなどがなくなったその事実を。
どういうワケだかジュリアは栄養面の知識に明るかった。
貴族の令嬢なのに肉体を鍛え始めたその奇行には頭を痛めたがそんな事があったため彼女にむやみに注意できない。
この国が変わり始めたせいもあるがとにかく私は……複雑な気持ちではあるが、これからもジュリアを見守るつもりだ。
「そうだな。今回もまたプロティンが入っていたりするんだろうか」
「フフッ、そんな事もありましたねぇ」
妻とそう言い合いながら弁当を開ける。
まだ昼食には早い時間だが妻はすっかりジュリアの監修した料理のファンであるためこれからの夫婦仲のためにも彼女に合わせて一緒に食べる。
というか男女平等の時代になりつつあるため、一方的に私が妻の行動をどうこうしようなんて事はできないのだが。
「……今回も、うまいな」
食べるなり思わず口に出る。
ウチのシェフの料理は普段からうまいのだがジュリアが監修するとこれまた旨味が増しているような気がする。
もしや、私達の体を心配するが故の愛も入ってるのか――。
「あなた! ジュリアが!」
――妻はいつの間にか食べ終えてた。
まさか早食いができるほど妻はジュリアのファンに!?
正直驚きなのだが、妻の言う通りジュリアが入場したため私は慌てて食べた。