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第六夜 貴族の娘と仕える兵の物語

「これは一体」


 吟遊詩人が王子の寝室に入ると、果物の香りが漂っていました。

 目が見えない分嗅覚は敏感で、香りだけで種類がわかります。

 ハウフ林檎トゥファーフマンゴー(マーング)


「これからは世語りの時間に好きなのを食わせてやる。そうすれば、一日も長くここに居たくなるだろう。女官たちからお前の好物を聞いて用意させた」


 以前、宝石は要らないと言ったからか、食べ物で釣るつもりです。

 おそらくは王子なりの謝意。

 子どものような不器用さに、吟遊詩人は微笑しました。


「では、うたの前に林檎を一ついただけますか」

「俺が直々に剥いてやろう。ありがたく思え」


 王子はやはり、どこか残念でした。

 ある貴族の家に、藍の髪をもつ貴族の娘が生まれました。

 美しき容姿に、穏やかな人となり。娘に惹かれる者は多く、嫁にほしいと言う人は両手の指の数以上いました。


 けれどどんなにお金持ちの貴族の求婚されても、首を縦に振りません。

 娘は、家に仕える一人の兵に恋をしていました。


 金色の瞳を持つ、寡黙な男です。

 魔物(ジン)が具現化したらこうなると揶揄されるほどのガタイ。

 その実、気弱で、小鳥に懐かれるような心優しい人でした。


 兵が嫁をとれば、身分違いの恋に諦めがつく……そう考えていたのに、何年経っても兵は嫁を迎えません。

 だから娘は問いました。

 どんな人を娶りたいのか。


 兵は静かに目を背けます。

 想ってはいけない人を愛してしまったのです。その人がどこか良家に嫁げば、この気持ちを忘れて新しい恋をできるでしょう。


 どちらも未婚のまま幾年すぎ、もう若くない娘には縁談も来なくなりました。


 お互いのシワの数を数えるような年になっても、ずっと、大切な人が伴侶を得るまでは……と。

 王子が眠り、吟遊詩人は女官に手を引かれて部屋に戻ります。

 娘と兵は互いに想い合っていました。

 どちらか一方が、ひとことでも好きだと言えたなら、結末は違ったはずです。


 だから吟遊詩人は思うことを言葉にして生きるのです。二人のような後悔をしないために。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 少しずつ、少しずつですが、王子も変りつつあるのでしょうか。 お互いに想いあっているのに、互いの立場を考えて言えずに終わった関係。 どちらかが、口にしていれば少なからず何か変わったかもしれ…
2024/03/26 20:46 退会済み
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