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第五夜 子のない老人と猫の物語

 翌日、吟遊詩人は熱を出して医師の診察を受けることになりました。

 枷の金具で足が傷つき、膿んでしまったのです。

 薬湯の効果は微々たるもの。

 医師が枷を外さないと命に関わると進言しました。


「外せばこいつは逃げてしまう。そうしたらおれはまた眠れなくなるではないか」


 吟遊詩人がぐったりしているのに、王子は自分のことを心配しています。


「このまま悪化すればわたしは死ぬでしょう。それなのに傷を放置してうたえとおっしゃるのですね」


 心無いと指摘されて、王子は唇をかみました。


「…………外してやれ」

 

 まわりの人間は安堵します。

 みんな王子を恐れて言えずにいただけで、子どもが囚人のような扱いを受けるのは心苦しかったのです。


 吟遊詩人は熱が下がってから、夜語りに戻ります。



 あるところに藍の髪をもつ老人がいました。

 妻に先立たれてもう十年。

 今は妻とかわいがっていた金目の猫と暮らしていました。

 子のできない夫婦だったので、この猫が我が子のようなもの。

 老人は少ない収入でも猫の好物を用意して、猫が怪我をすれば丁寧に手当します。


 猫も老人のことが大好きで、名前を呼べばどこにいても応えるし、寝るときは老人の布団で一緒に寝ます。

 

 老人が天寿を全うしたときも、猫はそばに寝ていました。


 老人は真面目で、もしものときは猫のことを頼むと近所の青年に頼んでいました。


 約束通り、青年が猫を引き取ります。

 猫は青年に引き取られてからも毎日老人の家に通いました。

 もう開かない扉の前に寝そべり、帰ってくるのを待ちます。


 青年が、もう帰ってこないんだよと教えても、猫は老人の家に通いました。

 猫の言葉で、老人を呼びます。

 いつかまた抱きしめてくれると信じて、呼び続けました。


 翌年、猫は老人の家の前で召されました。

 本来なら獣は人と同じところには埋葬されませんが、青年は二人のことを考えて老夫婦の墓の隣に埋めてやりました。


 金目の猫は、老人にとって最愛の我が子だから、親子を引き離すことなどできませんでした。

 王子が眠り、吟遊詩人は部屋に戻りました。

 吟遊詩人は寝ている間、夢を見ます。

 夢の吟遊詩人は色のある世界にいます。

 あるときは狼の娘に、またあるときは辺境の村の少年に。


 夢から醒めるたびに、いつか夜語りから開放されて、藍と金のふたりに巡り会いたいと思うのでした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今回のお話、切ないけれど良い話でした。 猫には可哀想ですが、老人が先に逝ってよかったです。 猫も老人の墓の隣に埋葬されて本望だったでしょうね。 単なる千夜一夜物語ではなく、毎回ストーリー…
[良い点] 王子は吟遊詩人の言葉で自分の行いを少しずつこうして恥ずべきものなのだと気づいていくのかな……。 王子の周りの人も言えなかっただけで、何もできない自分たちを心苦しく思っていたんですね。 …
2024/03/25 20:09 退会済み
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