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第十七夜 娘を育てる未亡の母と、娘を見初めた男の物語

「其方が夜語りするようになってもう百夜か」

「そうですか。もうそろそろ、わたしが謳わなくても眠れるようになったのではないでしょうか。ハレムの住人に頼めばいくらでも謳ってくれましょう」


 期待半分、諦め半分で吟遊詩人が口にすると、期待を裏切る言葉が返ってきます。


「あいにくハレムの希望者は皆無でな。閑古鳥が鳴くというのはああいうのを云うんだろう」

「皆さん命は惜しいですからね」


 相手は気に食わない者を片っ端からクビにしていた暴君。権力が欲しい人間でも、命が何より大事だと揶揄します。

 王子が睨めばほぼすべての者が命の終わりを感じて震え出すのに、吟遊詩人は何も見えていないので、素知らぬ顔。そばで見ている侍女の方が、最悪の事態を想像して震える始末です。


「命知らずなやつだ」

「気に食わないならどうぞ、クビにしてください。本望です」


 切り捨てられるわけがありません。短く舌打ちして、王子は吟遊詩人にうたうよう命じました。

 ある村に母娘がいました。

 藍色の髪の母に、舌ったらずな幼い娘。夫を事故で亡くして以来、二人だけで暮らしてきました。

 母は娘を親に預けて、仕事をします。

 スラムのゴミ山に捨てられている雑貨を修復して売るのです。

 娘と暮らすのにやっとの収入ですが、愛する人の忘れ形見である娘のために頑張りました。

 娘はそんな母を尊敬していました。


 やがて娘は成長し、隣町の男に見初められます。

 金眼が印象的なその男は、誰もが羨む美貌。引く手は数多で、すでに妻が三人いました。

 そして、娘に言います。

 妻に迎えて生涯愛し、世話してやろう。その代わり母親と縁を切れ、と。

 母は長年の無理が祟り、伏せっていました。その世話まではしないと言い放ちました。

 娘は縁談を断ります。

 母がいなければわたしはここにいませんでした。だから母とあなたを天秤にかけるまでもありません。

 人に母を捨てろと言う前に、己は愛されて当然だという驕りを捨てるべきです。


 母は自分のせいで娘の縁談がなくなってしまったことを詫びますが、娘は笑います。

 数年後、母ごと愛してくれる人に出会い、三人で幸せに暮らしました。


 うたい終わり、吟遊詩人は思います。

 今は夜語りで眠るからこうして命を取らずにいてくれますが、王子は吟遊詩人が病を抱えうたえなくなったらどうするのだろうかと。

 この母娘の娘のように、利益がなくなっても大事にしてくれるかどうか。

 考えても無駄なことだと思い直し、首を左右に振って考えを払いました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大切にここまで育ててくれた母を見捨て(縁切りして)まで、 男の元に嫁ぐことを選ぶと思ったのでしょうか。 傲慢な人……。 母ごと愛してくれる人に出逢えてよかったですね。 利益がなくなって…
2024/05/15 23:24 退会済み
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