第十六夜 天涯孤独な男と鷹の物語
吟遊詩人が桃を食べていると、王子が問いかけてきました。
「其方に家族はいるのか」
「いたならば、娘を幽閉するあなたを殺しに来ているでしょう」
「そうだな。意味のないことを聞いた。……今宵の歌をうたえ」
王子は話を変え、吟遊詩人を促しました。
ある町に藍の髪を持つ男がいました。
天涯孤独の身で、飼っている金目の鷹だけが家族でした。
鷹は男の言葉を静かに聞いて、そばにいてくれるのです。
ある日町を訪れた貴族が、ひと目見て鷹を気に入ります。
貴族は、遊んで暮らせるだけの金をやるからその鷹を譲ってくれと言いました。
男は唯一の家族を手放すなんてできません。
大金を積まれても断りました。
手に入らないとなるとますます欲しくなるもので、貴族は金に加え、娘を嫁にやるとまで言い出します。
男は父の横暴で嫁ぎ先を決められてしまう娘が哀れになりました。
だから貴族に言いました。
僕はどんなに望んでも家族がいない。こんなことのために、家族を手放してはなりません、と。
娘はその言葉を聞いて男に惚れ込み、自ら父の元を離れて男の妻になりました。
娘に見放され、ようやく貴族は己のしたことの愚かさに気づくのでした。
うたい終わり、王子は眠る。
吟遊詩人は部屋に戻ります。
人の命をたやすく奪える王子に親がいるのに、自分にはもう親がいない。
眠るときにいつも頭をなでてくれていた母を思い出し、少し寂しい気持ちで横になりました。