第十四夜 母を早くに亡くした父子の物語
吟遊詩人が王子の部屋に入室すると、なんとも言えないオーラを感じました。
「今日は不機嫌ですね」
吟遊詩人は見えないぶん、気配を感じ取れます。
「お前に言ってもわからんだろうが、そろそろハレムを作れと母上に言われたのでな」
「庶民にはわからないので、幸せでございます」
王は後宮に囲う妻の人数が権威の証。庶民に理解しろというのが無理な話です。
多くの男が羨む美女のハレムも、他人にさほど興味がない王子には面倒事でしかないのでした。
ある町に藍の髪の男がいました。
仕事に打ち込んでいて、あまり家庭を省みない男です。
男には妻の忘れ形見である、金の瞳の娘がいます。
娘は王宮の下女をしていたのですが、王様に見初められ、ハレム入りをと指名されます。
娘も王に惹かれていましたが、最近父親が体を壊して寝込みがちなので、ハレムに行くのをためらいます。
これまであまり親子の時間をとれなかったけれど、それでもやはり父が心配でした。
父は娘に言います。
娘が幸せになるのを見届けれるのが最後の仕事だ、いつまでも嫁がずそばにいるなんて親不孝してくれるな。
父に言われ、娘は王に嫁ぎました。
結婚後間もなく父は亡くなり、娘もやがて親になりました。
生まれた我が子に語り聞かせます。
自分の父はとても子を思う優しき人だったのだと。
吟遊詩人は侍女の手を借りて自室に戻り、寝床に入ります。
暴君のハレムに来る娘がどれほどいるでしょうか。
よほど出世への野心あふれる貴族でもないと娘をよこしてこないでしょう。
どうなることやら、他人事で眠りにつきました。