第十ニ夜 同じ少女に恋をした二人の男の物語
「お庭に出る許可をありがとうございます。やはり花は良いですね」
吟遊詩人は王子に頭を下げます。
今日の昼は庭に出してもらえたのです。
これまで王子の部屋と自分の部屋の往復以外許されていなかったので、かなりの譲歩です。
「これで少しは長居したくなっただろう」
「同意しかねます」
家に帰してもらえないのにはかわりないので、吟遊詩人は半眼でした。
あるところに藍の髪の男がいました。
男には幼馴染みがいます。
金の瞳の青年です。
二人は成長し、やがて同じ少女に恋をしました。
男は資産家の息子だったので、少女に宝石のついたアクセサリーを贈ります。
青年は母と二人の慎ましい暮らしなので、装飾品など用意できません。
それでも精いっぱい想いを伝える方法を考え、愛の言葉と一輪の花を贈りました。
少女が受け取ったのは青年の花。
なぜ自分が選ばれないのかと、男は憤ります。
宝石よりも一輪の花が選ばれるのは理解できない、と。
少女は答えます。
これはわたしが一番好きな花。一輪でわたしは幸せな気持ちになれました。
花に価値がないと思う人とは、幸せになれる気がしません。
青年は少女を妻に迎え、毎年結婚記念日には花を贈りました。
男もやがて妻を迎えました。
男が病にかかったとき、献身的に支えてくれた侍女です。
宝石よりも価値があるものに、ようやく気づけたのでした。
うたい終わり、吟遊詩人は侍女の手を借りて部屋に戻ります。
王子が宝石よりも価値のあるものを見つける日がくるよう、ひっそり祈りました。