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第十夜 貧乏な男と難病の妹の物語

「なぜ父親は、商人をやめてしまったんだ?」


 吟遊詩人は怪訝な顔をしました。


「……終わる前に眠っていましたよね。なぜ、知っているのですか」


 吟遊詩人は自分が眠る間に見ている夢をうたっています。

 だから、他の人は結末を知るはずがありません。


「夢を、見た」


 王子は眠る間、夢を見るようになっていたのです。

 吟遊詩人がうたう人々の、その後を。

 あるスラムに青髪の男がいました。

 家は貧乏で、その日食べるものにも困る有様でした。男には金色の瞳の妹がいて、妹の幼い体は難しい病に蝕まれていました。


 男はある日ゴミの山のなかから、不思議なランプを拾います。

 汚れを落とせば売れるかもしれない。薬を買えるかもしれない。

 袖でランプを拭うと煙が出てきて、煙は人の形になりました。


 魔神ジンが封じられたランプだったのです。


 封印から助けてくれたご主人様に、ひとつだけ願いを叶えてやろうと魔神は言います。

 大金持ちでも、美女ばかりのハーレムでも、叶えてやる。


 男は答えます。

 妹の病を治してくれ。

 魔神の魔法で、妹の病は治りました。



 けれど魔神へ願い事をするには、大きな対価が必要だったのです。

 男の存在は消え、はじめから(・・・・・)世界にいなかったことになりました。

 魔神は自由になったことを喜び、どこかへ飛んでいきました。


 妹は自分に兄がいたことを覚えておらず、まわりの人も、その家の子は娘がひとりだけと思っています。


 やがて妹は結婚し、男の子を産みます。

 産まれた子に、名前をつけました。

 かつて魔神に消されてしまった、男の名を。


 吟遊詩人は最後までうたわず、うたを終えます。

 王子の投げかけてきた質問で、もしかしたら、と思ったのです。

 もしも王子が、消えた男の名を知っていたなら。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 夢の続きを夢に見る王子。 王子の髪は「藍」。そして、同じく夢を見る「金」の瞳の吟遊詩人。 吟遊詩人も何かに気づき始めたみたいですね。 魔人の魔法で、妹の病を治してほしいと願った兄。 他…
2024/03/30 21:43 退会済み
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