奔走する
父親であるライヴリィ男爵が作った鉱山の事業に伴う借金は、私がスクリフ子爵の孫と婚約することで、一旦ゼロに戻った。というのも、スクリフ子爵家から多額の結婚準備金が贈られたからだ。本来は、パメラの嫁入りに備え、いろいろな支度に使われるためのお金。それが借金の帳消しに使われたのは……仕方ない。
だが、鉱山事業は時間も労力もお金も。何もかもにお金がかかる。そしてそれはすぐに借金となってしまう。そんな借金綱渡り生活とはおさらばしたい。
生活が安定し、このまま問題なく私がマクシエンと結婚すれば、悪役令嬢として断罪されることはないだだろう。
借金のない平和な我が家=マクシエンと結婚=悪役令嬢にならない=断罪回避。
この状態を作り出さねばならない。
そこで私は必死に乙女ゲームの悪役令嬢パメラに関する情報を思い出す。
そして奇跡が起きる。
思い出したのだ。
ライヴリィ男爵は、後に伯爵位を賜ることになる。それは言うまでもない。パメラが第三王子の婚約者に選ばれるからだ。王族と結ばれるに相応しい地位をということで、父親が伯爵位を賜り、パメラも伯爵令嬢になる。
その際、父親の領地が増え、そこにあった鉱山から金が産出されるのだ。
現状、その土地がどうなっているのかと確認すると……。
そこは平民成り上がりの男が領主として治めていたが、その男は不慮の事故で死亡し、未亡人とその娘が一応、領主の跡を継いでいた。領地内に金山があるとは、未亡人は勿論、誰も気づいていない。その未亡人は、まさに再婚相手を探していた。できれば再婚相手と共に、今いる土地から、離れようとしていた。
ただ、その未亡人。かなり選り好みをしており、なかなか相手が見つからない。どうも爵位持ちの男性を狙っているようなのだが……。
爵位持ちの男性が未亡人を、しかも平民成り上がりの元領主の妻と再婚することは、なかなかない。きっとゲーム通りの流れで行けば、再婚相手の選り好みをしているうちに、財が底をつき、その土地から離れることになるのだろう。
そして治める者がいなくなった土地を国が徴収し、そして父親が私の第三王子との婚約の時に賜る――そう想像した。
いずれ父親とパメラのものになるはずの土地。ただ、私はスクリフ子爵の孫であるマクシエンと婚約している。第三王子と婚約をしない。そうするとこのまま何もしなければ、その金山は手に入らない可能性がある。でもこの金山が手に入れば、もう借金で苦しむこともなくなるだろう。
というのもその金山は、そもそも鉱山として認識されておらず、手つかずなのだ。父親が鉱山事業をしていたからこそ、新たに手に入った領地視察を行い、そこで川でたまたま砂金を発見。そばにある山が金山なのではと思い、採掘を始めると、あっさり金が見つかるのだ。
つまり、今、なかなか見つからない銅山より、間違いなくすぐ金が産出される。ならばこの山を手に入れるべきだ、今すぐに。
そこで私は画策する。
まずは自作で、記憶をたどり、地図を作成。そしてようやく、これが金山に違いない――という場所のあたりをつけることができたのだ。そばには川も流れているので、ここで間違いない。父親に遠出を頼み、この川で休憩をとらせ、そして砂金があったと思わせる。
父親の書斎の書庫には、本以外にも鉱石や砂金なども収集されていた。それを少し、拝借することにすればいい。
しかも私がマクシエンと婚約することで、借金も帳消しになった。今なら父親は、私が遠出をねだっても、聞いてくれるに違いない。そう思い、提案してみたところ……。
「いいよ、パメラ。お前はわたしにとって、幸運の女神だ」
父親はそう答え、馬車に私をのせ、屋敷を出た。
目的の川が近づいてくると、私は父親に休憩を提案。川の近くで休憩をとるのは、よくあることなので、父親も快諾し、馬車を止めさせた。そして馬車を降りた私は、川へ向かい――。
砂金が見つかったと告げると、父親は驚き、でもすぐに周囲の地理を確認した。鉱山事業を手掛けているだけあり、すぐに金山……この時点では、ただの山に目をつける。
後は知っている情報を父親に、伝えるだけだった。
遠出するに当たり、いろいろと勉強をした。街へ買い物に出た際、この辺りの土地の持ち主について知らないか、出会った人たちに聞いてみた。するとここは、未亡人とその娘が治める土地であると、画廊のオーナーが教えてくれる。さらにその未亡人は、どうも爵位持ちの男性と再婚できないか、相手を探しているらしいと、ブティックで知り合ったマダムが教えてくれた。
こんな風に語って聞かせたのだ。
この時代、ネットはないので、多くの情報が人づて、口伝え。大きな事件はニュースペーパーになるが、ちょっとした情報は、人同士で伝達された。
ということでこの話を聞いた父親は迅速に動く。
砂金が出た川の近くにある山は、鉱山として登録されていない。つまりは手つかずの山。よって早い者勝ちだった。でも突然、その山を買いたい――となれば、同業他社は勿論、その未亡人も、この山に何かあるのではと調査するだろう。そうなると未亡人は売り渋る可能性もあるし、金が発掘されたら、買うのは難しくなる。
手っ取り早い方法、それは一つ。
未亡人の再婚相手として名乗りを上げる――だった。
それは普通の子供なら思いつかないが、私は転生者であるからすぐ思いついた。そして父親も、それはちゃんと思いついてくれたのだ。こうしてその未亡人と父親の再婚が決まる。
父親はそれなりの見た目であったし、何より男爵。未亡人マリセットとその娘ロージーも、この再婚を喜んだ。一方の私も、これで借金とは無縁となり、悪役令嬢として断罪に怯えないで済むと、胸をなでおろしていた。
そんな折、訃報が届く。
私を、自身の孫の婚約者にしてくれたスクリフ子爵が、亡くなったのだ。
これはもうショックで、私は深く落ち込むことになる。父親はこの訃報と、結婚相手が未亡人であることを踏まえ、盛大な結婚式は挙げず、書類の手続きだけ済ませ、マリセットとロージーを屋敷に迎えることにした。
結婚式を挙げるとなると、ウェディングドレスを作ったり、招待客に連絡したりと、三か月から半年はかかる。この期間があれば、私はスクリフ子爵が亡くなったと、じっくり悲しむこともできたけれど……。
待ったなしで、マリセットとロージーがやってきた。
マリセットとロージーは、金髪に碧眼で、前世で言うところのフランス人形みたいだった。特にロージーは、ツインテールにしたブロンドが実に可愛らしく、着ているピンク色で白のフリル満点のドレスも、良く似合っている。
こんな可愛い妹ができて、私も嬉しい気持ちになった。
家族四人で初めて食卓を囲んだ時は、本物の家族のようで、幸福を感じていた。
実際は、継母であるマリセットとロージーだけが血縁関係があり、それ以外は、お互いに他人同士。ところがそんなことを感じさせないぐらい、楽しい夕食の時間を過ごした。
この時は、すべてが前向き、いいことずくめだと思っていた。
これからは断罪に怯えることなく、幸せになるだけだ――そう思っていたのに。
そうは甘くはなかった。
ゲーム本来の流れとは逸脱した行動をとったからだろうか。歯車が狂いだす。
お読みいただき、ありがとうございます!
【ご報告】
第4回一二三書房WEB小説大賞
一次選考通過しました(御礼)
『断罪終了後に悪役令嬢だったと気付きました!
既に詰んだ後ですが、これ以上どうしろと……!?』
https://ncode.syosetu.com/n8030ib/
未読の読者様用にページ下部にイラストリンクバナー設置しています!
この機会にお楽しみくださいませ☆彡