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ドアマット悪役令嬢はざまぁと断罪回避を逆境の中、成功させる~私はいませんでした~  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
第三弾のその後の物語

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8:自信を持ってください

「お待たせいたしました! ただ今、全員無事で、帰還です」


 約束通りのティータイムの時間に、セルジュがみんなを連れて戻って来た。

 お互いに別行動だった時間、魔獣が現れることもなかった。

 調査はスムーズに進んだという。


(良かったわ! 本当に良かった!)


 みんなの無事を祝い、また労をねぎらい、用意していたドライフルーツと水を渡す。


「ああ、この甘さに癒される」

「一仕事した後に、甘い物はたまらないな」


 騎士や農夫が笑顔になる。


 短時間の休憩兼ティータイムが終わったら、馬車が待つエリアへ戻ることになっていた。そこから日没前まで移動を続け、完全に暗くなる前に野営の準備を開始。そこで一泊したら、帰途に着く。


「ではグレイス、気を付けて」

「はい!」


 セルジュが私を好きであると認識し、私がセルジュを好きになってもいいのだと改めてわかり……。


 これまでの当たり前で、セルジュがグレイスに乗るのを手伝ってくれる。だがそうやって触れられる度に、トクン、トクンと胸が高鳴る。


 このうるさい鼓動から気を逸らそうと、私は懸命にセルジュに尋ねた。


「このセレノアで稲作は可能そうなのですね?」

「はい! 農夫が土壌の確認をして、川の様子も調べました。豊かな水源となる泉もあるので、灌漑の設備を整えることも可能です。農夫が稲作の可能性を探る一方で、わたしや騎士は魔獣の痕跡を確認しました。稲作をするためにこの場所に定住する。そこに危険はないのかと。するとこのセレノアの一帯には魔獣が生息していないようなのです」

「そうなのですか!?」

「ええ。魔獣の爪痕、糞、毛など一切見つからない。魔草樹はいくつか見つかりましたが、普通にしていれば悪さをするものではありません。セレノアの一帯を開墾し、魔族が住める場所にすることは十分に可能と判断しました」


 セルジュによると、魔獣の森は広大で、セレノアのように魔獣がいない場所も珍しくないという。


「魔族の起源は、エルフと人間と言われています」

「え……!」

「エルフは種の中で最も神に近い存在と言われ、崇高な種族とされていました。永遠を生きるエルフは、有限の命を持つ種族と交わることは禁忌タブーとされていたのです。そのエルフが人間と禁断の恋に落ち、生まれたのが魔族――とされています。そしてこの魔獣の森もかつてはエルフも暮らす場所でした。セレノアはまさにエルフが住まっていた場所なのでしょう。あの美しい泉を見ましたよね? あのような美しい泉はエルフが好むものです」

「もしかするとセレノアには見えないエルフの力が残っており、魔獣も近寄り難いのでしょうか?」


 ゆっくりと愛馬を進めるセルジュの方を一瞬振り返り、尋ねると、彼は微笑で頷く。


「アマレットは人間なのに、エルフの力を感じたのでしょうか? 実はその推理は正解です。セレノアは空気が澄んで、水も美しく、何と言うか浄化されています。この場所にいると畏怖の念が生まれるというか――。自然に感謝し、その恵みに祈りを捧げたくなります。魔獣は何となく気後れし、この場所に近づかない。何より森は広大で他に行く場所もあるので、あえてここに固執する必要もなかった――とも言えます」

「なるほど。魔族の皆さんはどうなのですか? セレノアの地に村を作り、そこで稲作を行うことに、居づらさを感じることは……?」

「居づらさを感じることはないと思います。魔族にはエルフの血も流れているので、不快に思うことはありません。そしてセレノアで稲作ができるのは、まさに願ったり、叶ったりかと。自然の恵みと大地に感謝する気持ちで、稲作ができるのです。幸福度が高い村にできるでしょう」


 セレノアの地は一年を通じて温暖であり、水に困ることもない。そして美味しいお米を収穫できたら……。確かにみんなが笑顔の村が誕生しそうだった。


「正直、父上もわたしもセレノアの地に目を留めることはありませんでした。今の王都の暮しで事足りていた……というのもあります。ですがアマレットがやって来て、新しい食文化の可能性を見せてくれました。ライスの美味しさを感じ、それを作ってみたいと思わせてくれたのです。文明というのは、今の状況に甘んじていては、発展しません。発展がない文明には衰退しかない。アマレットのおかげで、魔族は進化を続けることができそうです。とても感謝しています」


 不意に言われたセルジュの言葉。それは私の胸にしっかり染みわたり――。


「アマレット……?」

「すみません! 人前で泣くなんて……。でも嬉しかったのです」

「!」

「生贄にされるぐらい、人間界では疎まれていました。でもここではセルジュ様を含め、みんなが私に優しくしてくれる。自然と私も何かしたい気持ちになれて――。難しい政治のことはわかりません。私に出来るのはただちょっとだけ詳しい東方の料理を作るぐらい。こんなちっぽけな存在の私に、こんなふうに言っていただけて……」「アマレット」


 そこでセルジュが左腕で私をぎゅっと抱きしめる。


「人間界のあなたの周りにいた人々は、あなたの素晴らしさに気づかなかっただけです。アマレットはちっぽけな存在などではありません。道端で倒れているブラックキャットを助ける、思いやりの気持ちがある。侍女や使用人の安否を気にする優しさがあるのです。見返りを求めず、ただ素直な気持ちで他者を気遣えること。それは誰もができることではありません。多くが損得を勘定して動く中、アマレットが自然に自分と関わる者たちに親切にできること。それは奇跡だと思います。自信を持ってください」

『そうよ、お嬢さんは主がこんなに想う相手なのだから! 自分を卑下する必要はないわ! 次期魔王に愛されている私、すごい!でいいのよ!』


 グレイスまで私を励ますから……。

 馬車が待つ場所へ到着するまで、私は涙で顔がぐしょぐしょ。

 でもその涙は……流してよかったと思う。

 人間界で受けた様々な仕打ち。

 その記憶はこの涙と共に私の中から出て言ってくれたと思う。


(もう二度とルルシャやレイール、家族のことは思い出し、暗い気持ちにならないわ!)


 そう心に近い、馬車が待つ場所に到着した。


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