7:その事実
「ついにセレノアに到着したぞ!」
騎士たちが喜びの声をあげ、農夫たちは「おおお」と感動し、グラマラス美女三姉妹は「「「美しい場所です!」」」と大喜び。
まさに昼食の時間に近かったので、乾パンと欲し肉、リンゴで簡易な食事となる。馬での移動なので、スープの入る大鍋など、持ってくることは無理だった。ゆえに携帯保存食で手早く済ませた形だ。
(野営となればこれだけでも十分な食事。観光で来ているわけではないのだから、これで十分よ!)
こうして昼食を終えると、セルジュが皆に告げる。
「ではこれから調査に入りましょう。スティ、エリー、メディはここでアマレットを護衛して待機。二人の護衛騎士と従者は馬の世話を。残りは土地の調査に出発!」
セルジュの声がけに、皆が準備を始める。
「アマレット」
「は、はいっ!」
さっきグレイスといろいろ話してしまったので、セルジュをやたらと意識してしまう。
(目を、目を合わせることができないわ!)
視線を伏せていると、彼は私の手を取り、甲へとキスを落としながら告げる。
「しばしあなたの元を離れます。ですが防御の魔術陣を張るので、そこから出ないようにすれば安全です。ここからであれば、虹色に輝く泉を存分に眺められます。不便をおかけしますが、休息し、お待ちいただけますか?」
「わ、わかりました。……調査の方こそ、危険があるかもしれません。どうかお気をつけてください」
動揺して声が震えてしまったが、セルジュはそれを魔獣の森に取り残されることへの不安と受け止めたようだ。
「アマレット……! これから森の奥地に踏み入ります。そこはここよりも危険が多い。アマレットが失神することになったアレも、この森の奥にいるのです。ここで待っていた方が、気持ちが落ち着くと思います。調査結果はアマレットにも教えます。今はこの美しい泉を眺め、寛いでいてください」
そう言うとセルジュが私を優しくハグする。
そのハグをされた瞬間、胸がキュンと高鳴ってしまう。
(定められているからでもなく、恩人だからでもなく。セルジュは私を一人の人間として好きでいてくれるの……? 義務ではなく、本心で、私を愛してくれているの? 本当の王太子妃にしたいと思ってくれているの……?)
トクトクと高鳴る心臓は収まらないが、セルジュはゆっくり私から体を離すと、額へとキスをする。レーガン王国でも、ここルミナリア王国でも、同じ意味を持つ。額へのキスは祝福であり、相手の幸せを願うものだ。
「スティ、エリー、メディ。アマレットを頼んだぞ」
「「「かしこまりました、殿下!」」」
三人が声を揃え、出発の準備が整ったみんなが騎乗の人となる
「では十五時頃には戻ります」
「お気をつけて」
「「「いってらっしゃいませ」」」
こうしてセルジュたちは、稲作が可能な土地であるか。
その現地調査に入った。
◇
「アマレット様、お上手ですね!」
「とても素敵です!」
「ぜひ額縁に飾りましょう!」
グラマラス美女三姉妹によいしょされ、私は「そんな、そこまでのものではないわ!」と否定することになる。
同行することになるが、実地調査にまでついていけないことは理解していた。どこかで待機になると思っていたので、スケッチブックと木炭を持参していたのだ。つまりは時間つぶしで、木炭デッサンをできるようにしていた。
モチーフに選んだのは他でもない。虹色に輝く泉だ。
目の前の景色は虹色に輝いている。
それをモノクロの絵に変換するのは……なかなかに難しい。
でも私が描いた絵を見て、グラマラス美女三姉妹は、そこに虹があると分かってくれたようだ。
「光と影の世界がとても幽玄ですね」
「この黒の濃淡で、虹があると感じられます」
「モノクロの絵だからこそ、頭の中で想像することになりますよね、その色合いを」
木炭デッサンをしつつ、お茶を楽しみ、皆が戻るのを待つことになったが。
護衛の騎士たちは離れた場所にいる。
そこでデッサンにも飽きた私は、グラマラス美女三姉妹に女子会トークを振ることにした。つまりは恋バナを始めたのだ!
「殿下がモテモテだった、かですか?」
「そうよ、スティ。人間界から私を迎えることになり、実は殿下は初恋の相手との想いを断念することになった……そんなことはないかしら?」
「それはないと思います。殿下は幼い頃から、人間界から妃を迎えると教えられてきました。他の女性に関心を持つことはなかったと思います」
スティがそう答えるとエリーも同意を示す。
「王太子という立場ですから、社交で令嬢との交流がゼロではありません。王太子妃は人間界からやってきた女性と決まっているので、側妃にと狙っている貴族は多数いると思いますが……。あくまで側妃はもしもの時のためです。基本的にここルミナリア王国でも一夫一婦制。側妃のことを考える必要はないと思います!」
するとメディは確信をつく話を始める。
「そうですよ。世継ぎのことを気にされているのかもしれませんが、魔王陛下もセルジュ様が誕生するまでには何年もかかっています。アグネス様がこの地に体が適応するのに時間がかかった点もあると思いますが……。子宝についてはどうすることもできません。そこは焦らず、身を任せればいいと思います」
そこでセルジュには、初恋ではなくても、実は恋仲になった令嬢がいるのではないか。そう重ねて尋ねると……。
「それはないですよ、アマレット様。短い期間ですが、殿下と過ごされて、大変真面目な方であることはおわかりかと思います。そしてその印象は間違っていません。殿下は一途な方です。アマレット様という妃を迎え、その気持ちは間違いなく百パーセント、新妻へ向かっています!」
メディが熱く語り、スティがこう締めくくる。
「アマレット様はこれが政略結婚であり、殿下の本意ではないと気にされているのかもしれません。ですがそれは杞憂です! 殿下は執務では有能ですが、恋愛が得意というわけではありません。王太子妃と側妃の同時進行なんてまず無理だと思います! アマレット様が、素直な気持ちを伝えている限り、お二人は問題なく上手くいくはずです!」
スティに断言され、そしてグレイスの言葉を受け、セルジュが私を好きな気持ちは本物であると実感した。
同時に考える。
(私もセルジュのことを好きになっていいんだ。本当の王太子と王太子妃の関係になっても……許されるのね……!)
その事実は甘い気持ちで私を満たした。














