6:あ・た・し!
悪路はかなり長く続いた。
最終的に馬車はそれ以上進めないとなり、二手にわかれることになった。
二人の従者と護衛の騎士三名がここに残り、馬車を見張る。
残りは馬に乗り、森の中を進む。
「昼前には到着します。到着したら現地の様子を調査しましょう」
セルジュの言葉を合図に、皆、馬に乗る。
私はセルジュの愛馬グレイスに乗せてもらうことになった。
乗せてもらうことになったが、私はこれでも成人女性。そして馬の二人乗りは通常大人と子ども。大人が二人で騎乗は、本当に短い距離ではありでも、長距離ではあり得ない。その点について思わずセルジュに尋ねると……。
「グレイスは魔獣ユニコーンとの混血なので、通常の馬より体力があります。わたしとアマレットの二人を乗せるぐらい、造作もないこと。そしてグレイスは乗り手を選ぶのですが、最初からアマレットのことを拒絶していません。喜んで乗せてくれますよ」
ユニコーンと言えば、前世知識では乙女を好むという。私も乙女だから騎乗を許された……?
(あれ、でもグレイスは牝馬よ)
「わたしが心から大切にしている相手だと、グレイスは理解してくれたのかもしれません」
「そ、そうなのですね。それは……光栄です」
セルジュの言葉に何かを期待しそうになるが、彼はあくまで人間界からくる花嫁を気遣っていただけだ。
(ううん、違うわ! 彼は途中で私が恩人だと気づいた。そこでさらに恩返しの気持ちが高まった。大切にしたい気持ちが強まり、それが愛馬に伝わったとしても……当然よね)
私がまさにそう自分を納得させていたら……。
『まあ、なんて鈍感なお嬢さんだこと!』
突然、おばさんの声が聞こえる。
驚き、キョロキョロと周囲を見るとセルジュから「どうしましたか?」と聞かれてしまい、「い、いえ……何でもありません……」と誤魔化すことになる。
(げ、幻聴? 誰の声の幻聴なの?)
『違うわよ、あたし。あ・た・し! グレイスよ!』
(グレイス……グレイス叔母さん? グレイス御婆さん? グレ……)
『失礼ね! まだアラサーよ! ユニコーンの混血は、百五十年は生きるのよ! だからまだまだ乙女ですっ!』
(えええええ、グレイスさんって、セルジュの愛馬の、あのグレイスさんなんですか!?)
『その通り! ユニコーンの血を引いているからね、あたしにも少しばかり魔力があるの。それでお嬢さんに話しかけたのよ。……そう、あなた、我が主と婚姻関係にありながら、乙女だなんて、信じられないわ! 初夜で泥酔でもしたのかしら!?』
(泥酔!? していません! セルジュ様と私は……)
なぜか私はセルジュの愛馬グレイスに、彼との本当の関係について打ち明けていた。
『何というか……こじれているわね』
(えっ……?)
『セルジュは確かに人間の花嫁を迎える時、大切な人だからもし彼女があたしに乗る機会があったら、受け入れて欲しいと言っていたわ。でもあなたを乗せる時は、何と言うか綺麗ごとを抜きで「グレイス、頼む。彼女は……アマレットはわたしの恩人だ。わたしの全てを捧げたい女性なんだ。受け入れて欲しい。頼む」と懇願したのよ。そもそもセルジュの頼みなら、あたしは拒む気持ちなんてなかったのに!』
それはまさにセルジュの誠実ぶりを垣間見るようなエピソードだった。
『今回もそう。「アマレットはわたしの妻になった。心から愛している。わたしが生涯をかけ、守りたい存在だ。わたしの命を賭してもアマレットを守りたい。だからこれからも彼女を乗せて欲しい。永遠に」と言っていたのよ!』
これには私はビックリで「えええええ、嘘ですよね!?」と叫んでしまい、セルジュに「どうしましたか、アマレット!?」と尋ねられ、「すみません! うたた寝をしていました!」と誤魔化すことになった。
誤魔化しつつも、誤魔化し切れないのは心臓の高鳴り。
だって。
グレイスの言葉が真実なら、セルジュは私を……。
(彼は……私を本気で好きなの? 義務や恩を感じているだけではなく、本心から私を……)
『好きなのよ! でなきゃあんな言葉、あたしに言わないわよ! お嬢さん、セルジュはこの国で一番の魔族の男。そこはあたしが保障する。お嬢さんだってセルジュの良さがわかっているのでしょう? だったらお嬢さんの気持ち、伝えないと!』
グレイスの言葉に、セルジュが私のことを「好き!?」と声が出そうになり、それは咳払いで誤魔化す。
『気持ちってのはね、言葉にしないと伝わらないわよ! 察してくれと思ったら、誤解されかねない。自分の言葉で、自分で言うことが重要』
グレイスの言葉は正論で、ぐさぐさと私の心に刺さる。
『セルジュは遠慮している。生贄と思い、この国に来て、右も左もわからないお嬢さんに、自分の好きという気持ちを押し付けることはできない……そう思ってしまったのでは? セルジュは待っているはずよ、お嬢さんの気持ちが落ち着くのを。あんなに真面目な子を焦らすなんて。罰当たりよ! 好きなら「好き」って、告白なさいよ!』
「こ、告白っ!?」とついぞ声に出してしまい、「しまった!」と思い、セルジュを見る。セルジュも私を驚愕の表情で見ていると思ったが、彼の輝くような金色の瞳は、前方に向けられている。
これには「!」となり、私も視線を前方に向けて――。
まさに息を呑む。
そこには虹色の輝きを放つ泉が見えていた。














