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ドアマット悪役令嬢はざまぁと断罪回避を逆境の中、成功させる~私はいませんでした~  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
第三弾のその後の物語

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2:最強!

 コロコロ村を出発して、三十分ほど経っただろうか。

 私の膝の上で寛ぎ、ゴロゴロ喉を鳴らしていたセルジュがいきなり体をガバッと起こした。


「殿下、どうされましたか!?」


 そう尋ねた瞬間、馬車の外から叫び声や悲鳴が聞こえてくる。

 次の瞬間。

 セルジュは人型に戻り、用意していた青色の貫頭衣をあっという間に着用している!


「殿下、まさか盗賊の襲撃ですか!?」

「いえ、この気配は、強い魔力を持つ……魔草樹まそうじゅの類に思えます」


 マントをつけ、剣を手にとり、セルジュは落ち着いた様子で応じる。


「魔草樹……えーと、魔力を持つ植物のことですか?」

「そうです。魔獣の森が近づくと、魔草樹が増えてくるのは自然なこと。ただ、事前のサーチではこの辺りに魔草樹はなかったはずなのですが……」

「後ろにはスティたち侍女の乗った馬車が続いています。彼女たちに何か起きていないか心配です。従者や農夫だって、大丈夫でしょうか……!?」


 私の言葉を聞いたセルジュは「え」と驚きの声をあげ「あの三人なら護衛の騎士より、余程強いかもしれません」なんて言い出す。


 これには「えええ、それはどういうことですか!?」とセルジュに尋ねると「侍女たちが動くまでもなく、護衛騎士が対処しているでしょう。でも百聞は一見に如かず、です。馬車を止めさせましょう」と彼は答える。


 敵襲があった時、その場にとどまるか、逃げるかは状況により変わるもの。襲撃が魔獣であれば、護衛の騎士は戦闘に入り、あるじの馬車を逃すようにする。魔獣相手では、意思疎通が難しいことも多いからだ。もし相手が盗賊などであれば、あるじの乗る馬車はその場にとどまることもあった。無理に逃走しても、火矢を射られたり、執拗に追われたりするので、交渉を持ちかけるのだ。つまりこれだけ金をやるから、逃してくれ――というわけ。決裂すれば、馬車を守るようにして護衛が戦闘に突入することもあった。


(馬車が止まらず、走り続けたということは、魔草樹は魔獣と同じということ。本来、止めない方がいいはず。それでもストップしたということは、グラマラス美女三姉妹に問題はない、ということよね?)


 そこで馬車から降りると、並走していた護衛の騎士たちが心配そうにこちらを見る。セルジュは目配せと手の動きで「問題ない」と示し、私の手をとると――。


「アマレット、あれが魔草樹です」


 セルジュの言葉に後方を見て、目を丸くすることになった。

 まさにジャックと豆の木に登場しそうな巨大な蔓が大暴れをしている。


 その蔓に対し、護衛の騎士たちは剣を振るう。

 蔓はあっさり剣で切り落とされるが、すぐに再生している。


「セルジュ!」

「アマレット、大丈夫ですよ。よく見てください」


 落ち着いたセルジュの声音に、再度、蔓と護衛の騎士の方を見ると――。

 騎士たちは蔓を切り落とすと、魔術を使い、焼き落としている。

 焼き落とされた蔓は再生できないようだ。


(護衛の騎士たちはちゃんと戦えているのね! グラマラス美女三姉妹は……)


 三姉妹は護衛の騎士二人の背に隠れ、ちゃんと守られている。他の従者や農夫などの非戦闘員も騎士たちに庇われていた。


(良かったわ。みんな無事ね……!)


 安堵したその時。


 ビュンという音がして、まさかの高みの見物など許さぬという勢いで、蔓がこちらへ向かって来た。


 驚き、目を閉じた瞬間。


 ふわりとムスクの甘い香り。

 力強い腕の中に抱き寄せられ――。


「Pyr holon katakaie!(ピュール・ホロン・カタカイエ)(焼き尽くせ)」


 セルジュの呪文の声に目を開けると、目の前に迫っていた蔓は炭となり風に流れて行く。


「!」


 炎の閃光が一直線に蔓の本体を直撃。魔草樹の半分が燃え落ちた。


「すごい……」

「アマレットがいるのでわたしは今、前に出ていません。単身でしたら護衛の騎士と共に戦闘に参加していたでしょう」

「つまり私を守るためにここにいるのですか?」

「ええ、当然です。アマレットは魔術を使えない。そしてわたしの妃です。最愛を守るのは当然のこと」


「え、でもそれは建前の関係ですよね?」などと野暮なことは聞かない。大勢の騎士や使用人もいるのだ。王太子は王太子妃を守って当然だった。


(違う。たとえ私が王太子妃ではなくても、セルジュは守ってくれる。人間が弱い存在だと認識しているから)


 セルジュの優しさに特別を感じたくなるのはお門違いだ。何より、私は覚悟をしておかないといけない。


(今はまだ新婚。でもやがてセルジュは側妃を迎えると思うの。そうなればその優しさの最優先は私ではなくなる。大切な人間として扱ってくれても、彼の関心は側妃へ向かう)


 本当は私を見て欲しい。私だけを見て欲しいと言いたくなるけど……。


「セルジュ、た、大変! 騎士が蔓に捕まっているわ!」


 蔓が護衛の騎士の腰に絡みつき、ぶわんと勢いよく持ち上げている。


「……森の中なので、炎の魔術を全力では使えません。延焼する恐れもあるので。ゆえに騎士たちも火力を最小限に押さえ、戦闘しているのですが……。少々紳士的だったようですね」


 セルジュの表情が引き締まる。


(大技の魔術を行使して、魔草樹を一気に倒すのでは……!)


 仲間の騎士により、蔓に拘束されていた騎士が助けられたのを見届けると、セルジュが呪文を詠唱する。


「Chion katapsyxe!(キオン・カタプシュクセ)(凍りつけ!)」


 魔草樹が一気に氷漬けになる。


「Syntribe!(スイントリベ)(砕けろ!)」


 バリンと氷漬けになった魔草樹が砕け、氷片や氷晶が陽光を受け、虹のような輝きを生み出す。


(すごいわ……! セルジュ、最強!)


 これだけの魔術を使えるなら、人間など簡単に滅ぼせる……と思う。

 でもとセルジュの横顔を見る。


 艶やかなサラサラの黒髪。輝くような金色の瞳。通った鼻筋と形のいい唇。そして透明感のある肌に、額の★のマーク。美しく心優しいセルジュは、魔族と人間でありながら深く愛し合う両親の姿を見て育った。


(人間を滅ぼすなんてセルジュが考えることはないわ)


 それなのに私の知る乙女ゲームには魔王討伐ルートが存在している……。


(ううん。大丈夫。私が生贄になったのだから、向こう百年の平和は保たれる)


「アマレット」


 不意にセルジュがこちらを見るので、ドキッとしながら「は、はいっ」と答えることになる。


「ここでこのまま待機していれば、皆はほどなくして追いつくでしょう。でもアマレットは、皆の様子が心配なのでは?」

「はい! みんなのそばに行きたいです!」

「わかりました。お連れしましょう」


 セルジュが私の手をとり、甲へとキスを落とすと、ふわりと優しく腰を抱き寄せた。


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