プロローグ
魔族が暮らす魔の国ルミナリア王国。
中心部に城と時計塔があり、その周囲に商業区域、貴族たちの邸宅、平民たちが暮らすエリアがある。そして国の北側に広がるのが魔獣の森だった。
「魔獣の森は広大です。そしてほぼ手付かず。その理由は魔族というのは人間ほど数が多くないので、今の状態で土地も足りているのです」
「そしてその魔獣の森のエリアには、標高四千メートル級の山があり、気候の多様性があるのですね?」
「ええ、その通りです。さらに年間を通じて湿った風が吹き、山にぶつかるとことで年間を通じて雨が降るエリアがあります。熱帯と言われる場所のように緑が豊かで平均気温も常に二十度~二十五度前後あり、川もあり雨水の利用が可能です」
昼食会で、ルミナリア王国でライスを作れないのかとセルジュに言われた私は「作れたら嬉しい!」と思っていた。
この世界のパンはなんだかんだで美味しい。何せ竈があり、焼き立てを食べられるのだ。屋敷の中にパン屋が併設されているようなもので、王侯貴族であれば毎日香ばしいパンをいただくことができる。
だが前世は米文化。毎日毎日、パン、パン、パン……の日々を送ると、塩むすびを食べたくなる。お茶漬けが恋しい。チャーハンを食べたくなってしまう。
だが前世でもこの世界とそっくりなヨーロッパで稲作が行われなかったのには理由がある。社会の授業で習ったこと。気候が合わないのだ! ただ、稲作がゼロではない。パエリア文化のあるスペインやリゾットを生み出したイタリアの一部では稲作ができた。灌漑を利用した稲作も行われていたわけだ。そしてルミナリア王国は限りなくヨーロッパに似ており、その気候は夏は過ごしやすく、乾燥している。水田に適した平野は限られ、土地は牧草や麦の栽培には向いていても、稲作向きではない――。そう思ったのだけど。
昼食会の話の続きを、ティータイムを使いセルジュと行うと、実はルミナリア王国には稲作が可能そうなエリアがあるとわかったのだ!
「夏の高温、多湿で豊富な水源を持つそのエリアは、セレノアと呼ばれています」
「セレノア……。そこで稲作ができないか、検証してみる価値はありますよね!?」
「ええ、あると思います。わたしの方で調査を進めます」
キリッとした表情でセルジュに言われてしまったが……。
魔獣の森。あのバジリスクのような巨大な蛇や殻を持つ芋虫のシュニーユ、ダンゴムシのようなグソクムシのような甲殻類がいるのも……魔獣の森だ。
それを思うと、セレノアの探索はセルジュにお任せ!が正解であるとわかっている。
わかっているが……。
(気になる。私、前世では旅行好きで、六大陸のどこか一か国は旅をしていた。魔獣の森へ行くことは旅行ではなく、調査とはわかっている。それでも……)
「……アマレット」
「は、はいっ!」
「もしや魔獣の森に……セレノアに行きたいのですか?」
「え、えーと」
「きっとあの侍女たちが話したのですね。セレノアに月に照らされ、輝く泉がある話を。昼間に行けば虹が見え、夜に行けば満点の星空と輝く泉が見られる。ルミナリア王国の三大絶景の一つ。……仕方ないですね。アマレットが見たい気持ちはその表情にしっかり出ていました。わたしのそばから絶対に離れないと約束するなら、ご案内します」
これには心の中で「セルジュの誤解、万歳!」だった。
セレノアがルミナリア王国の三大絶景の一つ、だなんて聞いていない。
ただ心の中で「行きたい」と思っていたのは事実。
頭の回転が速いセルジュは私の表情の理由を先回りして考え、誤解をしてくれた。
でもそれでセレノアに行けるなら文句などない。
かくして稲作が可能場所か調査するため、私たちは魔獣の森にあるセレノアに、ルミナリア王国の三大絶景の一つへ向かうことになった。
◇
今回は調査ということで、植物学者や農夫なども連れてセレノアへ向かうことになる。そして急ぐ必要もないと、途中で一泊することから、護衛の騎士に加え、従者や侍女も同行する。つまりは結構な大所帯! そうなると転移魔術は使わず、馬車と馬での移動となる。
セルジュが魔術を使えばあっという間に目的に着けるのは事実。でものんびり馬車旅で、窓からの景色を楽しんだり、道中での出会いや発見を楽しめたりするのはいいと思う。
(何しろ私は新たにこの国の住民となり、まだ知らないことだらけ。この旅を通じ、見聞を深めることができたら御の字よ!)
ということで、ご機嫌で馬車の旅がスタートしたが……。
「殿下はそのお姿なんですね……!」
「なぁ~みゃぁあー(そうです。馬車は狭いのでこの姿の方が楽なのです!)」
なんとセルジュはブラックローズの姿で馬車に乗り込み、私の膝の上で丸くなる。
(この道中、もふりまくれる……!)
もう私はご機嫌でそのベルベットのような毛を撫で撫でし、存分にもふりまくってしまう。一方のブラックローズ姿のセルジュは、私にもふられ、ご機嫌はどうかというと……。
(ごろごろ言っている! これは上機嫌じゃない!)
喉を鳴らし、リラックスしていた。
「殿下、アマレット様、コロコロ村に到着しました。魔獣の森に一番近い村がこちらで、以後、村はなくなります。こちらで馬の交代もあり、三十分ほど休憩です。馬車から降りられますか?」
スティに問われた私はせっかくだからと馬から降りて見ることにした。
セルジュはそのままブラックローズの姿で、アイリス色のドレスを着た私の肩に乗っている!
(前世で大好きだったアニメ映画のヒロインの気持ちだわ!)
ご機嫌で、馬車から降りると――。
「わあ、王太子妃さまだ!」
「本当だ!」
「綺麗な王太子妃さま~」
出会った村の子どもたちは美少年美少女な上に、私のことを「王太子妃さま!」と呼んで、「ご結婚おめでとうございます!」とお祝いの言葉をかけてくれる。さらにお手製の花束までくれるのだ。
「ありがとう! 嬉しいわ!」
人間界からは疎まれて生贄としてこの国に送られた。
でも実際はセルジュの嫁となり、表向きは王太子妃で、実態は客人として楽しい日々を送ってくる。その上で、国民からはウエルカムで「王太子妃さま!」と呼ばれ、花束まで貰えるのだ。
(自分の存在意義を認められることが、こんなにも喜ばしく感じるなんて……!)
ここは花束の御礼で、持参していたお菓子を子どもたちに配ろうと箱を手に取ると。
「アマレット様は太っ腹ですね!」
「高級なお菓子なのに!」
スティとエリーに言われ、「やり過ぎかしら?」と首を傾げてしまう。
「にゃお、みゃーぉ(お菓子はいつでもわたしがアマレットにプレゼントします。子どもたちに配るのは賛成です)」
ブラックローズの姿のセルジュが同意し、メディもこう言ってくれる。
「庶民にもお優しいのがアマレット様です!」
そんなふうに言われ、まさに気持ちはぽかぽか。
三十分の休憩はあっという間に終わり、セレノアへ向け出発となった。
順調な旅の滑り出し、何も問題はないと思ったのだけど――。
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