どうしても作りたい料理(前編)
昆布を手に入れた私は、どうしても作りたい料理があった。
それは冬の寒い日に、五臓六腑に染み渡る旨さを提供してくれるおでん!
既に大陸は春を迎えているが、朝晩に寒さを感じる日もゼロではない。
ならばおでん、いいのではないでしょうか。
「アマレット」
「何でしょうか、殿下」
「実はアマレットが作る料理に、宮廷料理人たちが興味を持っています。次回、料理をされる際は、立ち会わせて欲しい……とのことです」
美貌のセルジュからそう言われた私は「そうなのですね!」と驚きつつ、快諾することになる。今回作ろうとしていたのはおでん。鍋で大量に作れば、宮廷料理人たちも味見できる。
「できればわたしも……立ち会う……手伝ってみたいのですが」
シルクのような肌をほんのり赤く染めて尋ねるセルジュに「手伝いは結構です」なんて言えるわけがない。こちらもまた「もちろんです。公務の都合がつけば、一緒に料理をしましょう」と答えることになる。
ここで本当はセルジュに頼み、おでんのネタになるこんにゃく、厚揚げ、がんもどきなどを手に入れるため、「もう一度、極東に行きませんか?」と尋ねたい気持ちはあった。だがそれではまるでセルジュが、昭和レトロなアッシーくんのような扱いであり、心苦しい。
(よくよく思い出せば、おでんの変わりネタはいろいろあった。この世界で手に入る物でおでんを作ればいいのよ! 何より大根は持ち帰ったものがまだ氷室にある。ここは工夫して楽しまないと!)
ということでおでんを作ると決めた日の前日、私は宮廷料理人、いつも手伝ってくれるグラマラス美女三姉妹、そしてセルジュにこう伝えることにした。
「明日の夕食は許可をいただき、私の作った料理を魔王夫妻、殿下、そして使用人の皆さんにも召し上がってもらいます。それは東の国で食べられている煮込み料理です。たいがいのものが煮込めば美味しくいただけます。その名も『おでん』に入れてみたい食材があれば、明日、持参してください!」
こうして翌日のティータイムの後。
ロイヤルパープルのワンピースに白のエプロンをつけ、グラマラス美女三姉妹を連れ、厨房へ向かうと……。
「……!」
「「「「「アマレット様、お待ちしていました!」」」」」
そこには白の料理人の服を着たセルジュと宮廷料理人以外にも、給仕をするメイドやバトラーなど大勢の使用人、騎士がいた。
「これは……」
驚く私に、端正な顔に笑顔を浮かべるセルジュが教えてくれる。
「アマレットが食べたことのない人間界の料理を作ろうとしていると、瞬く間に噂が広がり……。一品食材を持参すれば、その料理を食べられる……ということで、みんな興味津々でやってきたようです。持ち場を離れられない者は、その食材を友人に預けています」
これにはビックリするしかない。
(まさか魔族のみんながここまで人間界の料理に興味を持っていたなんて……! というか、木箱ひと箱で持ち帰った乾燥昆布だけど、今日でなくなりそうだわ……)
まったくの想定外の盛況だが、今さら後に引けない。
まさにそう思った時――。
「おおお、間に合ったか!?」
「大丈夫そうですわね。立ち会うことはできませんが、陛下と食材を持って来たわ」
なんと魔王夫妻まで、おでんのネタを届けてくれた。
◇
「魔王が置いて行かれたのは人間界ではトリュフと言われているものです」
スティにそう言われた私は声を裏返らせ、「トリュフ!?」と叫んでしまう。庶民の代表料理であるおでんに入れる食材で「トリュフ!?」と驚いてしまったのだ。
(待って。落ち着くのよ、私。トリュフはおでんの鍋に放り込んで煮込むようなものではない。使い方を間違ってはいけないわ! これは……別途使い方を考えるの!)
なんとか冷静になると、エリーが教えてくれる。
「こちらはアグネス様からです」
「これは……」
「人間界から取り寄せたホワイトアスパラガスです」
トリュフに続く高級食材の登場に、私の頭はパニック寸前!
(ホワイトアスパラガスは、前世の世界でも高級食材だった。ホワイトアスパラガス、おでんのネタにしていいの……?)
してもいいも何も、使わない方が失礼になると考え、投入を決定。
「わたしは人間界からこちらを取り寄せました」
セルジュが持参したのは、ウィンナー&ベーコン!
前世のおでんでも、この二つを入れていた私は笑顔で「ありがとうございます!」と受け取る。
「この二つは合います。殿下のチョイスは大正解です」
「そうですか。そう言われると嬉しいです」
私に褒められ、はにかみ笑いの美貌のセルジュは眼福!
ウィンナーは一口サイズなので、そのまま使用で、ベーコンはカットする必要がある。そのことを伝えるとセルジュは「カットならわたしでもできます!」とナイフを手にとる。
セルジュが器用にナイフを扱う一方で、続いて使用人や騎士たちが持ち込んだ食材は、私の頭に「???」が浮かぶものばかり。
「こ、これは……!」
「こちらは乾燥させたビッグ・アンツですね。ヘッドバトラーが用意しました。魔族の間では高級食材です。甘酸っぱさがあります」
メディの言葉を聞いた私はピンとくる。
(アンツ……蟻ね。見た目はあれだけど、甘酸っぱいならすり潰して調味料にできそうだわ。でもおでんには使わないわね……。これはいつか使う用にストック!)
「アマレット様、こちらはすぐ使わないのであれば、氷室へ移しますが」
「! スティ、こ、これは……」
「こちらは騎士団長が持参したホグの足ですね。煮込み料理では定番です!」
「ホグ……」
「ホグは人間界では豚と呼ばれているかと」
すかさず美貌のセルジュが教えてくれて、私は理解する。
つまりはホグの足は豚足ね! でも丸太みたいに太くて大きい……!
しかも山盛り……。さすが騎士団長。太っ腹だけど、これだけの量があると、単品これ一つでおでんを作る事態になってしまう。
「これは一つ使うとして、下処理をした方がいいわね。残りは氷室へ」
「かしこまりました!」
こんな感じで用意されている食材を検分しながら、厨房の竈は全て鍋でお湯を沸かしている。そして採用が決まった食材は、宮廷料理人たちが調理開始。下処理や下茹でをスタートさせる感じだ。
「アマレット様! 私も持参しました!」
そこでスティが差し出したのはじゃがいも!
「まあ、これはポテトね!」
「ポテト……というのですか、人間界では。ルミナリア王国ではロックベジと呼んでいます」
(岩みたいな野菜……ということかしら? 呼び名は違えどおでんにポテトは合う! スティのセンスは最高ね)
「アマレット様、私はこれを持参しました!」
エリーが持参したのは、斑点のある卵であり、それはウズラの卵そっくり!
「これは……」
「ボブホワイトの卵です! 小さくて可愛いですよね。親鳥は怪鳥の一種で巨大ですが、卵は小さいのです」
どうやら魔獣のようだが、見た目はうずらの卵そのもの。これはゆで卵にして投入で問題ないだろう。
「私はこちらを入手しました!」
「これはトマトね!」
「アマレット様はご存知でしたか! ものによっては甘みもあり、とても美味しいのですよ。でも人間界の皆さまは毒リンゴと呼び、召し上がりませんよね。魔族は美味しくいただいています!」
メディの言うことは正しい。トマトはレーガン王国では「毒が含まれている。食べると危険」という扱いになっている。理由はその真っ赤な血のような見た目と、トマトを食べて不調を起こした人がいるという話が広く知られているためだ。
だがそれらはまったくの誤解であり、トマトは美味しくいただける。ただ毒扱いされているので、栽培もされず、私はレーガン王国では食べることができなかった。しかし毒はなく、そしておでんにトマトは――。前世でもあり!だった。
「メディ。トマトを入れたおでんは、とても美味しいと思うわ! 入れましょう!」
こうして全員が食材を提出。私も大根を使ってもらうことにして、宮廷料理人に渡す。そしてぐつぐつと沸騰している鍋から、昆布を取り出すと――。
「第一弾のおでんを作ります! といっても準備ができた食材を投入し、三十分ほど煮込むだけですが――。絶品ですよ!」
私の言葉に、セルジュ、宮廷料理人、グラマラス美女三姉妹、そして大勢の使用人が笑顔になった。














