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ドアマット悪役令嬢はざまぁと断罪回避を逆境の中、成功させる~私はいませんでした~  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
第三弾のおまけの物語(読み切り)

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ふるさとの味わい

 この世界に転生し、まさか東の国に行くことになるなんて!


 到着した東の国は、前世の歴史で学んだ世界に近いものだった。農民がいて、武士がいて。商人がいて、町は活気にあふれている。


 言葉は私が頑張り、お目当ての調味料と山菜を得て、温泉宿で一泊。そこでちょっとしたハプニングもあったが、無事、帰国出来た!


「さぁ、遂に山菜の天ぷら蕎麦を作るわよ!」


 ということで、ランチでセルジュと魔王夫妻に出せるように、準備を始めることにした。グラマラス美女三姉妹も手伝ってくれる。


「まずは山菜の天ぷらを作るわ!」

「アマレット様、天ぷらとは何ですか?」

「天ぷらはフリットに近いわ。フリットは衣が厚めだけど、天ぷらは軽く衣をまとっているように仕上げるの。フリットより低温で、カラッとなるように揚げる。食べる時は天つゆや塩で、素材の味を楽しむ。フリットは衣も含め、たっぷりのソースで頂くわよね。作り方も揚げ方も食べ方も、似ているようで非なる物なの」


 説明を聞いたグラマラス美女三姉妹は「なるほど!」と頷き、厨房の作業台に置かれたふきのとう、わらび、こごみ、タラの芽を見る。


「わらびのあく抜きは昨晩しておいたわ。ふきのとうは、少しクセのあるほろ苦さが特徴。これを味わうのがふきのうとうの楽しみよ。ゆえにふきのとうはあく抜きがなし。軽く洗って、根元の黒いところを切り落としてもらえる?」

「かしこまりました、アマレット様!」

「さらにふきのとうは、この花弁みたいなもの……苞葉ほうようは少し広げるの。若いふきのとうもあるから、それは無理に広げないでいいわ。そのままでOKよ」

「なるほど! やってみます!」


 元気よく返事をしてくれたスティに、ふきのとうを任せ、タラの芽とこごみはエリーに託す。


「タラの芽も根元を落として、はかまも外すと、ほら。白くて美味しそうな部分が出てくるわ。ぷっくりと厚いものは切込みをいれて。浅くでいいわ。衣がはがれちゃうから。小ぶりなものはそのままでOKよ!」

「了解です、アマレット様!」

「こごみはあくで変色している部分を切り落とすだけでいいわ」

「わかりました! お任せください!」


 残ったメディと私で蕎麦作りとなる。干し蕎麦も手に入ったが、蕎麦粉もゲットできた。ゆえに蕎麦も作ることにしたのだ!


「蕎麦粉と水を混ぜていくわ。まずは異物を取り除くから、これを使うわ」

「このふるいを使うのですか?」

「そうよ」


 メディと蕎麦作りの準備をスタートさせ、ほどなくすると、スティとエリーが声を揃える。


「「山菜の準備、完了です!」」

「では水気をしっかりきって、油を準備して」

「「は~い!」」


 蕎麦の方はメディが水回しを終え、生地をこねていく。


「こんな感じでどうでしょう?」


 メディが上手いこと蕎麦生地をこねてくれた。


「いいわね。油を火にかけている間に、蕎麦の生地は寝かすでしょう。あとは蕎麦を湯でるための熱湯も必要よ。鍋に水を用意して。スティ、エリー頼める? それが終わったら、山菜に小麦粉を軽くまぶして。余分な粉は落とすようにするの。そうすると山菜の水気で衣が落ちる心配がなくなるわ。できるかしら?」

「「おまかせください~」」

「メディは天つゆを作るのを手伝って!」

「はーい!」


 蕎麦生地を寝かせている間も、お湯を沸かしたり、天つゆを作ったり、着々と準備は進む。


「生地を伸ばすことができました!」

「天ぷらの衣の用意も完了です!」

「油の温度はどうでしょうか?」


 メディに蕎麦生地を折り畳み、切る方法をレクチャーしつつ、天ぷらの油の温度を確認する。前世のように温度計があるわけでもなく、衣の生地を落とし、その揚げ具合で温度を確認だ。


「いいと思うわ。スティ、山菜を揚げましょう! メディ、蕎麦を茹でるわよ。エリーは昼食の用意が間もなく整うと、ヘッドバトラーに伝えてちょうだい!」


 もうそこからは山菜を揚げるのと、蕎麦を茹でるのを同時進行で、慌ただしい時間が過ぎてく。


「スティ、ふきのとうはこの竹串を使って。丸いものはそのまま入れるのでいいわ。でも苞葉を広げたものは、こうやって刺して、衣をつけたら――こう。苞葉部分を先に揚げ、うまく揚げたら、串からはずす。あとは全体を揚げたら、完成」

「わあ~、蓮の花のようですね」

「ふふ。素敵でしょう」


 そこで天ぷらの揚げ方のコツを伝授する。


「揚げ加減だけど、見た目もそうだけど、音でも分かるわ。最初、山菜を油に入れると、清流のせせらぎみたいな音が聞こえるわ。次第にパチ、パチという音から、ジューッとなって音が落ち着く。しっかり揚げることができた合図よ。あとは油に立つ泡。最初は勢いよく泡が立つけど、次第にそれが落ち着く。これまた火が通った合図よ」

「なるほど。やってみます!」


 グラマラス美女三姉妹は料理経験があるわけではないが、呑み込みが早い。おかげで失敗なく進めることができている。


「スティ、頑張って。エリー、お湯は沸騰したわね?」

「はい!」

「では蕎麦ね。一人前ずつ茹でるの。こうやってバラしながら投入して。再沸騰するまでは、何もしないでいいわ。しばらくしてぶくぶくしてきたら、この菜箸でかき混ぜて」

「了解です!」


 蕎麦を茹で始めたところでメディが戻って来てくれたので、前日に作っておいためんつゆを用意し、せいろを準備するよう頼む。


「お任せください!」

「アマレット様、ふきのとうを揚げることができました!」

「とっても上手だわ、スティ! そのまま次はたらの芽を揚げましょう!」

「ソバも茹で上がりました! こちらのお水でしめますね!」

「ええ、そうして、エリー!」


 揚げ立ての天ぷらと美味しく茹でた蕎麦をベストタイミングで出す。

 そのため、厨房は戦場と化したが――。

 四人分の山菜の天ぷらと蕎麦が無事、完成し、盛りつけることもできた。


「出来たわ! 給仕のメイドとバトラーに運んでもらって!」


 蕎麦も山菜も残っているので、それはグラマラス美女三姉妹で楽しんでもらうことにした。


 ◇


「おおお、これが極東の島で食されているソバ、という食べ物か」

「はい。先日は遠出をお許しいただき、ありがとうございます。おかげでレーガン王国では絶対に食べることができない、こちらのそば蕎麦と山菜を手に入れることができました」

「アマレットが食に造詣が深いこと、驚きだったが、まさか自ら調理できるとは。そこはアグネスと同じだ。わたしはアグネスの作るパンの数々に真っ先に魅了された気がする」


 そう言って微笑み合う魔王夫妻はやっぱり仲睦まじい。


「アマレット、こちらのフリットは出来立てで食べた方が良さそうに思います」

「はい! 殿下の言う通りです。ぜひ召し上がってください!」


 そこで全員が箸で天ぷらをつまみ、天つゆをつける。

 これから和食を食べる機会があると思い、箸もしっかり購入していた。そして事前にお土産として渡し、使い方もレクチャー済みだった。つまり、セルジュ、魔王夫妻は箸を使えるのだ!


「おお、フリットと違い、何とも軽い」

「衣が上品な色合いね。美しいわ」

「油っぽさが感じられませんね」


 魔王夫妻、セルジュが次々に声を挙げ、ついにそれぞれが山菜を口に運ぶ。


「ほお。これは独特の味わいだが、風味が……テンツユなるソースともよく合っている。何とも青い香りがして、これは……アーティチョークのようだ」

「陛下、そちらのタラの芽は山菜の王様、と言われています。山菜の中でもくせがなく、食べやすい一品です」

「私の食べたこれは、魔法使いの杖のような形ね。さっぱりとして、テンツユでぺろっといただけたわ!」

「アグネス様が召し上がったのは、こごみです。形がユニークですよね。えぐみもなく、子どもでも気にいる味だと思います」

「わたしの食べたこの天ぷらは、見た目が花のようですが、強い苦みがありますね。まるでホップのような香りと苦みを感じました。これは貴族の嗜好品になりそうな逸品です」

「殿下が召し上がったのはふきのとうです。ふきの花のつぼみで、食べ応えもありますよね」


 天ぷらを食べた感想は「「「「これが極東の春の味か! 実に興味深い! 美味しい!」」」」だった。だがこの天ぷらの味わいが真骨頂を発揮するのは、蕎麦とマリアージュした時! でもその前に、お酒好きの魔王のために大切なことを伝える。


「天ぷらを単品で頂く。それまた美食家がすることです。特にこちらの山菜の天ぷら。シャンパンと共に味わえば気分は華やぐことでしょう。天つゆを使わず、塩を少しふりかけ、素材の味を楽しむ。タラの芽の天ぷらとシャンパンは極上のひと時を約束してくれるはず」


 私の言葉に魔王の瞳が輝く。それを察知したヘッドバトラーが給仕のメイドに耳打ちする。シャンパンは数分後にこの食卓に登場するだろう。


 シャンパンとタラの芽のランデブーを邪魔するつもりはない。存分に楽しんでいただきたい。でも今は――。


「蕎麦を食べ、山菜の天ぷらを口の中で出会わせてください。冷たくしめた蕎麦とアツアツで揚げ立ての天ぷらがつゆと共に口の中で絡み合った時。奇跡が起きます……!」

「「「奇跡……!」」」


 魔王夫妻、セルジュは今の言葉にすぐに箸を動かし、蕎麦を口へ運ぶ。

「すする」という文化はないので、口の中に潜らせる形になるのは仕方ない。


「よし。ここで天ぷらを」


 魔王はふきのとうに手を伸ばす。


「私も天ぷらを」


 アグネス様はわらびを口に運ぶ。


「ではわたしはこちらを」


 セルジュはタラの芽をパクリ。


 一瞬の静寂――。

 そして……。


「!!!!! 異なる食感が口の中で見事なハーモニーを奏でている!」

「すごいわ! 口の中で春の息吹と、極東の文化がスパークしましたわ!」

「タラの芽の優しい味わいとソバの風味とつゆが、三位一体となり、確かに奇跡を起こしています……! あっさりとこってり。温かく、冷たい。こんな味わいのカオスが極上に感じるなんて……!」


 魔王夫妻とセルジュは山菜の天ぷらと蕎麦のマリアージュに感動している。

 それを見た私は……。


「良かったです! 皆さまに新しい食文化を知っていただけて。……私も、いただきます!」


 かぶりついたふきのとうからは、懐かしい、ふるさとの味わいが、口の中いっぱいに広がった。


お読みいただき、ありがとうございます!

本編後の東の国のお話を数話公開していきます~

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