21:そこまで効果てきめん!?
「……バニラは魔族には催淫効果があるんです」
「!」
「まったくあの三姉妹は……」
これには「ま、まさかセルジュの理性が失われ、羊のような彼が狼に変身してしまうの!?」とビックリ仰天状態になる。
世間的には婚姻している二人であり、初夜なのだ。
そこで何か起きても……むしろ何もない方がおかしいわけで……。
(いや、でも催淫効果なんかに負けて、彼が純潔を散らすなんて……! え、でもこれだけの逸材よ。すでにそちらの経験は……)
何かに耐えるような表情のセルジュを見る限り。彼がそちらの経験が豊富とは到底思えない。
(大変! セルジュが純潔を散らすことになってしまうわ! 誠実を絵に描いたようなセルジュが催淫効果などで純潔を失うのは……悲劇でしかない!)
私はソファから立ち上がり、バスルームへ移動しながら伝える。
「安心してください! 私がここに閉じこもるので! 殿下が純潔を散らす事態にはなりません! あなたの貞操は私が守ります!」
「!? 守られるべきはアマレット嬢の方では!?」
「私は……そこまでの大層な人間ではないので! しかもあなたは王太子なのですから!」
そこでバスルームに到達し、ドアを閉めようとしたが、閉まらない。
(!?)
振り返るとセルジュがそこにいて、ドアを押さえている!
(そこまで効果てきめんなの!? ムスクの香水をつけているのに! 同じ甘い系でも成分が違うとこうなるわけ!?)
驚愕する私にセルジュは驚きの言葉を告げる。
「この姿でなければ、アマレット嬢にも迷惑をかけないと思います」
「と、申しますと……?」
ここで私は思う。
この美貌の青年の姿は仮で、本来の姿は……と。
もしコウモリのような羽があり、角と牙のある姿で催淫効果が発揮されたら……。
(そうなると私が悲鳴をあげて、セルジュのハートを傷つけてしまうかもしれない。それならばまだこの姿の方が……)
思案する私にセルジュが告げる。
「しばらくしたら戻ってください」
そう言うとセルジュは扉から手を離す。
「あっ……」
パタンと扉が閉じられ、私は「……」と黙り込むしかない。
グラマラス美女三姉妹は事情を知らず、良かれと思ってバニラの香りを使ったのだ。今の事態は仕方ないこと。
深呼吸して考える。
(部屋に戻ったらセルジュはどうなっているの?)
姿を変えたら迷惑をかけないと言っていたけれど、それはどう言うことなのか……。
わからないが彼の言葉を信じるしかない。
そこで「えいっ」と小声で気合いを入れ、扉を開ける。
コウモリのような羽が目に飛び込んでくると思ったが、それはない。
と言うか部屋には誰もいないように思えた。
(まさか天井に張りついている!?)
もはや前世で観た悪魔祓いの金字塔の映画のような世界を想像し、天井を見る。だがそこには豪華なシャンデリアと美しい天井画しかない。
(よもや本当の姿を見せることを躊躇い、部屋を出て行ってしまったとか!?)
そう思い、廊下に続く扉の方へ向かいかけて、視界の隅に何かを捉える。
(今、ソファのところで黒いものが蠢かなかった……?)
やはり魔族というと黒のイメージ。黒っぽい何か異形のものがそこにいる……? そしてそれが……セルジュ……?
恐る恐るで振り返った私は自分のこと目が捉えたものが、あまりにも想像と違っており、キョトンとしてしまう。
(えっ? えっ? えっ?)
驚愕しながらもソファに駆け寄り、そこで私を骨抜きにする小さなもふもふと対峙する。
「あっ、えっ! 嘘! ブラックローズ!?」
運命の分かれ目となった舞踏会に向かう時、助けることになった怪我をしていた黒猫。セルジュの生贄になるまで、怪我が治った黒猫に私は「ブラックローズ」と名付け、こっそり部屋で飼っていたのだ。
(どうしてブラックローズがここに!?)
ソファの上でくねくねしているブラックローズはまさに「猫にまたたび」状態。つまりは酩酊したかのようにうねうねしていて大変可愛いのだ!
「ブラックローズ、あなた、どうしてここに!」
もうソファに座り、軟体動物のようにぐにょぐにょ状態のブラックローズを抱き上げた。ふわふわの毛並みに懐かしさを感じ、涙が出そうになる。
「ブラックローズ、元気にしていた? また会えて嬉しいわ……!」
ぎゅっと抱きしめ、そこでようやく我に返る。
(……待って! セルジュは?)
その言葉と同時に腕の中で脱力状態のブラックローズを見て悟る。
「まさか、ブラックローズ、あなた……セルジュなの?」
「みゃおん」
まるで「そうです」と答えるようにブラックローズが鳴いた。














