20:……まいりました
(なんていい香り……)
レーガン王国では、リッチな入浴タイムは薔薇風呂が定番だった。
だがここ、魔族たちの国、ルミナリア王国では、特別な日にバニラの香りで入浴を楽しむのだという。
甘い香りの湯につかり、同じ香りの石鹸で体と髪を洗ってもらった。その後につけてもらった香油もバニラの香り。もう髪からつま先まで、全身が甘やかな香りに包まれ、自分でもうっとりしてしまう。
しかも白のシルクの寝間着に羽織ったのは、ミルキーピンクのガウン。
(まるで自分が極上のスイーツになった気分だわ! ストロベリー味のマカロン!)
ご機嫌で寝室に置かれたソファに座ると、メディが“アグネスのお酒”こと、甘口の葡萄酒を運んでくれる。
「アマレットお嬢様、もし緊張されていたら、先に葡萄酒をいかがですか?」
メディに問われた私は、これから初夜だというのにほぼ緊張感ゼロであることに気づく。
(それは間違いなく、この婚姻が形式的なものであり、今宵何もなく終わる……そう理解しているからだわ!)
しかし冷静に考えると、ここは緊張して当然のように思える。
「そ、そうね。緊張しているから、一杯いただこうかしら……」
「はい! それがよいと思います。一杯程度であれば、アマレットお嬢様なら酔っ払いになることもないですし」
こうして出された葡萄酒、やはり甘くて飲みやすいので、ついごくごくと飲み干しそうになり、「いかん、いかん」と心の中でつぶやき、「なにか摘まもう」と思い、銀の皿を見ると……。
「これは……」
「そちらはパイナップルと言われる南国のフルーツです。温室で栽培されたものですが、人間界でも珍しいと言われていますよね?」
メディに問われ、「その通り!」とばかりにこくこく頷くことになる。
「そうね。レーガン王国でも温室で栽培できると聞いているわ。でもかなり難しいらしくて……。めったに食べることができない。……というか私は初めてだわ!」
前世では食べていたが、この世界では初めて目にして、口にすることになる。
「このパイナップル、そしてこちらのアグネス様のお酒こと、甘口の葡萄酒を合わせると、最高なんです。パイナップルの甘酸っぱさが際立ちます!」
「いただきます!」
ということでパクリとパイナップルをまさに頬張ったところで、セルジュが部屋に来ることを伝えられた。するとスティがキリッとした表情で告げる。
「アマレットお嬢様、ご準備を!」
「! あ、はいっ」
残っていた葡萄酒を飲み干し、もう一口パイナップルを食べると、「歯を磨きましょう!」となり、最終準備となる。そして「ご準備は完璧です!」とエリーに言われたところでセルジュが登場。
紺色の寝間着にクリーム色のガウン姿のセルジュは……。
寝間着が開襟タイプなので、これまで見えなかった鎖骨が見え、それがなんとも艶っぽい! しかも黒髪のしっとりとした雰囲気といい、潤いを帯びた肌といい、全身から色気オーラがだだ漏れなのだ!
(これは本人無意識でこうなっているのかしら!? こうなると押し倒されても文句は言えないわよ!って、違うでしょう、私!)
「皆、下がるように。何かあれば呼ぶので」
セルジュの指示でグラマラス美女三姉妹の侍女ほか、セルジュの護衛騎士や従者も退出し、部屋には私と彼の二人きりになった。
「客人としての待遇と言いつつ、表向きには必要なことで……。明日の昼頃まで、ここでわたしは過ごすことになりますが、よろしいですか?」
変な想像をしてしまった私に対し、セルジュはあくまで誠実な対応をしてくれた。
(変な想像をしてしまった自分を……罰したくなるわ!)
「お気遣いありがとうございます。この慣習は人間界と同じですので、大丈夫ですよ。あ、どうぞ、座ってください」
「では失礼します」
ソファが……寝室のソファは前室と違い、二人掛けのものが一脚しか用意されていない。必然的に横並びで座ることになるが……。
(あ、やっぱり甘いムスクの香水が……)
うっとりする私にセルジュは……。
「……まいりました」
「?」
「バニラの香油を……つけていますよね?」
「あ、はい」
「……バニラは魔族の男性には催淫効果があるんです」














