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ドアマット悪役令嬢はざまぁと断罪回避を逆境の中、成功させる~私はいませんでした~  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
第三弾:ドアマット悪役令嬢、ドン底からのハッピーエンドの物語

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16:絶対に見ちゃダメ!

 公爵邸で使用人も同然の生活を送る中で、二十歳を迎えた。


 二十歳と言えば、お酒を飲むことが許される年齢。

 特に飲酒解禁の儀式があるわけではないが、両親が子どもと「お前も二十歳だな」とシャンパンで乾杯の一杯が初めてのお酒になる――ということも多かった。だが私はそんなふうに祝われることはない。よって二十歳になってもお酒を口にする機会は長らくなかった。


 お酒を飲むチャンスがなかったわけではない。舞踏会で、レイールはお酒を飲むが、私が飲むことは暗黙の了解で許されなかった。レイールから「酒臭い女は嫌だ」と言われていたからだ。そして公爵邸ではお酒を目にする機会はあっても、飲む機会はない。


 それでもこの世界のお酒は気になるので、両親が開けて「あまり美味しくない」と残した葡萄酒を飲んでみたのだけど……。


(あれは本当にまずかった。これならお酒なんて、葡萄酒なんて飲めなくてもいい……と思ったものだわ)


 そんな状態だったので、ルミナリア王国で飲んだ葡萄酒の美味しさに、感動してしまったのだ!


「葡萄酒、気に入ってくれたようね」

「はい! 渋みがなく、甘くて飲みやすかったです」


 隣に座るアグネス様に問われ、思わず即答すると、彼女はにっこり笑顔になる。


「私も渋い葡萄酒は苦手で……そうしたら陛下がとっても甘口の葡萄酒を作るよう命じてくださって……。この葡萄酒はアグネスのお酒、なんて言われているの。甘口の葡萄酒の代名詞になってしまったわ」

「そうなのですね……」


 セルジュの優しさは、父親譲りだわ……そんなふうに思っていると、料理が運ばれてくる。


 葡萄酒がこんなに美味しかったのだ。これから出てくる料理も期待していいのではないかしら。


 朝食はとても粗末なものだった。量だって十分ではない。お腹も空いていたので、期待でハンサムバトラーがテーブルに置いた前菜を見た瞬間。私は固まる。


(これは……何……!?)


「まあ、この季節の旬のシュニーユね! 美味しそうだわ」


 アグネス様がご機嫌だが、シュニーユ!?

 巻貝のようなものが、レタスみたいな葉に乗っている。香草をまぶしたパン粉でカリッと揚げられているようで、その見た目はエスカルゴ……そう思ったが……。


 フォークで中身を取り出し、絶叫しそうになるのをなんとか堪えた。


(え、エスカルゴじゃない! どう見ても芋虫……!)


 香りだけは食欲をそそるが、その見た目から食べる気はしない。


 だが……。


 アグネス様はもちろん、居並ぶ美男美女の魔族の貴族たちは、美味しそうにシュニーユを召し上がっている!


(み、見た目で判断してはダメよ! 美味しいのかもしれない)


 だがフォークでシュニーユを刺した瞬間の、ブチュッとした感触に、芋虫を潰したような気分になり……。


(無理無理無理無理無理―っ!)


 そう思っていたら、次の料理が運ばれてきた。


 それはコンソメスープのような見た目で、卵のような丸い物が一つ、中央に置かれている。みじん切りのパセリのようなグリーンも振りかけられ、大変上品な見た目であるが……。


 フォークでツン、とその卵のような丸いものをつつくと……。


 ひっくり返ったそれは──。


 椅子から立ち上がりそうになるのを堪えることになる。


(め、目だった! 目!)


「アマレット嬢、これはバジリスクの肉を煮込んだスープで、そちらはバジリスクの目です。栄養価はさほどないのですが、勝者、つまりはバジリスクを狩った者だけがいただける特別な部位です。今回はアマレット嬢のおかげでバジリスクが手に入りました。よってわたしとアマレット嬢で一つずつです」


 そこで美貌のセルジュが微笑むが……。


(私のおかげ……私はただ食われそうになった餌に過ぎない。というかセルジュ様、このバジリスクの目を、そのお顔で……)


 ガタブルの私の目の前で、整った顔立ちのセルジュは、パクりとバジリスクの目を頬張った。


 これには思わず「Oh my goodness!」と叫びそうになるのを何とか我慢する。


(叫んだら失礼よ! だってバジリスクの目を得られるのは、狩りの勝者だけ。この目をいただけるのは大変名誉なことなのだから……!)


 そこで深呼吸した私は、まずはスプーンでスープをすくう。

 目の前に、目があることに、再び叫びたくなるが、スープと共に飲み干す。

 さらに深呼吸をして、栄誉あるバジリスクの目を食べてしまおうとしたが……。


 新たなる料理が運ばれてきた。


 銀色のクロッシュが被せられており、目の前でパカッと開いた瞬間。


「ダメよ、落ち着いて、私!」という理性は吹き飛び、本能で物凄い勢いで椅子から立ち上がり、ひな壇の後ろの方へ逃げようとして、腰を抜かしてしまった。


「!? どうされましたか!?」


 セルジュが驚き、すぐに助け起こしてくれる。


「い、いえ……」


(ダメ、ダメ、ダメ、ダメ、絶対にテーブルを見ちゃダメ!)


 ダメだとわかっているのに。

 なぜなのか。

 見なければいいのに私の目は、テーブルに吸い寄せられてしまう。


 そこには前世で言うなら巨大ダンゴムシ、はたまたグソクムシ。ともかくそれにそっくりな甲殻類が、湯気を立て銀食器に盛りつけられている。しかも美男美女の魔族の皆様は、笑顔でその殻や無数の足を外しながら……ムシャムシャと召し上がっていらっしゃるではないですか……!


(これはおもてなしよ。ご馳走なの。絶対に気絶なんてしちゃダメ、私――!)


 だが幾度となく我慢した結果、限界だったようだ。私は……お恥ずかしながら、失神してしまった。


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