15:ああ、いい!
グラマラス美女三姉妹の専属侍女にべた褒めされ、ご機嫌でダイニングルームへ向かうと、パールシルバーのフロックコート姿のセルジュが扉の前で立ち止まり、こちらを見ている。
(これはもしや私をエスコートするために待っていてくれたの……? きっとそうだと思うわ!)
そうなると廊下は長く、セルジュまで距離はあるが、足早でそちらへと向かうことになる。するとセルジュはハッとして、自らこちらへ歩み寄ってくれるが……。
その歩み、凛と伸びた背筋、サラサラと揺れる漆黒の髪。
(う、美しい。男性なのに美しいという形容詞が似合ってしまうなんて!)
あまりの目の保養に私が感動していると、近づくセルジュの金色の瞳もうるうるしている。
(ど、どうしたのかしら……?)
「部屋までお迎えにあがればよかったですね」
うるうるした瞳のままこちらに近づいたセルジュは、私をエスコートしようと横に並ぶ。その際、ふわっと軽く香るムスクの甘さ。
(ああ、いい!)
陶酔しそうになりながら、なんとか自我を保ち、セルジュに尋ねる。
「私こそ、つい急ぎ足になり、失礼しました。……ところでセルジュ様、何かありましたか? その、瞳が潤んでいますが……」
「! わたしこそ、失礼しました。……その、アマレット嬢のドレス姿が……あまりにも美しく……」
「えっ、私、私ですか!?」
セルジュのこの言葉には嬉しいよりも「本気で言っています?」と半信半疑になってしまう。
なぜって魔族の女性の皆様は、美女揃い。しかもグラマラス!
彼女たちに比べたら、私なんてと思ってしまうのだが……。
「シャンパンゴールドのドレスは特別ですから……」
そう言えばグラマラス美女三姉妹もそう言っていた。
(なぜそんな特別な色のドレスを着せてもらえたのかしら? 客人としてのもてなしの一環……なのかしら?)
それについて尋ねようと思ったが「アマレット嬢、中に入りましょう。父上や母上も待っています」と言われ「!」となる。
(魔王とそのお妃さまもいらっしゃるのね!)
浮かれ気分は吹き飛び、私は唇を結び、真面目な表情でセルジュのエスコートでダイニングルームに入るが……。
(! な……!)
ダイニングルームは晩餐会かのように、ズラリと並んだテーブルに美男美女が着席している。やはり魔族の皆様はお美しい……!
その中にちらり、ほらりと魔族っぽい方もいる。ヴァンパイアと思われる牙をお持ちの方、獣耳をぴくぴくさせている方などだ。
(もしかして巨大バジリスクが手に入ったから「みんなでお昼からご馳走! 宴!」になったのかしら?)
そんなことを思いながらセルジュのエスコートでひな壇に向かうと……。
(もしやこの二人が、セルジュのお父様とお母様!?)
「初めまして、アマレット嬢。セルジュの父、ルシフェル・ヴィラド・ルミナリアです」
そこで白い歯を見せて笑顔になる、スカイブルーのフロックコートに濃紺のマントを羽織った魔王は……。
(わ、若い! セルジュと同い年、なんなら私と同い年ぐらいに見える! 黒髪に白髪は一本もなく、皺も皆無。肌艶もよく、とても“お父さん”の年齢に見えないわ!)
感動しているとその魔王の隣で微笑む、ブロンドに碧眼のお妃さまが微笑む。
「アマレット嬢、セルジュの母、アグネス・ルミナリアです。仲良くしてくださいね」
パールの散りばめられた濃紺のドレスのお妃さま……アグネス様もまた若々しく、親近感を覚える。
(あ! 魔族の女性のような、圧倒的なグラマラス美女ではなく、可愛らしい系なんだわ、アグネス様は!)
そんなことを思っていると、セルジュはお二人に私を紹介。私も挨拶を行い、その間にハンサムな給仕が飲み物を運ぶ。
チラリと見ると、赤い透明な液体。ドロリとした感じはなく、バジリスクの血ではないようだ。
「乾杯の葡萄酒です。人間の皆さんも飲まれますよね? アマレット嬢は飲むことはできますか?」
「あ、はい。二十歳なので……。ただ普段、あまりお酒は飲まないので、舐める程度ですが……」
「乾杯のためなので、それで構いませんよ。残りはわたしが飲み干します」
相変わらずセルジュは優しく、私はうるっとしそうになりながら、葡萄酒の入ったグラスを手に持つ。すると着席していたセルジュがグラスを手に席を立つ。
「皆、今日はこちらのアマレット・ニキ・リプトン嬢を迎える席に参加いただき、とても嬉しく思います。アマレット嬢は今朝、我が国に到着したばかり。まだ左も右もわからない状態です。どうか優しく見守ってください」
セルジュの言葉に、魔族の皆様は当たり前のように拍手をしてくれる。
公爵邸でドアマット悪役令嬢だったので、この無条件に私という存在を受け入れてくれる魔族の皆様には……感謝しかなかった。
「それでは我が国に迎えることになったアマレット嬢と、ルミナリア王国の繁栄を願い、乾杯」
「「「「「乾杯!」」」」」
皆、グラスを掲げ、葡萄酒を口にする。
気分が盛り上がっていた私は、舐めるつもりが、ごくごくと葡萄酒を飲み――。
「美味しい……!」
私の言葉にセルジュや魔王夫妻も笑顔になったところで、拍手が起きた。
私も慌てて拍手したところでセルジュが告げる。
「今日はアマレット嬢のおかげで、新鮮なバジリスクが手に入りました。急遽追加されたバジリスク料理もお楽しみください」














