笑顔に反し
「王族を侮辱されましたね」
笑顔に反し、放たれた言葉と眼差しが厳しい。
「宮殿や王宮で行儀見習いをする令嬢に、暴力を許し、罵声を浴びせることを、認めてなどいません。行儀見習いをする令嬢を管轄するのは、メイド長ですが、そのメイド長が仕えるのは、我々王族です。つまりは行儀見習いに対するあなたのその考え方は、王族を侮辱することにつながります」
これには継母の顔が、一気に青ざめる。
「そ、そんな、殿下! そんなのは言葉のあやです! わたしは王族を侮辱するなど、そんなつもりは!」
継母はソファから立ち上がったと思ったら、ヴィクターに駆け寄ったのだ。
「止めなさい」と父親……ライヴリィ男爵が止めたが、遅い。継母の手がヴィクターに触れた瞬間、近衛騎士が一斉に動いた。
「王族への許可なき接触が認められたため、連行いたします」
「ああ、そうしてほしい。王族への侮辱も含め、国王に報告してくれ」
「御意」
継母は「そんな、そんな、殿下―――っ」と叫んでいるが、その体は屈強な二人の近衛騎士に抱えられ、応接室から姿を消した。
こうなるともう、ロージーの顔が、能面のようになっている。表情が失われ、思考も完全停止状態に思えた。
「ロージー令嬢。サー・ハロルドは、あなたが、バケツの汚れた水や生ごみを、二階の窓からパメラ令嬢に浴びせる姿を目撃したと、報告しています。これは本当ですか?」
ヴィクターに問われたロージーは、口をパクパクさせている。そして隣に座るマクシエンに、助けを求めた。するとマクシエンはロージーから体を離し、自分は無関係だとばかりに、視線を逸らす。
「うっかり手がすべったのですか?」
ヴィクターに再度問われたロージーは、そうとばかりに首を縦に何度もこくこくと頷く。
「ロージー令嬢、その首につけているペンダント。とても美しいアメシスト色の宝石がついていますね。それはどちらで手に入れたのですか?」
またもヴィクターは秀麗な笑みを浮かべて尋ねる。だが今回、ロージーの頬が緩むことはない。ただ、声を出そうとするが、出せないようだ。
「奇遇です。実はわたしも同じペンダントを、身に着けているのですよ」
兄であるカディウスが、グレーシルバーのセットアップの上衣の下の、シャツのボタンを二つほどはずした。そして首元から、アメシスト色の宝石のついたペンダントを取り出す。
「これはヴィオレータと呼ばれる宝石で、ウィンザーフィールド帝国の、限られた場所で採掘されるものです。ここまで美しく発色しているものは珍しく、多くが淡いラベンダー色をしています」
私のペンダントのヴィオレータは、兄と同じ。とても発色がよかった。
「最上級のヴィオレータは、皇室へ献上され、宝飾品へと加工されるのです。特に誕生した子供には、お守りの意味を込め、授けられるのですよ。その価値、銀山一つが買えるほどになることも。我が国の貴重な宝石を使ったペンダント、一体、どこで手に入れたのでしょうか?」
兄もまた、ヴィクターと同じぐらいの極上の笑顔を浮かべているのだけど。銀髪とそのアメシストのような瞳は、どこかクールさを漂わせている。ゆえにその極上の笑顔は、心にやましいことがなければ問題ないだろうけど、思うところがあれば、グサリときているはずだ。
「あ、あ、あの、そ、それは……」
「はい。それは何ですか、ロージー令嬢」
再度、兄に尋ねられ、ロージーは震えながら答えた。今にも泣き出しそうな顔をしながら。























































