すべてが白日の下に
国として動く。
つまりは皇帝に連絡をとり、外交ルートを通じて、正式に私を引き取りたいと申し入れるということだ。この世界にはネットも飛行機もない。このやりとりには数か月がかかり、さらに国同士での話し合いがまとまった後に、ライヴリィ男爵に話が落ちてきた。
すると今度は私が婚約者のいる身であることから、スクリフ子爵との調整も必要になったのだが……。
その一方で、ベンジュリから私を買い取った時、ハロルドは私を担ぎ上げていた。その際、ハロルドは気づいていた。私が年齢の割に、痩せ過ぎていることに。男爵家の令嬢とは思えない程、みすぼらしい姿をしていたことに。
ウィンザーフィールド帝国からは、兄である皇太子が私を迎えるため、わざわざローゼンクランチ王国へ来ることになった。国同士のやりとりは大変だと思うが、それもこの世界のお約束事だから仕方ない。ともかく兄であるカディウスの到着を待つ間、ハロルドは内偵を行った。
時に郵便屋のふりをして。時にワインを届ける配送者のふりをして、なんとこの屋敷に、何度も足を運んでいたのだ!
「ライヴリィ男爵は事業のため、本邸を夫人に任せ、別邸で過ごされていました。本邸を一任されていたのは、マリセット男爵夫人でしたよね」
ハロルドに視線を向けられた継母の顔から、血の気が引いている。彼から問われても、声を出さず、頷くのでいっぱいのようだ。
「マリセット男爵夫人は、皇女様の……パメラ男爵令嬢の実母ではありませんでした。パメラ男爵令嬢は、ライヴリィ男爵の遠縁にあたり、養女としてこちらの家に迎えられたと、聞いていたはずです。つまり血のつながりはないわけですね」
継母は、視線を床へと落とす。いつものように胸をはった姿勢ではなく、肩を丸め、完全に委縮している。この後、ハロルドから何を言われるのか、自覚があるからだろう。
「例え血がつながっていなかったとしても。出産経験をお持ちのあなたなら、命の重みが分かるのでは? 『この役立たず』と叫び、鍋を投げつけたり、髪を掴んで地面に突き飛ばしたりのひどいことを、なぜできるのですか?」
ハロルドに問われた継母は、ぐっと唇を噛みしめる。膝の上に置いた手で、ドレスをぎゅっと握りしめた。それから視線をゆっくり上げ、頬を少しひきつらせながらも、なんとか答える。
「な、何をおっしゃりたいのでしょうか。す、すべて躾です。躾の一環ですから」
「躾……。なるほど。躾、ですか。……ではもう一つ、質問します。この屋敷の主である、ライヴリィ男爵のご令嬢に、なぜ使用人の服を着せ、労働を強いているのでしょうか? それもまた、“躾”なのですか?」
継母の答えに、到底納得していないハロルドのアメシスト色の瞳は、怒りで不穏な輝きを放っている。鋭い視線を向けられた継母は、ハロルドから視線を逸らし、弁明の言葉を口にする。
「ぎょ、行儀見習いですわ! 行儀見習いをする貴族のご令嬢は、皆様、メイド服を着ますよね。宮殿や王宮で働くご令嬢は、メイド服を着ていますわ!」
「つまり義理の娘に対する罵声や暴力、メイド服を着せ、労働を強いることもすべて、行儀見習いの一環であると、おっしゃるのですね? 宮殿や王宮で行われる行儀見習いと、変わらないと」
畳みかけるハロルドに継母は、もはや売り言葉に買い言葉状態で「ええ、そうですわ! おっしゃる通りです!」と応じた。
その瞬間。
「ライヴリィ男爵夫人」
これまで静かに話を聞いていたヴィクターが、碧眼の瞳を細め、微笑を浮かべた。実に美しい笑みで、継母はもちろん、その隣に座るロージーの頬も緩む。
だが、ヴィクターが口にした言葉は、予想外のものだった。























































