だから俺達は、今日は芋を揚げて喰う日にした。
作中の食材は個人の印象で書いています。
ココナツオイルの件は私の体験談です。
「固まった~」は大げさに言わせているのですが、低い温度で揚げていましたので
一瞬、油の表面が白くなった程度です。
「今日は親いるから、集まるか?」
幡谷の招集で集まった三人。
ほとんど役割は決めていないが
幡谷の場所提供だけは決まっていた。
幡谷の家には、祖父が作業部屋にしていた
離れがあって、
簡易シャワーとゴロ寝が出来るスペースがある。
バイトが無い日に歳の近い妹と
家でかち合うと微妙なカンジになるのが嫌で
幡谷は離れでダチと遊ぶようになった。
最近は親がいる日に招集するのは
意外と親が支援してくれるからだ。
臨時で小遣いとか、余り物の食材をくれる。
部屋の窓を開けて、ついでに網戸を開けて
奥の雨戸をあける
「網戸だけにしとく?」
「……おう!」
「煙出るしな」
今日は少し肌寒い日だ。
飯日和だぜ。
◇
三人の中で彼女持ちは笹塚一人だけ。
その笹塚も、彼女とべったりな関係性じゃないから
【飯の日】を脱会しないままだった。
「煙はさ、うん、出てると思うけど
コレにすりゃ気にならないぜ」
笹塚が見せたのはココナツオイルの袋だ。
「ダイエットに良いって流行った時にさ、
母ちゃんが大量に買ったんだよ。
でなぁ、コレな、寒けりゃ固まんだよ
んで、今日持ってけって」
『瓶入りもあんだよ』と、笹塚は担いで来たリュックの中を見せた。
「どっちから開ける?」
「希望は瓶かな、期限が近い」
賞味期限あと一か月のココナツオイルの瓶を開ける。
「消費じゃねーからな。賞味の方だぜ。」
◇
大きめの雪平鍋に固まりかけたココナツオイルを入れる。
「マジだ。固まりかけ」
「だろ?融点とか沸点とか関係あんのかな」
「あんのかな?旨けりゃなんでもいいけど」
雪平鍋は『取っ手が取れたから』の理由で
初芝が持ってきた。
今は幡谷家にあった、ハンドルと組み合わせて
使っている。
今日は初芝が提供したジャガイモを喰う。
『三坪程度の家庭菜園でも大量』だったらしい。
他の収穫が重なったりで、結構残るのだ。
「葉物もあったけどさ…」
「葉っぱな~…メンドくさい」
「夏だったら洗うだけのヤツがいいけどな」
男三人で学校休みの前日から集まってメシを喰う。
金は無いけど、持ち寄ったら意外とイケる。
洗って切るぐらいしかしないが
失敗しても『こんなもの』と諦めがつくからだ。
今日のメインはジャガイモ50個だ。
小粒が多いがサイズはバラバラ。
それと安い冷凍ハンバーグと冷凍シーフード。
芋は洗って芽を取り半分に切った。
皮は面倒くさいから剥かなかった。
「この油、なんか甘いニオイがすんな?」
「あ、言ってなかったな…悪ぃ、そうなんだ
ニオイが甘いんだよコレ」
ココナツの甘い香りが部屋に広がる。
「うーん…味も甘くなんのか?」
「いや、影響ナシ」
「んじゃ、いいんじゃね?どうせアレかけるし」
「でた。幡谷塩」
幡谷は、この【飯の日】を始めた頃から
家の粉末調味料の残りを一つの瓶に集め出した。
最初は塩コショウが一緒になった物に
残り物の一味とガーリックソルトを入れた。
ハムを焼いてソレをかけた。
旨かった。
それから色んな残り物調味料を合わせていった。
時には妹の手作りチョコで余った
シナモンシュガーも入れた。
あれは失敗だった。
きっとシナモンシュガーは悪くない。
塩分を期待している調味料に
甘味を入れた幡谷が悪いのだ。
もう、今は何が入っているのか把握出来ない。
「なに、今回なに入れたの?」
「最新はコンソメ」
「お、いいじゃん!ハズレ無し」
『んじゃいくぜー』っと笹塚が
ココナツオイルの温まった鍋へ
水気を切った芋を落としていく。
◇
「オイオイ初芝さんよ~
ハンバーグ凍ってっから油も固まり始めたじゃん」
「おー…まじかー」
ジャガイモが揚がりそうになったので
初芝が鍋に冷凍ハンバーグ入れたら
一瞬ココナツオイルの温度が下がってしまったようだ。
カセット式コンロの加熱温度を上げる。
薄っすら白くなった油の表面は、温度が上がったからか
透明に戻って行った。
「この油って、あんまり汚れないのか?」
「おう、そうだ。芋は分かり難いけど
天ぷらみたいな衣ついてるやつ、結構焦げてるの下に沈むだろ?
ああいうの気にならないと思う。」
笹塚はココナツオイルなら、油カスが気にならなかったらしい。
喋っている間にジャガイモが揚がったようだ。
◇
キッチンペーパーを敷いた紙皿に揚がったジャガイモをのせる。
味付けは各自が取り皿に取ってからする。
ひと手順で独自ルールの争いを避けれるからだ。
例えばレモン掛ける論争みたいな。
「……旨ェ」
「熱っついな!──うんまっ!」
「コンソメ最高」
芋は保存したヒネと新じゃがが混ざっていた。
新じゃがに当たると皮が薄くて
口当たりが気にならない。
水分が多いのか、噛んだ瞬間に蒸気が上り
舌が熱さを実感する。
ヒネの芋も保存によって糖度は増しているので
芋の味に深みがある。
皮が気になりゃ残せばよい。
加熱後はクルリと取れやすい。
三人でコンロを囲みながら次々と食材を投下する。
「シーフードいくか?」
「おぉ、片栗やっといたし。」
水を切ったシーフードをビニール袋に入れて
ついでに片栗粉を入れた。
そして口を縛って袋を振って混ぜ合わせたままだ。
「固まってんですけどー」
「かき揚げっすよ」
油の飛び跳ねに気を付けながら
トングで食材をバラしていく。
「旨ぇ」
「お前それしか言ってない」
ソフトボール大の握り飯を片手に喰っていく。
「余ったらどうする?」
「鍋に全部戻して卵でとじる」
余分な油は漉して瓶に戻して、
残り物は卵やチーズでとじる。
「いつものやつじゃん」
弱火で卵が固まるまで加熱して終わり
卵が半熟でも、それはそれだ。
笹塚と初芝は泊っていくから
三人の翌日の朝食になる。
雑な調理方法が出来る
深手の雪平鍋は重宝している。
幡谷はウメ味の無糖サイダーで喉を潤した。
閲覧頂きありがとうございます。
楽しんで頂けたら幸いです。