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85話 朗報ともふもふが舞い込む

 

 婚約パーティーの二日後の夕方。


 お仕着せに身を包んだドロテアは、王城内の執務室で無心で書類仕事に当たっていた。


 ドロテアの背を超えるほどに高く積まれていた未処理の書類の束がみるみるうちに減っていく様子に、堪らずラビンは声を上げた。


「な、なんだかドロテア様が、いつにもまして気迫に満ちていらっしゃる……!」


 そんなラビンの発言に、周りの文官たちもコクコクと頷いている。


 ヴィンスは一旦手を止め、ラビンたち文官に「喋ってないで手を動かせ」と言うと、それから隣の机で筆を動かすドロテアに声をかけた。


「……ドロテア、その書類が終わったら今日は休んでいい。昨日から、ずっと根を詰めすぎだ」

「え。……お言葉ですが、まだ処理をしなければならない書類が……」

「急ぎのものは既に終えているから問題ない。それにお前の体調が心配なんだ」

「……っ」


 ヴィンスの尻尾が、心配を表すように垂れている。しかも、そんなふうに言われて、でも、なんて言えるわけはなかった。


「……分かりました。では、お言葉に甘えさせていただきます」

「ああ、そうしろ」


 それからドロテアは、ヴィンスの言う通り、手元の書類の処理を終えてから執務室を出た。



 ◇◇◇



「……ハァ」


 ハリウェルは先日のセグレイ侯爵家の家に侵入する任務での疲れを癒やしてもらうため、明日まで休暇を与えている。

 そのため、ドロテアは自室まで一人で歩いていたのだが、その足取りは非常に重かった。


 というのも、ヴィンスに心配をかけてしまったことに対して、申し訳無さを感じていたからだ。


(仕事に打ち込めば、余計なことを考えずに済むと思っていたけれど、ヴィンス様に心配をかけてしまうなんて最低ね……)


 実はドロテアは、二日前から悩んでいた。

 ヴィンスの両親に挨拶をしたいと志願した際の、彼の反応が気がかりだったのだ。


(ヴィンス様、やっぱりご両親となにかあるのかしら……)


 二日前の反応然り、ヴィンスからあまり家族の話が出ないこと然り、そう考えてほぼ間違いないだろう。


 ただ、獣人は家族や仲間を大切にする者が多い。

 人を思いやれ、誰よりも優しいヴィンスの両親が、自身の子を大事にしないような人にはどうにも思えなかった。


(ううん。そう思いたくないっていう、願望という方が合っているわね……)


 悩むくらいならば、ヴィンスに両親との仲を聞いてしまえばいいと考えたこともある。

 しかし、ドロテアも家族との仲に問題を抱えていた身だ。

 そう易々と聞いて良いものではないということが分かっているので、聞くこともできず、ずっと悶々としていた。


「お義姉様っ!」

「……! ディアナ様?」


 そんな時、前方からパタパタと掛けてきたのは、深紅のドレスに身を包んだディアナだった。


 表情はとても明るく、走るたびにブリンブリンと動く尻尾がとってもキュートだ。


(ああ、可愛い……! 可愛い……!)


 何より、以前プレゼントをした帽子を被っているディアナの姿を見ると、悩みが吹き飛びそうなほどに癒やされそうだ。


「どうされたのですか? そんなに急がれて……」


 近くまで来てくれたディアナに、ドロテアは問いかけた。


「お義姉様の姿を見かけたので、つい走ってしまったのですわっ!」

「ぐっ……! ディアナ様は、私を喜ばせる天才ですね……!」


 はて? と言わんばかりの表情をしているディアナの一方で、ドロテアはニヤけた口元を手で隠す。


 すると、ディアナはドロテアにずいっと顔を近付けた。


「お義姉様は、今日はまだお仕事をされますか?」

「え? いえ、今日はもう仕事は終わりましたが……」

「では! もしよろしければ、少しお散歩でもしながらお話しませんかっ!? 私、お義姉様に報告があるのですっ!」

「報告、ですか……? え、ええ、もちろん。お話しましょう!」


 改めて報告とはなんだろう。

 そんな疑問を持ちながら、ドロテアはディアナと共に、庭園に向かったのだった。



 ──そして、約十分後。


 夕焼けに噴水の水飛沫がまぶしく輝いたのと同時に、ディアナから報告を受けたドロテアは目を丸くした。


「ほ、本当ですか……!? ラビン様と恋人になったというのは……!」

「ええ! 本当なのです! お兄様とお義姉様の婚約パーティーが終わった後、ラビンと共に馬車に乗ったのですが……実はその時、告白されたのですわ!」


 頬を両手で挟むようにして恥じらいながら、尻尾をこれでもかと左右に揺らすディアナ。

 興奮気味に耳がピクピクと動き、抑えきれていない口元のニヤつきは、彼女がどれほど歓喜しているのかを表しているようだった。


「おめでとうございます! 本当に良かったですね……! ディアナ様……!」


 ディアナに告白しやすいようとラビンにお膳立てをした、という話はヴィンスから聞いていた。

 ディアナ本人からも「婚約パーティーの後に話があるって、ラビンに言われましたわ!?」という報告を受けていたが、まさか本当に、あのラビンが告白するとは……。


(ラビン様……。私も中々好きという一言が言えなかった身ですから、よく分かります。よく勇気を出して伝えられましたね……! 本当におめでとうございます!)


 あまりの感動に、ドロテアはこの場にいないラビンにも祝いの言葉を送った。


「ふふっ! 私本当に嬉しくって! このことは一番にお義姉様にお伝えしようと思っていましたの! 今日伝えられて、良かったです」

「ディ、ディアナ様……。このような大事なことを、一番に私にお聞かせいただけるなんて……」

「だって、お義姉様のこと大好きですもの! えいっ」


 すると次の瞬間、ディアナが抱き着いてきた。


「……!?」


 触れた箇所から愛情が伝わってくるくらいに、ぎゅうぎゅうと両腕で力強く抱き締められる。

 更に、ディアナの漆黒の尻尾にまで包み込まれたドロテアは、もはや意識を失いそうだった。


(ディアナ様、良い匂い……。可愛い……。ふわふわした尻尾が堪らない……。可愛い……。もしかして、ここは、天国……?)


 幸せのあまり、少し放心状態だったドロテアだったが、ディアナが抱擁を解いたことで、冷静さを取り戻した。


「そういえば、お義姉様。お兄様とともに、両親へ挨拶に行くのですよね? 今朝、お兄様から、報告を受けまして」

「え、ええ。そうなんです。けれどまだ、詳しいことは何も決まっていなくて……」


 今日にでもヴィンスは両親に当てて手紙を書くと言っていたので、おそらく予定は近日中に分かると思うと、ドロテアは補足する。


 すると、ディアナは、キラキラした目でドロテアを見つめた。


「お兄様にはもう了承を得たのですが、両親のもとに私とラビンも一緒に行きたいと考えていまして……。よろしいですか……? 久々に両親に会いたいですし、ラビンとのことも報告したくて……」

「もちろんです。ディアナ様にも会えたら、ご両親はとっても喜ばれるでしょうね」


 ドロテアがそう言うと、ディアナは満面の笑みを浮かべた。


 その様子はとても可愛らしいのだが、ドロテアは些か違和感を覚えた。


(ディアナ様は、ご両親に会うことに対して、躊躇しているような様子はない……。むしろ、心から楽しみにしているようだわ)


 これは一体どういうことなのだろう。

 ヴィンスがただ単に両親が苦手なのだろうか。

 それとも、結婚の挨拶に際に、両親がドロテアを嫁とは認めない! などと揉めることを危惧しているのだろうか。


(……それならまだ、良いけれど)


「お義姉様がいてくれたら、両親とお兄様も……きっと……」


 考え事をしていたドロテアに、ディアナのそんな囁きは聞こえなかった。

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