コミカライズ連載開始記念SS
『聖女の妹の尻拭いを仰せつかった、ただの侍女でございます』のコミカライズの連載が始まりました!
1話はコミックアース・スター様で無料で読めます!
日野原先生にとっても美しく、可愛く、格好良く、もうすんばらしく描いていただいたので、ぜひ読んでみてくださいませ!続きが気になった方は、ぜひ原作の小説(既刊①〜②)をよろしくお願いします……!
ちなみに、新連載を始めました。姉に呪われて誰からも愛されなくなった令嬢が、悪逆公爵様とともに呪いを解き明かすお話です。↓にリンクがありますので、そちらもよろしくお願いします!
とある日の正午。ドロテアが獣人国で暮らすようになって、まだ二週間程度のことである。
休憩しがてら、執務室で軽食を食べているドロテアとヴィンスの姿に、ラビンは目を奪われていた。
「ドロテア、連日のお前の働きに感謝し、渡したい物があるんだが」
「えっ、そんな……!」
現在、執務室にはラビン、ドロテア、ヴィンスを含めた数十人の文官が集まっている。
とはいえ、その三人以外は連日の仕事の疲れがピークに達したのか、ほぼ屍になっている。
(わ、私もこのまま眠ってしまいたい……)
もちろんラビンも疲れているので、ヴィンスが休憩している間に少しでも仮眠を取りたいのだが、必死に目をこじ開けている理由は一つ。ヴィンスがドロテアに渡す物が何かを知りたかったからだ。
(どのような令嬢にも靡かなかったヴィンスが惚れた相手──ドロテア様に感謝の品を渡すとなると……この国でしか採れない宝石か? もしくはドレス……。いや、それはさすがに安直過ぎるか……)
ラビンがこれまで生きていて女性として意識した人物は、ディアナしかいない。
彼女は王妹という立場上、いつも美しいドレスや華やかなジュエリーを身に着けているため、女性=ドレスや装飾品というイメージにしかならなかったのだ。
(姫様は自分が社交界の広告塔になる役割もあるために飾っているだけで、散財なんてしてませんけどね! どこぞのフローなんちゃら侯爵令嬢みたいに!)
──さて、話を戻そう。
ラビンからみても、ヴィンスはとても良い男だ。地位や財力、見た目はもちろんのこと、横暴そうに見えて実は真面目で思慮深いし、誰よりも国のことを、民のことを思っている。
そんなヴィンスが求婚相手に贈り物をするというのだから、彼の幼馴染であり、女神ことディアナに恋するラビンが気にならないはずはなく──。
「ヴィンス様、感謝の品なんていただけません……! むしろ、このように働かせていただいて感謝しているのは私の方です。毎日新しい学びがあり、こんなに幸せなことはありません」
「そう言うと思ったから、お前が受け取りやすいものにしておいた。これなら良いだろう?」
ヴィンスはそう言って、小さな包みを差し出した。
ドロテアはもう一度断りを口にしようとしたが、こういう時は受け取るほうが良い場合もある。
おそらく今はその時だ、と彼女は感謝の言葉を告げて包みを開いた。
(さあ! 中身は!? あの大きさならばやはりジュエリー!? それとも髪飾りや置き物!?)
一人でテンションが上がるラビンは、ドロテアの手元を凝視する。
そして、包から取り出されたその品を見て、ラビンは目を見開いた。
「わぁっ、羽根ペンとインクのセットと、手帳ですか……!?」
「なっ、何ぃぃ!? どうしてそんな仕事で使うようなものばかりを!? ……って、ハッ!」
つい声を上げてしまったラビンはとっさに両手で口を塞ぐ。
ヴィンスからは一瞬鋭い視線を向けられたが、ドロテアは品物に夢中であまり気に留めていないようだった。
「なんて素敵なんでしょう……! この羽根ペンはレザナードの有名職人の方が手掛けたもの! このインクはとても字が書きやすいと評判のものですよね! それにこの手帳……! 皮の部分に私の名前と狼や猫、兎なんかのシルエットの刺繍が施されています……! ヴィンス様、こちらはオーダーメイドなのでは!?」
「ああ。つい先日、新しい手帳が欲しいと呟いていただろう? 急いで作らせた。羽根ペンとインクも、あって困るものではないからな。感謝の品としてジュエリーやドレスを贈るよりも、こちらのほうがドロテアが受け取ってくれると思った」
「ヴィンス様……ありがとうございます……!」
じーんと感動に浸るドロテアに、蠱惑的でありながら優しく微笑むヴィンス。
そんな二人を見てから、ラビンは地面に突っ伏した。
(さすがですよヴィンス……。ドロテア様は仕事が嫌いじゃないどころか、知識の宝庫だと言わんばかりに嬉々として机に向かっている……。そんなドロテア様が喜ぶのは、仕事で使える実用性の高いもの。更に、使いやすかったり、オーダーメイドで見た目の可愛らしさや特別感を付随させたものなら、なおさら喜ぶに決まっている……。とはいえ、ジュエリーやドレスに比べればかなり安価だから、受け取る側の気持ちにも配慮されている)
相手の欲しいもの、喜びそうなもの、そして受け取った時に相手が遠慮しないもの。
その全てをクリアしたヴィンスの品に、ラビンは感動した。
(我らは王は本当に凄いな……。でも私は見逃しませんでしたよ……。手帳に施された動物の刺繍……明らかに狼が多いことを……)
独占欲の塊め。というのは、思うだけに留め、ヴィンスの感謝の品の正体を知ったラビンは、あまりの眠気により目を閉じる。
その夜、ドロテアが自室に戻ってから、ヴィンスに「俺たちをジロジロ見る元気があるらしいな?」と仕事を増やされたのだが、それはまた別のお話。
読了ありがとうございました!
新連載を始めましたので、そちらも是非♡
↓にリンクを貼ってあります!