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77話 来訪者、現る

 

 セグレイ侯爵は自身の発言にハッとして、口元を手で覆い隠す。

 何故そのことを、なんて、もはや罪を認めたのと同義だからである。


 対して、フローレンスは侯爵に「着服って何なの!? パパ、どういうことなの!?」と詰め寄っており、その真に迫る姿は演技だとは思えなかった。


(フローレンス様がよく病院に足を運んでいたのは、侯爵令嬢として患者さんたちを心配して……というていのはず。実際は患者さんに声をかけることは殆どなく、ルナ様に文句を言ったり、セグレイ侯爵に欲しいドレスやアクセサリーをおねだりしていただけなのだけれど。……今のフローレンス様を見る限り本当にそれだけで、着服とは無関係のようね)


 ドロテアが着服の件を話題に出したことで、またもやざわつき始める貴族たち。

 額に脂汗をかいて「なっ、なんのことだかさっぱり!」と今更しらを切るセグレイ侯爵と困惑の表情を浮かべるフローレンス。


 ドロテアはルナの手を掴んで彼女と共に立ち上がると、セグレイ侯爵に淡々とした声で話を切り出した。


「ここ三年ほどですが──」


 大きな災害等が起こった月も、国立病院の薬代や患者が支払う治療費などが、平常時と同じように計上されていること。

 そのことにおかしいと感じ、王城に提出された書類は改ざんされたものなのではないかと考えたドロテアが、国立病院の経営について調べていたこと。


 それらのことを説明すると、視点の定まらない目をしているセグレイは、浅い呼吸を繰り返していた。


「そして、先日病院に行った際、興味深い話を聞いたのです」


 ギクリとするセグレイ侯爵。ドロテアはそんな彼に対して、冷静な声色で話し続ける。


「病院の経営に関わる資料の全ては、病院ではなくセグレイ侯爵家の貴方の部屋に保管されている、と。おそらく、自邸で資料を改ざんするためですね。王城に提出するための虚偽の資料を作るためには、元々病院で作成された資料が手元にないとできませんから」


 国立病院の責任者こそセグレイ侯爵だが、病院自体は国のものだ。そのため、利益の一部が国費に回される。

 しかし、利益が多かった月でも、それを通常時と同じように計上して提出すれば、その差異の金銭がセグレイ侯爵に入る。

 結果として、セグレイ侯爵家は国のお金も手にすることによって、より贅沢な暮らしができるようになるのだ。


「……っ、ち、ちがっ、私は自分の部屋じゃないと仕事が手につかない質で……!」

「そうですか。……なんにせよ、閣下の部屋から改ざん前の資料と改ざん後の資料が見つかれば、どのような言い訳も通じません。それが見つかり次第、セグレイ侯爵家の私財についても、徹底的に調べさせていただきます」

「そ、そんなぁ……!!」


 その瞬間、セグレイ侯爵は膝から崩れ落ちる。

 資料の改ざんと、病院の利益の一部を着服したことが明らかになれば罪に問われることは分かっているのだろう。


「因みに、事前に通達すれば証拠を隠滅される恐れがあったため、現在セグレイ侯爵邸には私の護衛騎士であるハリウェル様含め、複数の騎士の方々と文官の方々が証拠資料の捜索に出向いています。あと数時間もすれば、資料を城へ持ち帰るでしょう。因みに、この捜索はヴィンス様の指示です」

「つ、つまり、陛下もご存知なのですか……!?」

「はい。民の健康と、心の支えでもある病院の利益で私腹を肥やしていたセグレイ侯爵閣下に、ヴィンス様は大変お怒りですわ」


 民のために身を粉にして働かなければならない貴族が、自らの私腹を肥やしていたなんて、ヴィンスが許すはずはない。


 ドロテアの発言に、フローレンスもカクンを膝を折るようにして床に崩れ落ちた。同時に、尻尾と耳も力なく垂れていく。


「パパァ……! 私たちこれからどうなるの……っ」

「すまない……すまないフローレンス……」


 獣人国の法律では、着服、つまり横領は大罪である。

 今まで着服していた分のお金を国に返還することは大前提であり、金額や罪を犯していた期間にもよるが、おそらく爵位の剥奪は免れないだろう。

 フローレンスはこの件を知らなかったことが立証されれば、おそらく平民になるだけだが、もしかしたらセグレイ侯爵は強制労働の罰も科せられるかもしれない。


「着服について明らかになれば、すぐに裁判が開かれて処罰が下るでしょう。今後の病院の経営責任者については、ヴィンス様や私、家臣の皆さんを含めて協議し、決定することになると思います」


 唇を震わせて瞳に絶望を浮かべるセグレイ親子。

 一応二人が暴れ出さないとも限らないので、ドロテアはパーティーに待機している騎士数名を呼ぶ。


 騎士たちがセグレイ親子たちの両腕を背中側で纏めるようにして拘束すれば、ドロテアだけでなく会場全体が少しだけ安堵の空気に包まれた、そんなとき。


「ドロテア、これはどういう状況だ?」

「……!」


 ざわつく会場の中でも、しっかりと背後から聞こえた、戸惑いを含む聞き慣れた低い声。

 一度会場を出ていたヴィンスが戻ってきたのだと、ドロテアは「ヴィンス様!」と彼の名前を呼びながら振り向いた。


「えっ」


 のだけれど、十メートルほど離れた出入り口付近。そこで、ヴィンスに手を取ってもらい、彼の隣に居る人物に、ドロテアからは驚きのあまり裏返った声が漏れた。


 何故なら、そこに居たのは──。


「久しぶりね、ドロテア」

「ロ、ロレンヌ様がどうしてこちらに……!?」

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