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73話 婚約パーティー、開幕!

 

「ドロテア、行くぞ」

「はい、ヴィンス様」


 緊張から、ヴィンスと腕を絡める自身の腕に無意識に力が入る。

 そんな中、ギィ……と音を立てて会場の扉が開けば、その先にあるのは、サフィール王国の建国祭会場の二倍はありそうなほどの広大なパーティー会場だ。


 煌びやかなシャンデリアや、生き生きとした薔薇の花が置かれたテーブル、会場の端に待機する一流の音楽家たち。

 城の皆に手伝ってもらって出来上がったこのパーティー会場に足を踏み入れたドロテアには、達成感のようなものが込み上げた。


(皆様には本当に感謝しかないわね。……さて、今度は私が頑張らないと)


 今日のパーティーは、獣人国の貴族たちにドロテアがヴィンスの婚約者であることをお披露目することが目的である。

 ヴィンスの顔に泥を塗るようなことはできないからと、ドロテアはやや張り詰めた様子でヴィンスと共に入場した。


「此度の婚約パーティーは──」


 そのすぐ後、ヴィンスの開催の挨拶が行われた。


 ドロテアは獣人国に来てからこういう公の場で貴族たちと顔を合わせたことがなかったので、ヴィンスの隣に立ったときに貴族たちがどんな目を向けてくるかが不安だった。

 だが、概ね批判的な視線は感じはしないので、ドロテアはホッと胸を撫で下ろす。


(良かったわ……少し安心ね)


「婚約者を紹介する。彼女はドロテア・ランビリス──」


 それからドロテアは、ヴィンスに婚約者として紹介され、自ら軽く貴族たちにカーテシーと、パーティーに参加してくれたことへの礼を述べる。

 皆の反応に固唾を呑んだのは一瞬で、温かい拍手を送られたドロテアは体から緊張を解いた。


「皆、今日は盛大に楽しんでくれ」


 そして、そんなヴィンスの声で開幕の挨拶は締め括られ、一同は各々パーティーを楽しみ始める。談笑を始める貴族たちを見てから、ドロテアはそっと隣のヴィンスに視線を移した。


 ヴィンスは既にこちらを見ていたのか、スッと細めた彼の目と目が合い、ドロテアの心臓はドキリと脈打った。


「緊張は解けてきたか?」

「は、はい。おかげさまで」

「ふっ、それなら良いが。しばらくは多くの者が挨拶に来て大変だろうから、疲れたらすぐに言え。良いな?」

「はい。ありがとうございます、ヴィンス様」


 社交の場でも相変わらず気遣ってくれるヴィンスに胸がキュンとして、ドロテアは少し緩んだ笑みを見せる。

 すると、ヴィンスはそんなドロテアの耳元にそっと顔を近付けて囁いた。


「……こら、そんな可愛い顔で笑うな。皆がお前に見惚れる」

「〜〜っ!? ヴィンス様、ここでそんなことを言ったら……!」


 ドロテアは周りにいる貴族たちにバッと視線を送る。こちらを凝視していた貴族たちが一瞬にして目を背ける姿に、ドロテアはやっぱりと顔を赤らめた。


「たとえ囁き声でも、獣人の皆様には会話が聞こえるのですから、ああいうことを言うのはおやめください……!」

「周りの声が聞こえるのは獣人にとって当たり前のことだから、誰も気にしていないだろう」

「うう……そう思っているのはヴィンス様だけですわ……」


 見れば見るほど顔を赤らめる周りの貴族たち。挨拶に来ても「本当に仲がよろしいようで……」と言って耳や尻尾が大きく揺れる姿は、確実に意識されているに違いない。


(いや、祝福してくださるのは嬉しいのですけれど、それにしたって恥ずかしい……っ)


 惜しげもなく愛情を注いでくれることは嬉しいし、ドロテアもヴィンスのことを愛してやまないわけだが、周りの素直な反応にドロテアはしばらく体の火照りが収まることはなかった。



「お義姉様……! 今日もとてもお美しいですわ……!」


 半数程度の貴族との挨拶を済ませた後、そう言って駆け寄ってきてくれたのはディアナだった。その斜め後ろにはラビンの姿があり、どうやら共に行動しているらしい。

 ドロテアの両手をぎゅっと握り締めて満面の笑みを浮かべるディアナに、ドロテアの心臓はギュンッと激しく高鳴った。


「ありがとうございます。ディアナ様もとてもお美しいですわ……! 鮮やかなミントグリーンのドレスに、艷やかな黒髪とお耳と尻尾が映えて……大地の妖精のようです」


 ドロテアが恍惚とした表情でそう言うと、ディアナの後ろで力強く頷くラビン。


 そんなラビンを見たヴィンスは、「頷くだけじゃなくてお前が言え」と誰にも聞こえないような声でぽつりと呟いた。ドロテアに夢中になっているディアナと、ディアナに夢中になっているラビンには、そんな声は聞こえなかったのだが。


「そんなことありませんわ……! お義姉様のほうがとびきり美しいです! こんな素敵なお義姉様を持てて……私、幸せですわ……」

「ディアナ様……私も、とても幸せです」

「ふふっ、相思相愛、ですわねっ!」


 嬉しそうにそんなことを言うディアナがあまりに可愛過ぎて、ドロテアだけでなくラビンも悶えたのは言うまでもない。



 ディアナと別れてから残りの貴族たちと挨拶を済ませると、次はダンスが始まろうとしていた。

 ファーストダンスのワルツを踊るため、ドロテアはヴィンスに差し出された手を取る。


「ドロテア、多少失敗してもカバーしてやるから、楽しもう」

「はい……!」


 バイオリンやピアノの軽やかな演奏が流れる中で、ドロテアはヴィンスとステップを踏んでいく。

 練習のおかげだろう。あまり緊張することなく、周りとの距離感を測る余裕もあったドロテアは、近くで踊るディアナとラビンを横目に見る。ふふっと微笑んで、ヴィンスを再び見上げた。


「ディアナ様、ラビン様と踊れてとても楽しそうですね」

「ああ。ラビンは緊張で今にも気絶しそうな顔をしているがな。……そろそろあのヘタレはどうにかならないものか」

「きっと緊張しているのですわ。パーティーが終わったら、お話しをなさるんですよね?」


 ディアナから、「婚約パーティーの後に話があるって、ラビンに言われましたわ!?」とドロテアは事前に報告を受けていた。

 きっとラビンだけではそんな勇気は出せない。おそらくヴィンスが一枚噛んでいるのだろうと、ドロテアは確信を持っていたため、問いかけたのである。


「ああ。これだけお膳立てしたんだ。流石にちゃんと伝えるだろ」

「ふふ。後日ディアナ様からお話を伺うのが楽しみです」


 にこりと微笑みながら、ヴィンス共にターンをするドロテアは、もう一度会場内を見渡す。


(良かったわ……挨拶も問題なく済んで、ダンスも順調。会場内で大きなトラブルもなさそうね。それに何より)


 緊張が解けてくると、ダンスの際に揺れる獣人たちの耳や尻尾を見る余裕ができてきて、ドロテアは幸せな気持ちに包まれた。


(ああ、虎の獣人さんに、犬の獣人さん……パンダの獣人さんに、ハムスターの獣人さん……皆素敵で、もふもふしたい……!)


 表情には一切出さず、内心で大興奮しているドロテアだったが、ヴィンスから「余所事を考えているだろう」と指摘されてしまう。 


「何故分かるのですか?」とドロテアが尋ねれば、ヴィンスは片側の口角を上げてニヤリと微笑んだ。


「好きな女の考えていることくらい簡単に分かる」

「……っ、ですから、おやめください……!」


 その後、突然ダンスが乱れる貴族たちに、ドロテアは居た堪まれず、少しの間俯いた。

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