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61話 何度目の正直

 

 ハリウェルがこのまま専属護衛騎士として続けられること。またはドロテアやヴィンスとも蟠りが残らなかったこと。

 諸々の懸念が解消されたドロテアは、軽い足取りでヴィンスと共に城内へと戻っていた、のだけれど。


「さて、さっきの言葉、直接聞かせてもらおうか?」


 あれよあれよとヴィンスに彼の部屋へと誘われ、密室に二人きり。そして、ソファに座るヴィンスの上に向い合せで跨るように座らされ、告白を催促をされたドロテアは羞恥で顔を赤らめていた。


「ヴィンス様……! 確かもう少ししたらセグレイ候爵閣下が謁見に来るのでは!? 話はまた夜に……」


 そんなドロテアは少しだけ頭を切り替える時間が欲しくて、ヴィンスに懇願する。


 しかしどうやらヴィンスは、この機会を逃す気はないらしい。


「問題ない。まだ一時間ある」

「その一時間を他の仕事や体を癒やすことに使うのはいかがでしょう? お手伝いや紅茶の準備ならお任せを!」

「今は必要ない。話を逸らすな、ドロテア」

「……っ」


 一切折れてくれないヴィンスに、ドロテアはこの場から逃げられないことを悟った。


 太腿や尻から感じるヴィンスの体温や、いつも見上げてばかりの顔がほぼ同じ目線にあること、そんなヴィンスの少し余裕がない顔に、ドロテアは覚悟を決めて口を開こうとした。


「あっ」


 そんなときだった。何かを思い出したようなドロテアの声が部屋に響いたのは。


「……今度は何だ」

「少し思い出したことがありまして、今お話しても……?」


 言葉は控えめながら、気になって仕方がないというような目を向けるドロテアに、ヴィンスはハァとため息を漏らしてポツリと呟いた。


「……惚れた弱みか。その目をされると話を聞いてやりたくなる」

「えっ? 何か仰いました?」

「いや、何でもない。で、何があったんだ」


 呆れつつも優しい眼差しを向けてくれるヴィンスにドロテアは胸をジーンとさせつつ、「実は」と話し始めた。


「ロレンヌ様からの手紙の件なのですが、実は一つ気になることがありまして」

「気になること?」

「はい。手紙の最後になんの脈絡もなく『楽しみに待っていてね』と意味深な感じで書かれていたのですが──ヴィンス様は何かご存知ですか?」


 もちろん、ドロテアのほうがロレンヌとの付き合いは長いし、彼女のことをよく知っている。

 だというのにヴィンスに尋ねたのは、彼がドロテアの家族の件でロレンヌに連絡を取っていたことがあるからだ。


 もしやヴィンスなら何か知っているのでは……? とドロテアは思ったのである。


「…………。さあな」


 しかし、ヴィンスは知らないという。


(変な間があったような気がするけれど)


 そんなことを思いつつも、ヴィンスの表情は普段と大きく変わらない。

 ただの気の所為か、とドロテアが納得し、脳内から疑問を一旦頭の端に追いやった、その瞬間だった。


「そろそろ良いだろう。……ドロテア、話を戻すぞ」

「〜〜っ」


 再びの告白タイムに、緊張で体がガチガチに固まるドロテア。

 そんなドロテアに気付いたヴィンスは、少し考える素振りを見せてから口を開いた。


「体が強張っているな。そんなに好きの一言が緊張するか?」

「……うう、申し訳ありません……不徳の致すところでございます……」

「別に謝らなくてもいい……が、悪いが逃がしてやる気もないんでな。さっさとその緊張を解くためには──やはりあれか」

「あれ?」


 ヴィンスはそう言うと、立派な漆黒の尻尾をぶりんっとドロテアの方に動かして、彼女の体にくるりと巻き付けたのだった。


「えっ!? ヴィンス様の尻尾って、こんなに自由自在に動かせるのですか!? こんなにくるりと丸くすることも可能なのですね!? というか、も、もふもふ〜! もふもふに包まれて……幸せです……!」

「ドロテアなら喜ぶと思ったが、予想以上の反応だな」

「だって、こんなにふわふわな尻尾に包まれるだなんて、中々経験できることじゃありませんもの!」


 これでもかと目尻を下げて「もふもふ……もふもふ幸せ……」と連呼するドロテアに対し、ヴィンスはくつくつと喉を鳴らす。


 その笑い方は決して馬鹿にするものではなく、愛おしいと言わんばかりのものであることを、ドロテアは知っていた。


(ヴィンス様……)


 告白を急かすかと思いきや、緊張を解くために尻尾で包んでくれて、それにドロテアが喜べば、愛おしそうに笑みを零す。──そういうヴィンスが、愛おしくて堪らない。


(よし、言おう……!)


 緊張を消すことは出来ない。言葉を噛んでしまうかも、慌てておかしなことまで口走ってしまうかもしれないし、真っ赤な顔は林檎のようで、可愛くないかもしれない。けれど、それでも良い。


「あの、ヴィンス様……!」

「ああ」


 ドロテアは真剣な表情でヴィンスを見上げ、そして覚悟を決める。 


「私、ヴィンス様のことが──」

「……ああ」


 ヴィンスの黄金色の柔らかな瞳とドロテアのコバルトブルーの力強い瞳が絡み合い、それを口にするまで後一秒にも満たない、はずだったのに。


 ──バタン!


「お、お兄様!! こちらに居まして!? ()()()がもう入城してしまいましたの……!! 早く来てくださいま──って、あら? あっ、あらららら!? もしや今とっても良いムードでしたか!?」


 部屋で二人きり。ヴィンスの膝の上にドロテアが乗っている。二人は何やら熱っぽい瞳で見つめ合っている。

 この状況を見て、邪魔をしてしまったと分からないほどディアナは子供でも無知でもなかった。


「ごごご、ごめんなさい〜! お兄様にお義姉様ぁ〜!!」

「……ディアナ、そう思うなら今直ぐ部屋を出ていけ」


 心底申し訳無さそうに謝るディアナに、額に青筋を浮かべているヴィンス。

 しかし、ドロテアは怒るでも呆れるでもなく。


「と、とりあえず下ろしてください! ヴィンス様……! あっ、でも尻尾が離れるのは惜しい! こんなに可愛いのに……じゃない! 早く尻尾を離してください! 下りられませんから……!」


(それに、これは今度また告白の催促をされてしまう……!! うう……っ)


 ドロテアの腰辺りを未だにガチっと尻尾で包み込んでいるヴィンスに、今ばかりは離してくれと懇願すること、また訪れるのだろう告白タイムのことを想像するので一杯一杯だった。

読了ありがとうございました。これで第二章は一旦完結となります。また書き溜めができましたら、第三章を始めたいと思います(*´∀`*)

少しでも面白いと思っていただけたら、ブクマや評価はもちろんのこと、書籍版も応援していただけると嬉しいです……♡様々な特典が付いてますので、とってもお得な書籍となっております!

◇傷物令嬢と氷の騎士様◇もよろしくお願いします……!

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