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51話 新月の夜、白狼騎士様

 

 ドロテアのそんな言葉に、ハリウェルは気怠げそうな目を見開いた。


「ドロテア様は、我々狼の獣人の秘密をご存知なのですか?」

「ええ。前回の新月のときにヴィンス様に教えていただきました。確認ですが、ハリウェル様も狼の獣人ですから、人間の姿になるのですよね? それと、その姿は皆に秘密にする、で間違いないですか?」


 ドロテアの問いかけに、ハリウェルはコクコクと頷いた。


(やっぱり……ハリウェル様が白狼だということは分かりきっていたのに、自分のことで頭が一杯で、失念していたわ)


 把握していれば、今日一日ハリウェルを休ませてやることだって出来ただろうに、本当に申し訳ないことをした。

 ドロテアは罪悪感で胸が一杯になるけれど、今は先にハリウェルを休ませることが先決だ。


(完全に陽が沈むまでおそらく一時間。見た感じ熱もありそうだし、出来るだけ早めに休ませてあげなくちゃ)


 そう決意したドロテアは、さて、と小さく呟くと、ハリウェルの横へと動き、彼を見上げた。


「ハリウェル様、微力ながら肩をお貸ししますので、早く部屋に行って休みましょう」

「……!? そんなっ、出来ません! ドロテア様を煩わせるなど……!」


 熱が上がって来たのか、顔を真っ赤にしながら首をブンブンと横に振るハリウェルに、ドロテアは穏やかな笑みを浮かべた。


「何を言うんですか。いつも護衛していただき、世話になっているのは私の方です」

「それは……私の仕事ですから……!」

「でしたら、貴方を無事に部屋に送り届けるのも私の仕事です。ヴィンス様の婚約者として、苦しんでいるハリウェル様を放っておくわけにはまいりませんので」

「…………っ」


 そこまで言われたら、ハリウェルも断れなかったのだろうか。

「お願いします……」と頭を下げるハリウェルに肩を貸しながら、ドロテアは彼の部屋へと足を運んだ。



「──あれは……ドロテアと、ハリウェル?」


 その姿を、少し早めに帰城したヴィンスに見られていることに、ドロテアが気付くことはなかった。



「さっ、まずは横になりましょうか」


 ハリウェルの部屋に着いてから、まずドロテアは彼に横になるよう指示した。

「申し訳ない」「ありがとうございます」と口にするハリウェルに気にしないでというように笑みを浮かべると、一言断りを入れて一旦退室する。


 そして再び戻ってくると、水の張った桶と手拭いを、ハリウェルが横になっているベッドの隣りにあるチェストの上へと置いたのだった。


「熱があるかもしれませんから、まずは額を冷やしましょうか。もし食事が摂れそうなら、シェフに食べやすいものを作ってもらいますので、遠慮なく言ってくださいね」

「な、何から何まで申し訳ありません……っ」


 そう言って起き上がろうとするハリウェルを、ドロテア優しく手で制した。


「いいえ。先程も言いましたが、普段助けていただいているのは私の方ですから」


 ポタポタと滴る手拭いを桶の上で絞ると、再び横になったハリウェルの額にそっと置く。

 気持ち良いのだろうか。一瞬表情を緩めるハリウェルに、ドロテアは安堵を浮かべた。


「良ければ着替えの場所も教えてくださいね。近くに置いておきますから」

「は、はい……!」

「それと、念のために明日は一日お休みしてください。太陽が登れば体が回復することは知っていますが、ここ最近毎日私の護衛に付いてくれていましたもんね。良い機会ですからしっかり休んでください。これは命令です!」


 ややキリッとした顔つきでそう言ったドロテアに、ハリウェルは「なんてお優しい……! 本当に、ありがとうございます……!」と言って感動の涙を浮かべている。


(ハリウェル様ってば、大袈裟なんだから……)


 けれど、喜んでもらえるのは単純に嬉しいし、普段騎士として助けてくれているハリウェルの役に立てることなんて、これくらいしかないだろう。


 せめて看病くらいは、とドロテアはハリウェルの着替えを用意したり、桶の中の水を新しいものに変えたりして、看病を続けた。



 そんな時間がどれくらい続いただろう。窓の外を見れば、もうそろそろ完全に陽が沈む時間になっていた。


「ハリウェル様、お加減はどうですか?」


 ドロテアはベッドサイドに戻ると、ハリウェルの額にある手拭いを交換しながら問いかけた。


「ドロテア様が看病してくださったので、大分マシになりました……! ……って、うおっ……」

「ハリウェル様! 急に起き上がったらいけませんったら……!」


 またしても起き上がろうとするハリウェルに注意しつつ、空になったコップにドロテアは水を注いでいく。

 それをハリウェルに手渡せば、彼はお礼を言ってそれを飲み干す。そして直後に口を開いた。


「本当に……ありがとうございます……! ドロテア様には感謝しかありません」

「いえ。大したことはしていませんよ」

「そんなことはありません!! ドロテア様は()から、とても優しかったです。貴方様にこうやって看病されて、今直ぐ剣を振るえそうなくらい元気になりました!」


(昔……?)


 まだ出会ってから日が浅いから、誰かと勘違いしているのだろうか。


(有り得るわね。熱が出ると、頭が上手く働かないこともあるし。……何より、少しでも元気になったなら良かった)


 そう自己完結をしたドロテアは、ハリウェルのベッドサイドに必要なものが揃っているかを確認してから、拝借していた椅子をもとの位置に戻す。それから、ハリウェルに向き直った。


「ハリウェル様、私が居てはゆっくりと休めないでしょうから、そろそろ失礼しますね」


 事情があるにせよ、婚約者でもない異性の部屋に二人きりになるのは良くない。それに、おそらくもうヴィンスは城に帰って来ているだろう。


(以前、ディアナ様のところにはラビン様が看病に行っていたらしいから、ヴィンス様は今お一人で休んでいらっしゃるのかもしれないわ)


 明日になれば元気になるとはいえ、体調が悪いときは心細いものだ。それに、出迎えも出来ていない。

 だからドロテアは、ハリウェルが大丈夫そうならばヴィンスのもとに行きたいと、そう思っていたのだけれど。


「もう……行くのですか……?」

「……!?」


 純白の耳をシュンっと下げて、寂しそうにそんなことを言われたら。


「あっ、いや、今のは違います……! その、つい! 申し訳ありません……! 陛下も既に帰城されていると思うので、是非陛下のところに──」

「では、もう少しだけ」

「えっ……?」


 ドロテアは再び椅子をハリウェルのベッドの近くに移すと、ゆっくりと腰を下ろした。


「私で良ければ、もう少しだけお側にいますよ。体調が悪いときは、誰だって心細いですもの」

「…………っ、何で、()()()、そんなに……」


 ハリウェルを優先する──そのことに対して、ヴィンスに罪悪感がないわけではなかった。


 ヴィンスの婚約者なのだから彼を優先するべきだと思うし、ドロテア自身もヴィンスが心配でならなかった、けれど。


(こんな心細そうなハリウェル様を、置いていけないわ)


 会いに行くのが遅くなったら、ヴィンスは拗ねるだろうか。それともハリウェルのことを心配するだろうか。

 はたまた、遅くなったことへの罰として、ドロテアに甘い意地悪をするのだろうか。


(……ヴィンス様)


 何にせよ、ヴィンスはきっと本気で怒ったりしないだろう。体調が悪く、心細さを感じている人の傍に居るという判断をしたドロテアに、ヴィンスは本気で腹を立てたりするような人ではないから。 


 ──そう、考えていたばっかりに。


「……ドロテア様」


 このときのドロテアは、この自身の行動が、考えが、ハリウェルの壊れかかった枷を外すことになるなんて、思いもしなかった。


「え……」


 ──ゆっくりと上半身を起こしたハリウェルの手が自身の手を握り締めた直後、彼がこんな事を言うだなんて、ほんの少しも、思わなかったのだ。



「ドロテア様、好きです。私は貴女が、好きなんです」

「──っ!?」

読了ありがとうございました!

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