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40話 白狼騎士様は猪突猛進

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 ──ハリウェルからドロテアへの突然の告白。

 その二十分ほど後だっただろうか。執務室では重たい空気が流れていた。


「何故私がここに……」


 そう、ポツリと呟いたのはラビンである。

 大袈裟なほどに眉尻と耳を下げ、気まずいことこの上ない状況に同席している彼は、端的に言って可哀想なのだろう。


「ああ、胃が痛い……姫様に会いたい姫様を見て癒やされたい姫様姫様……」

「ヘタレのくせに、独り言なら後にしろ」

「ヘタレは関係なくないですか……!?」


 しかし、そんな独り言さえ許されないのが現実である。

 ラビンは「すみません……」と呟くと、そそそと後退して壁に背をつけ、対峙している男たちに視線を移した。ああ、胃が痛い。


 しかし執務室の、否、城の主であるヴィンスは、そんなこと知らんぷりである。


「……ハリウェル、一応確認するが──お前さっきのドロテアへの求婚は、本心か」


 執務室の椅子に腰掛け、問いかけるヴィンスの声は地面を這うほどに低い。


 そんなヴィンスの視線の先。

 ひんやりとした床に正座をしているハリウェルは、額を床に擦り合わせるようにして深く頭を下げたのだった。


「……は、はい。本心、ですが……陛下、大変申し訳ありませんでした……!!!!」


 これ以上ないくらいに耳と尻尾を下げ、そう叫んだのは、白狼騎士ことハリウェル・ロワード。


 ハリウェルの返答にヴィンスがスッと目を細めたところで、話は少し遡る。



 ◇◇◇



 あれは、ドロテアがハリウェルに求婚された直後のことだ。


『ずっと君に逢いたかった……!! 私の運命の人……! 結婚してください……!!』

『…………。はい?』


 思い切り彼女に抱き着くハリウェルに、きょとんとしているドロテア。そんな二人を見たヴィンスの内情は、そりゃあ穏やかなものではなかった。


『ハリウェル……ドロテアから離れろ!!』


 それほど感情的になるタイプではないヴィンスだったが、ドロテアのことならば話は別だ。

 ヴィンスはすぐさま二人に駆け寄ると、ハリウェルの肩を掴んでドロテアから引き離して、彼女を自分の腕の中へと誘った。


 上擦った声で『ヴィンス様』と呼びながらも、どこか安堵の表情を見せるドロテアに愛おしさを覚えながら、ヴィンスはハリウェルに鋭い眼光を向ける。


『ドロテアは俺の婚約者だ。だというのに……なんのつもりだ、ハリウェル』


 その視線と言葉に、ハリウェル以外の騎士たちはヴィンスの怒りがどれほどのものなのかを知る。

 同時に、戦地にも届いていた、王が人間の婚約者を溺愛しているという噂が真実であったことを知ったわけなのだけれど。


『え? お二人が……婚約者同士……?』

『そうだ。初めにそう言っただろうが』


 眉間にしわを寄せ、背筋が寒くなる程の冷たい声でそう言い放ったヴィンスに、騎士たちは不安げな顔で一斉にハリウェルを見やると。


『はいはいはーい!! ストップストップ!!』

『『……!?』』


 文官であり、ヴィンスの最側近であるラビンは諸々を察したのか、ハリウェルの口を両手で塞ぐ。そんなラビンの姿に周りの騎士たちは大きく目を見開いた。


『ハリウェル様はさぞ任務でお疲れなんですかね!? ドロテア様はここ最近獣人国に来たばかりなのですから、先日まで戦地にいらしたハリウェル様運命の相手がドロテア様なわけないではないですか!! 勘違いですよ勘違い……!』

『うー!? もごもごもごっ』


 火事場の馬鹿力というやつだろうか。ひょろいラビンが国一番の騎士と言われるハリウェルに振り払われることなく口を塞ぎ続けている姿は滅多に見られることではない。


 そんなラビンの必死な叫びに、周りの騎士たちは驚きの直後、安堵と呆れた表情を見せると、『何だ隊長の勘違いか』『まあ、隊長だもんな』『そうそう、うちの隊長は思ったことがすぐ口に出るのがたまにきず。間違えてることもあるもんね』と口々に言う。


 その発言を耳にしたドロテアは、ハリウェルに会った記憶がないこともあってハリウェルからの突然の求婚は勘違いなのかと判断し、ホッと胸を撫で下ろす。

 そんなドロテアの姿にラビンも若干安堵の表情に浮かべた、のだけれど。


『驚きましたが……勘違いなら仕方がありませんね……って、ヴィンス様?』

『………………ああ』


 ヴィンスだけは未だに射抜くような目でハリウェルを睨んでおり、彼の周りだけ空気が凍っているようだった。


 しかし、ヴィンスは国王で、今この場にいる騎士たちは国のために戦地に趣き、心血を注いでくれた者たちばかりだ。

 自身が苛立って周りを萎縮させるのは、王として正しい判断なのかと自身に問いかけることで、落ち着きを取り戻したヴィンスは、腕を解いてドロテアを解放すると、騎士たちに向き直った。


『静まれ。お前たちの成果については既に報告を受けている。大儀であった。しばらく暇を与える故、ゆっくり体を休め、また国のため、民のためにその力を振るえ』 

『『ハッ……!!』』


 それからドロテアには部屋に戻るよう伝え、ヴィンスはラビンと、そしてハリウェルを呼び出す形で執務室に戻ったのだった。



 ──そして、話は冒頭に戻るのだが。


「土下座は良い。とりあえず顔を上げろ」


 ヴィンスの言葉に、やや垂れたハリウェルの目が一瞬見開く。そして、顔を上げようとしたところで再びゴツン! と音を立てながら深く頭を下げた。


「顔なぞ上げられません、陛下……! ドロテア様が陛下の婚約者だと聞きながら、自分の気持ちを抑えきれず、後先考えずにあんなふうに求婚をするなどと……! 陛下に忠誠を誓った身でありながらなんてことを……! ラビン殿が私を止めて、しかも機転を利かせてくれなければ今や城中で大事に……!!」

「……ハァ。いいから顔を上げて俺の質問に答えろ」


 そう言われたハリウェルは、申し訳無さそうに顔を上げた。


 他の騎士たちが言っていたとおり、ハリウェルは騎士としての腕前は優秀だが、頭で考えるよりも前に言葉や手が出てしまうきらいがある。

 所謂猪突猛進タイプである。裏表なく、情熱的だったりもするが、悪く言うと暑苦しい単細胞といったところか。


(そうだ。ハリウェルは昔からそういうやつだった)


 従兄弟という間柄のせいか、ヴィンスは六つ年下のハリウェルとは幼少期に会う事が多かった。


 王子の遊び相手という名目だったが、実際は年上のヴィンスがハリウェルを遊んでやっており、その頃から自分とは違って真っ直ぐで感情的なハリウェルのことを可愛い弟のように感じたこともあった。


(……全く)


 先程までは苛立っていたヴィンスだったが、ハリウェルの謝罪の言葉と彼の性格を再確認したことで、自身の中の苛立ちは少しずつ消さなければと気持ちを落ち着かせる。ただ──。


「それで、ハリウェル。ずっと会いたかったとは──お前、ドロテアはどういう関係なんだ。ドロテアの様子からしてお前のことを知っている素振りはなかったが」


 ヴィンスが一番聞きたかったのは、このことだった。


 ドロテアは聡明で美しい。だから誰かに惚れられていることにはさほど驚きはしなかったものの、二人がいつ会ったことがあるのかは、気掛かりだったから。

 しかも、あの優秀なドロテアが覚えていないだなんて尚更。


「……そ、それはですね……実は──……」 


 それから、ハリウェルは申し訳無さそうにしながらも、ヴィンスの質問にポツポツと答えていく。


 そして、ハリウェルの話が終わる頃には、ヴィンスは「なるほど」と言って、おもむろに立ち上がった。


「お前が過去にどのようにドロテアに出会っていたかは分かった。それに、先程の求婚に至る経緯も理解した」

「しかし、こんなのはただの言い訳です……! 陛下とドロテア様を不快な思いにさせてしまったこと、大変申し訳ありません……! 専属騎士についても辞退させていただきますので、どうかご容赦を……!」

「そのことだが──」


 ヴィンスはそう囁くと、部屋の端にいるラビンにちらりと視線を移す。

 すると、ラビンは小さくコクリと頷いた。


「俺個人としては、ドロテアを好いている男に専属騎士を任せるなど不安しかないんだがな。……お前は、この国が誇る『名誉騎士』だろう」 


 ハリウェルは、ヴィンスの父の妹の子に当たる。彼の母は王族として公爵家に降嫁し、そしてハリウェルが生まれた。


 ロワード公爵家は代々騎士の一族であり、現在ハリウェルは王位継承権を放棄して騎士として国のために働いている。


 そんなハリウェルは今や国一番の強さを誇る実力者であり、最強と認められたハリウェルしか居ない『名誉騎士』という称号まで賜っているのだ。


「レザナード王国では、王の婚約者、または配偶者の専属護衛は『名誉騎士』の称号を得た者にするという決まりがあるのは、ハリウェルも知っているだろう」

「はい。それは、そうですが……しかし私は……」

「お前がなんと言おうと、決まりを変えるには時間がかかる。それと、これでも俺はお前の忠誠心や、ここで形ばかりの謝罪をするような性格でないことくらいは分かっているつもりだ。それに、ラビンのお陰であの場は収拾がついたからな」


 そう言ったヴィンスは、未だに床に両膝をついたハリウェルの前まで歩く。

 そして、先程までの棘のある声ではなく、いつもの淡々とした、けれどどこか力強い声で言い放った。


「ハリウェル・ロワード。先程の件は不問にし、専属護衛の件はこのままとする。励めよ」

「…………っ! ハッ……!」


 とはいえ、さっきの今だ。ヴィンスの心が凪いだ海のように穏やかであるはずはなく、重低音の声でハリウェルに釘を差すのだった。


「……ただな、ドロテアを煩わせるな。騎士として節度を守った行動を心がけろ。……良いな」

「も、もちろんでございます! 陛下……! 頂いた任は、精一杯務めさせて頂きます! この身が砕けても、ドロテア様をお守りいたします……!」



 その言葉を最後に、ハリウェルにも休養を与えるために下がれと命じたヴィンスは、再び椅子に腰を下ろすと、おもむろに前髪を掻き上げる。


 同時にラビンは、そんなヴィンスの近くへと駆け寄った。


「……ああ言ったものの、これからハリウェルがドロテアの近くに四六時中いるかと思うと複雑だ」


 愚痴っぽく言葉を漏らすヴィンスに、ラビンは小さく微笑んだ。


「……それはそうでしょうね。しかし、陛下が言う通り、あのお方は陛下に忠誠を誓っていますし、それほど心配せずとも」

「……それは分かっている。だが、考えるよりも先に言葉や行動に出るあいつの性格は、忠誠心の有無ですぐに変わるものでもないだろう」

「まあ、それは確かに……しかし、それならどうして専属騎士をお認めに? 陛下が無理にでも制度を変えてしまえば……」


 ラビンの問いかけに、ヴィンスは「それは──」とだけ言って、再び口を閉じる。


 ──全ては自分で決めたことだ。自身の中で納得して、ハリウェルが専属護衛騎士になるのを認めたはずだというのに。


(……ああ、クソ。私情を優先させて解任するべきだったか)


 ヴィンスはそんなことを思いながら、無意識に奥歯を噛み締める。


 しかし、そうすればハリウェルの求婚を勘違いだと信じているドロテアは不審がるだろう。

 それに、彼女の専属護衛騎士になれるのは現時点でハリウェルだけなので、そこを外すのもまた問題だ。今後ドロテアが公務や貴族令嬢の茶会に誘われた場合、専属騎士がいるに越したことはないだろう。


(とはいえ)


 やはりあの場で咄嗟にハリウェルを止めて、状況を収拾したラビンの功績は大きいだろうか。 

 あのままハリウェルが言葉を続ければヴィンスはより一層苛立っていただろうし、もしも求婚が真実として城内に広まれば、ドロテアが気まずい思いをするだろうから。


 おそらく、そのことを察してすぐさま行動してくれたのだろうラビンに、ヴィンスは視線を移した。


「ラビン……今日は助かった」

「珍しいですね。そんなことを言うなんて」

「……それならいつも通りにしてやろう。さっさとディアナに告白しろ、ヘタれ兎」

「なっなっなっなぁ〜〜!?」


 顔を真っ赤にして叫ぶラビンに、ヴィンスはクツクツと喉を鳴らす。


 けれど、ドロテアの傍にハリウェルがいるのだと思うと、どうしても嫉妬の感情が消えることはなかった。

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