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28話 新月の夜の姿

 

 ヴィンスは、家臣たちが必死になって働いている最中、自分だけ休憩を取る人間ではない。ましてやサボるだなんて以ての外だ。


 そんな彼が、月が登る直前に執務室から出て行ったことには、何か理由があるのだろう。


(執務室を出て行かれるとき、済まないが後は頼んだと仰っていたわね……)


 あの言いようからすると、今日はもう執務室に戻らないのだろう。おそらく今日は休むという意味と捉えていいはずなのだが、ドロテアの脳裏にはとある疑問が過ぎった。


(気丈に振る舞っていたから、誰もヴィンス様の異変に気付かなかったのかしら。……特にラビン様。ヴィンス様とは幼馴染だというし、気付いても不思議じゃないのに。……それとも、体調不良の原因を知っている? ……もしかすると、風邪や病気ではない何か特別な事情があるのかしら)


 静まり返った廊下を歩きながらそんなふうに考え込むドロテアだったが、そのとき昼間のナッツの言葉を思い出し、ハッと目を見開いた。


「新月の夜……ヴィンス様……そして体調不良……」


 もしかしたら、これら全てが関係しているのかもしれないと予想を立てたドロテアは、足早にヴィンスの部屋へ向かう。


 ナッツには今日は下がって良いと伝令してあるし、文官たちも疲労困憊の様子で尋ねる雰囲気でもないため、その真意を定かにする方法は、ヴィンスに会うことだけだ。


(それに何より、心配だわ……もしも本当にただの体調不良で、それを周りが気付いていないだけというならば、お医者様を呼ばないと。それに看病だって)


 ヴィンスのために出来ることは、なんだってしたい。

 だからドロテアは、彼に頼まれた仕事をしっかりと終わらせてからこうやって部屋まで向かっているのだ。

 ……本当は、フラフラとした足取りのヴィンスにどうしたのか尋ねて、部屋までついていって、可能ならば側にいたかった。けれど、国王であるヴィンスの望むところは、そうではないのだろうから。



 ドロテアはヴィンスの部屋の前に到着すると、眠っていたら悪いため、控えめなノックをした。


「ドロテアでございます。書類の処理は無事完了いたしました。……ヴィンス様、お加減はいかがですか?」

「………………」


 返答がないため、眠っているのだろうかと思ったのだけれど。


 ──パリーーン!!


「……! 今の音は……!」


 花瓶や皿の類だろうか。ヴィンスの部屋から何かが割れる音が聞こえたドロテアは、緊急事態だったら大変だからと、咄嗟にドアノブに手を掛けた。


「……っ、鍵が……!!」


 いつもなら居るはずの騎士も何故か今日はおらず、ドロテアはどうしようかと即座に思案した結果、急いで隣の自室へと入る。妃室はヴィンスの部屋と続き部屋になっているからだ。


「あれだけ部屋には入らないよう言った手前申し訳ないけれど、背に腹は代えられないわ……!」


 続き部屋にある鍵は、妃室側についている。

 つまり妃室からならば、自由にヴィンスの部屋に出入りすることが出来るのだ。


「申し訳ありませんが入室させていただきます……!」


 そう、声をかけたドロテアは、ガチャリと鍵を回した。

 そして、自由に動くようになったドアノブをくるりと回すと、勢いよく扉を開けたのだった。


「……えっと、ヴィンス、様……?」


 新月のため真っ暗な部屋。ヴィンスの枕元の明かりもなく、問いかけに対する返答もない。


(もしかして、意識がない……!?)


 ドロテアは自室から急いでランプを持ち出すと、早急にヴィンスの部屋へと戻り、ベッド付近にまで歩いて行く。


 すると、足元を照らしているランプの光によって、ベッドサイドに落ちている花瓶が目に入った。


(これが……さっきの割れた音の正体ね)


 窓は締め切ってあり、誰かが侵入した様子はないため、何かの拍子に落としてしまったのか。


 ドロテアはランプを足元から胸下あたりに持ってくると、花瓶の破片を踏まないように気をつけながら、ヴィンスの枕元まで歩き、そして声をかけた。


「あの、ヴィンス様……?」


 布団の形状から、彼がベッドにいるのは分かる。だが、頭まですっぽりと入っているため、その様子を窺い知ることは出来なかった。


「突然入って申し訳ありません……執務室で体調が悪そうだったことが心配だったのと、花瓶の割れる音を聞いて咄嗟に入ってしまいました」

「…………っ、今日の夜は絶対に俺の部屋に入るなと、誰かに言われなかったのか」

「えっ……」


 やっと聞こえたヴィンスの声は、弱々しく吐息混じりだ。やはり体調が悪いのかと思いつつ、ヴィンスの質問に答えようとした矢先だった。


(あれ……? 何か……。 ……! そうだわ……!)


 ドロテアはそのとき、ヴィンスの違和感を見つけてしまったのだ。


 彼を包む布団はそれ程厚くないというのに、布団の上から()()の形が一切浮き彫りにならなかったから。


「ヴィンス様……可能であれば、お姿を見せて頂けませんか……?」

「……何故だ」

「以前、ヴィンス様は私のことを観察力が優れていると仰ってくださいましたよね? ……それが答えではいけませんでしょうか? それに、何より──」

「………………分かった」


 ドロテアの言葉を遮ったのは、掠れたヴィンス声だった。

 ヴィンスは少しだけ身動ぐと「あまり見せたくなかったが」とポツリと呟いて、ゆっくりと上半身を起き上がらせる。


 そのせいで頭まで被っていた布団は彼の太腿あたりにまでパサリと落ちた。

 予想していたとおりだったというのに、目の前に映るヴィンスの姿に、ドロテアは僅かに目を見開いたのだった。


「驚いたか? ただの人間の姿の俺は」

第一章も後半に差し掛かって参りましたね……!

今後もよろしくお願いします……!

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