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20話 顔が直視できないのは、そんなの

 

 何やら楽しそうに笑みを浮かべたヴィンスにそう言われたドロテアは、窓を見たまま間髪入れずに「はい」と頷いた。


 もはや条件など何でもいい。可愛い耳をもふもふと堪能出来るのならば、ドロテアは何だって出来るつもりでいたから。


「はい、って言ったな? 本当に良いのか? 言質は取ったぞ」

「もちろんです。早く仰ってくださいませ」


 もう、もふもふする準備は万端だ。ドロテアは両手をのそっと胸の前に出す。


 意識は完全に、これからの幸せな時間へと奪われていた。

 だからだろうか。顔ごと窓の方を見ながら待機しているドロテアは、ヴィンスの手が伸びてきたことに気付かなかった。


「──えっ」

「なら、俺の目を見ながら触れ。これが条件だ」

「……っ、そ、それは……っ」


 ヴィンスに無理矢理顎を掬われ、視線がかち合う。けれどドロテアは、反射的にさっと逸らした。


「……良いのか? 俺を見ないと触れないが」

「……っ、以前は好きなように触っていいって……」

「だから確認しただろ。それに聞いた。本当に良いのかって。もう言質は取ったんだ、触りたいなら俺を見ろ、ドロテア」


 こんな条件、いつもならば何と言うこともなかっただろう。

 そもそも、普段からドロテアとヴィンスは毎日顔を合わせ、そりゃあ目も合うわけだから、そこにそれほどの緊張はなかった。いや、ない()()()()()、のに。


「お前、デートの日以来、俺と目を合わせないだろう」

「やっぱり、気付いていたんですか……?」

「当たり前だろう。まあ、理由も大体想像はつくが、それと目を合わせないのは話は別だ」

「……っ」


 ヴィンスが言う通り、デートの直後から、ドロテアはヴィンスと目が合わせられなかった。


 というのも、ベンチに座っているときにされた、頬へのキスが原因だった。


 あのときドロテアは、求婚されたときとはまた違った意味で、心を掻き乱されたのだ。


 頭を撫でられたり、腰を引き寄せられたり、はたまた鼻をカプと甘噛みされたりと、ヴィンスに触れられるたびに動揺したドロテアだったけれど、人生初のキスは段違いだった。


 甘噛みされたときもそりゃあ凄い衝撃だったが、あれは狼の求愛行動、ただの習性よね! うん! と自身を落ち着かせることができた。


 けれど、キスは違う。たとえそれが頬にであったとしても。


「っ、それはヴィンス様が、その、ほっ、頬に、キスをするからじゃありませんか」

「……なら、口の方が良かったか?」

「……はい!? 冗談はやめてください……!」


 キッとつり上がったコバルトブルーの目と相反するように、これでもかと下がっていくドロテアの眉尻。

 それなのにヴィンスは薄っすらとした笑みを崩すことはない。


(ヴィンス様、絶対に分かっててわざとしてるんだわ……!)


 何故ならヴィンスは敏い。特にドロテアに関してのことならば。


 同時にヴィンスは、唇も噛み締め、頬を色付かせているドロテアに、加虐心がふつふつと湧いてくる。


 ヴィンスは背筋を丸めてドロテアの顔にぐっと自身の顔を近付けると、彼女の顎を掬ったままの手に力を入れて、もう一度無理矢理目を合わせた。


 直ぐに目を逸らそうとするドロテアに「見ないとまたキスするぞ」と甘い条件を突きつけて。


「なっ、なっ……!?」

「ふっ、やっと見たな。ドロテアが恥ずかしがって目を合わせない様子はそれはそれで可愛かったが、もうそれはしまいだ。そろそろお前の綺麗な目を見て話したい」

「〜〜っ」


 ドロテアの顔が真っ赤に染まる。そして直後、それはこれ以上ないほどの色気を孕んだヴィンスの声で、問いかけられた。


「頬へのキスは、嫌だったか?」


 顎を掬う手を解き、ドロテアのキスをした側の頬を優しく撫でながら、問うヴィンス。

 全てを悟ったような黄金の瞳に撃ち抜かれたドロテアには、黙秘も、嘘も、もちろん逃げるなんていう選択肢もありはしなかった。


「……っ、嫌じゃない、って、絶対分かってるじゃないですかぁ……!」

「ああ、ドロテアのことなら全て分かる。だがここ数日、目を合わせてもらえなかったんだ。少しくらい意地悪をしてもバチは当たらんだろう?」


 くつくつと喉を震わせるヴィンスを、ドロテアは上目遣いで見つめる。


 ──そう。目が合わせられなかった理由は、頬へのキスが恥ずかしかったから。けれど一番の理由は、それが嫌じゃないと思ってしまったから。


(私多分……もうヴィンス様のこと……)


 優秀であると認められて、見た目に対して自信も持たせてくれて、優しいところが好きだと言われて。それだけでも好きになってもおかしくないのに、一途に愛の言葉を囁かれたり、甘い意地悪をされたり、それなのに今、核心を突いてこない優しさを見せられたり。


「ヴィンス様」

「ん……? 何だ」 


 もう確実に、目の前の黒狼陛下に堕ちてしまっているのだろう。

 けれど、ドロテアはまだ、それを口に出すことはできなかった。 

 ヴィンスの愛に答えるには、生半可な覚悟では足りないのだ。


「今からはきちんと目を合わせますから、早くお耳を触らせてください。あと尻尾もお願い致します」

「流石ドロテア、切り替えが早いな。……まあ、約束だし構わんが」


 ──だから、もう少しだけ時間がほしい。ヴィンスへの思いを自覚した蕾が、大きく花咲くまで。


「……ふふ、もふもふ……気持ちが良いです……」

「本当に幸せそうだな」

「はい。本当に幸せです……もふもふ、ふふふ、もふもふ……ふふっ」

読了ありがとうございました! 


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