表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/124

2話 準備は万全で参りましょう

 

 ドロテアが侍女として働き始めたのは十二歳の頃だった。


 サフィール王国の基準で見目があまり良くないと判断された令嬢は、十二歳になると親の判断で王城へと行儀見習いとして働きに行くよう命じられるのである。


 というのも、一種の保険だ。見目のせいで結婚ができなかったときに、せめて職だけはあるようにとの配慮なのだが、それ即ち、良縁は叶わないという烙印を押されたようなものであった。  


「先程話した、急用についてなのですが」


 とはいえ、殆どの令嬢は十五歳になると行儀見習いを終え、社交界デビューを迎えるとどこかの令息と結婚する。


 ……のだけれど、ドロテアはその限りではなかった。社交界デビューは済ませたものの誰からも声はかからず、世間話でもと何人かの令息に話しかけることはしたが、暫くしたら皆顔を引き攣らせて去って行ったのだ。 


 流石にドロテアも、そこまで私の顔は酷いのかしら……とショックを受け、そのとき侍女として働かないかと声をかけてくれたロレンヌのもとで世話になっているというわけである。


「どうせまた、貴方の妹が何かやらかしたのでしょう?」

「はい。そのとおりでございます」


 ロレンヌが薬を飲んだのを確認し、ほっと息を吐いたドロテアの表情は、なんとも言えないものだった。


 前日行われた生誕祭は、聖女であるシェリーの誕生を祝うものだった。

 聖女の誕生日には国を上げて生誕祭が行われる習わしになっており、そのとき来賓として訪れていた獣人国の姫を獣臭いと言って怒らせたのがドロテアの妹、シェリーその人である。


 とはいえ、その場では事は大きくならなかったらしい。

 騒がしい生誕祭で、シェリーの声がそれほど周りに通らなかったこと。シェリーの近くにいたのは侍女や騎士たちだけで、両親が口封じに成功したこと。


 何より、獣人国の姫が『それはごめんなさいね?』と言って会場を後にしたことだ。

 彼女の護衛が怒りを露わにしそうになったのを止めたのも、姫本人らしい。同盟国ということで、大事にしないほうが良いと思ったのだろう。できた姫である。


 しかし話はそれで終わらなかった。獣人国の姫君からではなく、国王であるヴィンス・レザナードから、シェリーに対して先の件の謝罪をするよう通達が来たのである。


 公爵家に来る前に父からこの一連の話を聞いていたドロテアは、これをロレンヌに説明したのだった。


「獣人国レザナードの国王といえば、確か狼の獣人で……一部で冷酷非道だと呼ばれていなかったかしら?」


 ──獣人国レザナード。王の名は、ヴィンス・レザナード。二十五歳の若さで王の座についたが、その実力は計り知れない。


 レザナードは、様々な種類の獣人が住まう、非常に豊かな国だ。


 確か、獣人は人よりも力が十倍は強いと言われており、強靭な肉体を持っているのだとか。

 小国であるサフィール王国に敵が侵入してこないのは、ひとえに獣人たちが防衛を担ってくれているからに他ならない。


「はい。しかし同盟を破棄するだとか、突然戦争だとか言い出してこない辺り、噂もあてにならないかもしれませんが……。それに、非はこちらにありますし。とにかく、そういうわけで、私が代わりに謝罪に行くことになったのです」

「これで何度目の尻拭いかしら? まあ、個人的には、今回ばかりは貴方が行くのが正解だと思うけれど」


 シェリーの性格の悪さは、貴族たちは皆知るところである。

 それでも、聖女の称号の前では性格など些細なことであり、何か問題を起こしてもドロテアが尻拭いをしてきたことによって、問題視されたことはなかった。


「しかし、事を起こした本人が特別出向くほうが良いのでは?」

「普通ならばそうね。それに国内の貴族ならば聖女であるシェリー嬢に強く出られないし。けれど相手は他国。……で、貴方の妹の性格よ? まともに謝罪できずに余計に相手方を怒らせるだけ。それならばまだ代理としてドロテアが行くほうが勝算はあるというものよ。……ま、貴方が可哀想なのは事実だけれど」


 クスクスと笑うロレンヌは、どうやら本気で可哀想と思っているわけではないらしい。


 ドロテアがシェリーの尻拭いについて漏らすと、ロレンヌはたいていこうして笑うのだ。


「けれど大丈夫よ、ドロテアなら」

「ただの侍女には過大評価でございます。しかし、出来ることはやってみるつもりです」


 ドロテアは一介の子爵令嬢で、ただの侍女だ。親からは愛されていないし、実家のお金を自由に使うことも許されていない。

 侍女として勤めた五年分の給金は大半は()()に使ってしまっていて、それほど蓄えはない。

 正直やれることは少ないのである。


「しばらく暇をあげるから、頑張りなさいね」

「はい。三日後に発つつもりですので、おそらく十日は戻らないと思います」

「あら、直ぐに出発しないの?」

「相手方に許しを請い、それを受け入れてもらうために、出来るだけ準備をしなければと思いまして」


 もちろん、誠心誠意謝罪することは大前提として。というか、まずはそれが第一なのだけれど。


(この三日間で、念入りに調べなければ。国王陛下と、姫君について)


 獣人国については()()()詳しいドロテアだが、個人についての情報は少ないのである。


「なるほどね。獣人国が敵に回ってはサフィール国もただでは済みませんから、出来ることは私も協力するわ」

「ロレンヌ様……ありがとうございます」



 そうして、ドロテアは三日間の準備の後、獣人国レザナードへ旅立った。 


「十分足りるだろう!」と父から渡された獣人国までの交通費が全く足りず、自腹を切ることになった事実に、こんな簡単な計算も出来ないなんて……と嘆きながら。

読了ありがとうございました! 


◆お願い◆


楽しかった、面白かった、続きが読みたい!!! と思っていただけたら、読了のしるしにブクマや、↓の☆☆☆☆☆から評価をいただけると嬉しいです。今後の執筆の励みになります!

なにとぞよろしくお願いします……!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
♦聖女の妹の尻拭いを仰せつかった、ただの侍女でございます~謝罪先の獣人国で何故か黒狼陛下に求愛されました!?~②♦
5/9日に発売になります/↓画像をクリックするとAmazon様に飛びます!作画は日野原先生!キャラクター原案は氷堂れん先生!原作は私、櫻田りんです!1巻に引き続き、いや、より加速した溺愛をお楽しみくださいませ……!! 無表情

♦婚約破棄された無表情令嬢が幸せになるまで~勤務先の天然たらし騎士団長様がとろっとろに甘やかして溺愛してくるのですが!?~①3/28日に発売になります。↓画像をクリックすると公式様に飛びます!作画は倉嶋めいか先生!キャラクター原案は天城望先生!原作は私、櫻田りんです!表紙の通りとっても美麗なコミカライズになっております!無表情なヒロインと天然たらし騎士団長のイチャイチャラブコメ、ぜひお迎えください♡ 無表情 ♦妹の引き立て役だった私が冷酷辺境伯に嫁いだ結果 天然魔女は彼の偏愛に気づかない ♦

フェアリーキス ピュア様より☆4/28日☆に発売になります!紙、電子ともに発売です♡
↓画像をクリックすると公式様に飛びます!
美しい表紙と挿絵を担当してくださったのは麻先みち先生٩(♡ε♡ )۶
天然だけど実は天才!?な魔女メロリーと、冷酷と呼ばれているけれどメロリー強火担過ぎるロイドのドキドキラブコメディをぜひお楽しみください♡なろう版よりもとっても読みやすくなっている上、特典もたっぷり!なんとサイン本が当たるかもしれない!?企画も!
作者の活動報告やX(公式様や櫻田りん)で詳細はご覧くださいませ! 何卒よろしくお願いいたします〜(*^^*)♡ 魔女
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ